北欧の北極圏に、1万本規模のアンテナを敷き詰めた巨大なレーダーが立ち上がりつつあります。ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの3か所に分かれて置かれ、上空の大気とオーロラのふるまいを立体的にとらえることを目指す装置——名前を「EISCAT_3D(アイスキャット・スリーディー)」といいます。2026年の夏に本格的な観測を始めるとされ、Science誌のニュースでも取り上げられました。

どんなレーダーなのか
中心になるのは、ノルウェー北部のスキボテン(Skibotn)に置かれた「コアサイト」です。ここに約1万本の小さなアンテナが敷き詰められ、電波を送信し、跳ね返ってきた電波を受信します。アンテナ群の差し渡しはおよそ90メートル。そこから100〜150kmほど離れたスウェーデンとフィンランドにも受信専用のサイトが置かれ、3か所が連携して一つの装置として働きます。
従来のレーダーは、お椀型の反射鏡(パラボラアンテナ)を機械で動かして向きを変えるのが一般的でした。EISCAT_3Dはそれと違い、多数のアンテナから出す電波のタイミングを電子的に制御して、ビームの向きを瞬時に切り替える「フェーズドアレイ」方式です。空のあちこちへ電波を振り分けられるので、広い範囲を短い時間で見渡せます。使う電波は233MHz帯です。
「3Dで見る」とはどういうことか
このレーダーが直接測るのは、上空の電離圏——電気を帯びた大気の層——に漂う自由電子です。電波を当てると、電子にぶつかったごく弱い散乱波が返ってきます。これを拾って解析する手法を「インコヒーレント散乱(非干渉性散乱)」と呼びます。返ってきた電波の性質から、電子の密度や温度、プラズマがどう動いているか、といった値が読み取れます。
これまでのEISCATレーダーは、基本的に一本のビームに沿った「線」の情報を取るものでした。EISCAT_3Dは複数のビームを同時に形づくれるので、ある空間の広がりを面として、さらに立体として描けます。観測の速さも細かさも、これまでのおよそ10倍とされています。オーロラのように刻々と形を変える現象を、動きごと立体でとらえられる点が、この装置の新しさです。
なぜオーロラと宇宙天気なのか
オーロラは、太陽から飛んできた荷電粒子が地球の磁場に導かれて大気に突入し、上空の酸素や窒素を光らせることで現れます。その粒子が飛び込む舞台が、まさに電離圏です。EISCAT_3Dは、粒子が入ってきたときに電離圏がどう反応するのかを、細かく追いかけられます。
同じ太陽からの擾乱は、まとめて「宇宙天気」と呼ばれます。強い太陽風や磁気嵐は、GPSの位置精度を狂わせたり、人工衛星の動作や地上の送電網に影響を与えたりします。電離圏がどう乱れるかを立体で測れるようになれば、こうした宇宙天気の予報を組み立てるための材料が増えます。オーロラの観測と、生活に関わるインフラの守りが、同じ装置の上でつながっているわけです。
日本もかかわる国際プロジェクト
EISCAT(欧州非干渉性散乱科学協会)は、1975年に発足した国際組織です。ノルウェー・スウェーデン・フィンランドを中心に、イギリス・日本・中国などが参加しています。日本は1996年から加わっていて、EISCAT_3Dでは送信機まわりの開発などで貢献してきました。
遠い北欧に建つ装置ですが、日本の研究者も観測に関わります。北極圏の空で測ったデータが、国境をまたいだ研究者たちのあいだで共有され、使われていきます。
どこまで進んでいるか(留意点)
段階を追って広げていく計画です。いま動き出そうとしているのは、3サイトからなる第1段階です。将来はさらに受信サイトを増やし、送信の出力も引き上げていく構想があります。2026年の夏に観測が始まるとされていますが、設計上の性能をすべて出し切るのはこれからで、いきなり完成形が立ち上がるわけではありません。
測っているのは「オーロラの光そのもの」ではありません。可視光のカーテンを写真のように撮る装置ではなく、電波を使ってオーロラの背後にある電離圏のプラズマの構造を測ります。光学カメラの映像とは別の種類のデータで、だからこそ肉眼では見えない部分まで踏み込める、という位置づけです。
「立体で測れる初のレーダー」という言い方には幅を持たせて読むのがよさそうです。この種の立体的なインコヒーレント散乱レーダーとしては先駆けとされますが、装置が動き始めた段階と、そこから何かを解き明かした段階は別ものです。EISCAT_3Dは「謎を解いた」装置ではなく、これから謎に挑むための観測基盤、と受け止めておくのが実際に近いはずです。
出典・もっと知りたい人へ
- EISCAT公式:EISCAT_3Dの設計と科学(英語)
- ESA 宇宙天気サービス:EISCAT_3Dの活用(英語)
- Science「Scandinavian radar array will probe mysteries of the northern lights」(Richard Stone、2026年7月)


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