10年以上ものあいだ、望遠鏡の画像のなかにちゃんと写っていたのに、誰にも気づかれずにいた惑星がある。ベータ・ピクトリスという星のまわりで新しく見つかった、3つ目の惑星「ベータ・ピクトリスd」だ。地上の望遠鏡で直接その姿をとらえた系外惑星(太陽以外の星をまわる惑星)のなかで、いちばん暗い——研究チームはそう報告している。論文は2026年7月15日付で、天文学の専門誌『The Astrophysical Journal Letters』に載った。
ベータ・ピクトリスという系の素性
ベータ・ピクトリスは、地球から63光年の距離にある若い星だ。まわりには惑星の材料になる塵(ちり)やかけらでできた円盤(デブリ円盤)が広がっていて、いままさに惑星が生まれつつある現場として、天文学者のあいだでは昔からよく知られた「有名どころ」の系である。
ここにはすでに2つの惑星が見つかっていた。ベータ・ピクトリスbとc。どちらも木星の10倍ほどの重さがあるガス惑星(岩ではなく、主にガスでできた大きな惑星)で、星の比較的近くを回っている。今回の主役dは、その2つに続く3人目の兄弟という位置づけになる。
新たに見つかった3番目の惑星
ベータ・ピクトリスdも、bやcと同じガス惑星だ。ただ、性格はだいぶ違う。重さは木星の2.4倍ほどで、10倍あった兄2つに比べるとぐっと軽い。地上の望遠鏡が直接すがたをとらえた惑星のなかでも、かなり軽いほうに入る。
そして、回っている場所が遠い。bやcよりずっと外側の軌道にいて、報じられているところでは、太陽系でいう海王星くらいの距離を、およそ90年ほどかけて一周する。星から遠いぶん冷えていて、その冷たさが「暗さ」に直結している。星のまばゆい光のすぐそばで、みずからはほとんど光らない——だから見つけにくかった。

偶然の発見と10年分のアーカイブ
おもしろいのは、この惑星が「探していて見つかった」わけではないところだ。研究チームはもともと、すでに知られていた惑星bが時間とともにどう変わるかを詳しく見ようとしていた。ところが画像を調べていると、bとは別の場所に、なにか別のものが写っている。「そこに何かいるぞ、見えるか?」——共同主導者の一人はそう口にしたと振り返っている。
この手の「あやしい光の点」は、ノイズ(画像のちらつき)で、詳しく処理すると消えてしまうことが多い。だからチームは、過去にヨーロッパ南天天文台(ESO)の望遠鏡でとられた観測記録(アーカイブ)をさかのぼって、同じ点が写っていないかを確かめた。すると、最大で11年前の画像にまで、その惑星は写っていた。別の装置でとられた画像や、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の記録にも見つかった。「ずっとデータのなかに隠れていた」というわけだ。
この発見は、ESOの超大型望遠鏡(VLT)のERISという装置を使った、サトリフさんとボンセさんのチームによるもの。ほぼ同じ時期に、アメリカの別のチームがJWSTを使って独立に同じ惑星を見つけていて、そちらの論文も同じ日に出ている。2つの望遠鏡が、別々に同じ答えにたどり着いた形だ。
「最も暗い」が指すもの
直接撮像(ちょくせつさつぞう)というのは、惑星そのものの光を写真のように直接撮る方法のことだ。じつは、これまで確認された6000個以上の系外惑星のうち、この方法で見つかったものは100個に満たない。ほとんどは、惑星が星の前を横切るときのわずかな減光から間接的に見つけている。星の光はあまりに強く、そのそばにある小さな惑星の光はかき消されてしまうからだ。
だから、ベータ・ピクトリスbの100分の1という暗さの惑星を直接とらえられたこと自体が、技術的には大きな一歩になる。ただし、この「最も暗い」には正確な但し書きがある。ここでいう暗さは、距離が遠いせいで暗く見える、という意味ではない。距離の効果を差し引いたうえで、惑星そのものが小さくて冷たいために本来暗い——その「もともとの暗さ」で比べて、直接撮像された系外惑星のなかで一番、という話だ。見かけの明るさではなく、惑星自身の性質としての暗さ、と押さえておくと正確だ。

塵の円盤の謎と今後の観測
今回の発見で、この系が持っていたひとつの謎にも説明がついた。ベータ・ピクトリスをとりまく塵の円盤は、以前から少し変わった形をしていることが知られていた。じつは、dの重さと位置が、その円盤の形をちょうどうまく説明できる値になっている。「見えていなかった惑星が円盤をこう歪めていたのでは」という予想に、実物がぴたりと当てはまった格好だ。
もうひとつ意義が大きいのは、ベータ・ピクトリスが「3つ以上の惑星を直接撮像できた」2例目の系になったこと。1例目はHR 8799という系だった。同じ星のまわりで生まれた複数の惑星を並べて見比べられる系は、惑星がどう育つのかを調べるうえで貴重で、研究者は「聖杯」と呼ぶほど珍しい。
そして、この発見の仕方そのものにも先がある。「見つけ方がわかったので過去のデータを見直したら、写っていた」というやり方は、ほかの系にも使えるかもしれない。研究チームは、望遠鏡のアーカイブにはまだ気づかれていない惑星が眠っている可能性があるとみている。建設が進むESOの超大型望遠鏡(ELT)のような、より高性能な装置が加われば、いま隠れている軽い惑星がさらにあぶり出されていくだろう。
解釈上の留意点
この研究は査読を経て専門誌に掲載されたもので、プレプリント(査読前の速報)ではない。とはいえ、惑星の重さや軌道といった数値は、この段階での見積もりだ。とくに軌道は、90年ほどかけて一周するほど周期が長いため、全体像をつかむには今後の観測を積み重ねる必要がある。数字は今後さらに精密になっていくと考えておくのがよい。
「最も暗い」の限定は前述のとおりで、距離を補正した本来の暗さ(絶対的な明るさ)での比較である点は、読み違えないようにしたい。また、ここで扱っているのは地上の望遠鏡による直接撮像という枠のなかでの記録であって、あらゆる観測手法をまたいだ話ではない。
出典
研究の詳細やプレスリリースは、以下から確認できる。
- ESO プレスリリース:Faintest planet ever imaged from Earth found after more than 10 years of hide-and-seek
- 論文(The Astrophysical Journal Letters, DOI):Direct Imaging Discovery of Giant Exoplanet β Pictoris d: A Decade-Long Game of Hide-and-Seek


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