大西洋の海の底で、これまで知られているどの火山のでき方にも当てはまらない溶岩が見つかりました。しかも、山でもコブでもなく、驚くほど平らに広がった一枚のシートのような形で。研究チームはこの溶岩原に、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』に出てくる黒い巨竜の名をつけました——「バレリオン溶岩原」。海の底には、まだ気づかれていない種類の火山活動が、こんなふうに静かに広がっているのかもしれない、という話です。
まず名前の由来から。バレリオンは、『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場する史上最大級の黒竜の名前です。研究チームは6週間におよぶ調査航海のあいだ、船の上でこのドラマを一気見していたそうで、その流れでこの名前に落ち着きました。決め手になったのは、溶岩のサンプルから見つかった、竜のような形をしたかんらん石(オリビン=マグマが冷えるとき早い段階でできる緑色の鉱物)の結晶だったといいます。命名は遊び心たっぷりですが、肝心の「なぜここに溶岩があるのか」のほうは、そう簡単には説明がつきませんでした。
火山ができる三つの場所
火山は、地下のマントル(地殻の下にある岩石の層)の一部がとけてマグマになり、それが地表まで上がってくることで育ちます。そのマントルがとける状況として、これまで大きく三つが知られてきました。プレート(地球の表面を覆う岩の板)どうしが離れていく境界、プレートが別のプレートの下にもぐり込む沈み込み帯、そしてプレートの真ん中あたりで熱い物質が上がってくるホットスポットです。富士山は二つ目、ハワイの火山島は三つ目にあたります。
地球上の火山は、だいたいこの三つで説明がつきます。ところがバレリオン溶岩原は、このどれにも当てはまらない場所にありました。そのうえ厄介なのは、こういう溶岩がそもそも見つけにくいことです。海底の火山を探すとき、研究者はふつう「まわりより盛り上がった地形」に注目します。海底からそびえる海山(かいざん)と呼ばれる高まりです。でもバレリオンは山でもコブでもなく、ただ平らに広がっている。地形の高まりを目印に探していたら、すっぽり見落とすタイプなのです。
平らに広がる若い溶岩
研究チームがこの溶岩原を詳しく調べたのは、2017年の調査航海でした。海底の地形を測り、岩をすくい上げ、堆積物の柱(コア)を何本か抜き取りました。わかったのは、この溶岩が約360平方キロメートル——東京23区の半分より少し広いくらいの範囲——にわたって、驚くほど平らな一枚のシート状に広がっているということ。表面はガラスのようにつるりとしていて、これはマグマがさらさらと流れやすい状態で噴き出し、海水で急に冷やされたことを示しています。

年代も奇妙でした。溶岩の上と下にはさまれた貝殻を年代測定したところ、この溶岩が噴き出したのは5万年前より新しいとわかりました。ところが、その下にある海の地殻は2000万年前のもの。ずっと古い土台の上に、ぽつんと若い溶岩が乗っている格好です。
そして化学組成。これが、既存のどの分類にも収まりませんでした。研究に関わっていない西オーストラリア大学の実験岩石学者イスラ・エザド氏は、組成がとにかく妙で、予想からかけ離れている、と語っています。しかも、溶岩が噴き出したなら海底が変形してもよさそうなのに、その痕跡も見当たりません。エザド氏はこの状況を、まるで誰かが理由もなくこっそり溶岩を置いていったようだ、と表現しています。
有力な説明——沈んで戻ってきた岩の塊
では、なぜここに溶岩が現れたのか。研究チームがいまのところ最有力と見ているのは、「輝石岩(きせきがん=ピロキシナイト)」という岩の塊が関わっている、という筋書きです。
輝石岩は、もともと上部マントルにあった岩です。それが何かのきっかけで地球の深部へ沈み込み、マントルのゆっくりとした対流(長い時間をかけて循環する流れ)に乗って、ふたたび上へ運ばれてきた——というのがチームの考える流れです。輝石岩は、まわりのマントルより低い温度でとけやすい性質を持っています。だから上がってくる途中でとけて、まわりより軽いマグマのかたまりをつくり、それが最終的に海底まで届いて噴き出した、というわけです。
ただ、この説明にはまだ大きな穴があります。沈み込み帯からこれだけ離れた場所で、そんな岩の塊がどうやって深いマントルを巡ってきたのか。そこがはっきりしていないのです。
見えていなかった火山活動の可能性
もしこの見方が正しければ、話は一つの溶岩原にとどまりません。発表したファン・デル・ズワン氏(キング・アブドラ科学技術大学の地球化学者)は、これは、ありふれているのに見えていない種類の火山活動かもしれない、と話しています。
理由は、探し方にあります。さきほど触れたように、海底火山の調査は「盛り上がった地形」を目印にしてきました。平らに広がるバレリオンのような溶岩原は、その網に引っかかりません。海の底はいまも大部分が詳しく調べられていないので、同じような溶岩原が、気づかれないまま各地に広がっている可能性があります。もしそうなら、「火山はプレートの動きと結びついている」という長年の前提に、例外を書き足すことになるかもしれません。
解釈上の留意点
この研究は、まだ論文として学術誌に載ったものではありません。カナダのモントリオールで開かれた地球化学の国際会議「ゴールドシュミット会議」での発表として報告された、途中段階の成果です。この先、査読(さどく=専門家による審査)を経て正式に発表されるまでは、内容が変わる余地があります。
説明のほうも、あくまで「いまのところ最有力」という段階にとどまります。輝石岩の塊がどうやって深部を巡ってきたのかは未解決のままですし、この種の火山活動が実際どれくらい広がっているのかもわかっていません。名前のインパクトが先に立ちやすいネタですが、中身は「常識に合わない溶岩が見つかり、その理由をこれから探っていく」という、まさに途中経過として受け止めておくのがよさそうです。
出典・もっと知りたい人へ
Science(AAAS):James Dinneen, “Undersea lava flows named after Game of Thrones dragon may reveal a new type of volcanism”(2026年7月15日)
https://www.science.org/content/article/undersea-lava-flows-named-after-game-thrones-dragon-may-reveal-new-type-volcanism
※本文の閲覧には購読が必要な場合があります。カナダ・モントリオールで開かれたゴールドシュミット会議での発表にもとづく報道です。


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