サルも「不気味の谷」を感じていた——アカゲザルが半端にリアルな“体”を避ける

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リアルすぎて逆に気持ち悪い——ロボットやCGの顔にそんな「ゾワッ」を感じたことはないでしょうか。これは「不気味の谷(うすきみのたに)」と呼ばれる、長く知られた現象です。そしてこの感覚、どうやら人間だけのものではないらしい。アカゲザルも、中途半端にリアルなサルの3Dアバターを前にすると、同じように目をそらす傾向がある——そんな研究が発表されました。

しかも今回わかったのは「顔」ではなく「体」の話です。ここが新しいところなので、順番に見ていきます。

「不気味の谷」という現象

「不気味の谷」は、半世紀ほど前に日本のロボット工学者・森政弘(もり まさひろ)が言い出した言葉です。ロボットやCGの人物が、リアルになればなるほど好感度が上がっていくのに、「本物にかなり近いけれど、どこか少し違う」というところまで来ると、急に好感度が落ちて不気味に感じられる。この落ち込みを谷にたとえて、こう呼びます。近すぎず遠すぎない、その中間だけがなぜか嫌われる、というわけです。

長らく気になっていたのは、この反応が人間特有のものなのか、それとももっと古い、動物にも共通する仕組みなのか、という点でした。実はサルの「顔」については、2009年の時点で不気味の谷に近い反応が報告されています。今回の研究がそこに付け加えたのは、「顔だけでなく、全身の姿でも同じことが起きる」という部分です。

今回の研究でわかったこと

研究チームは、アカゲザルの動きを再現した3DのCGアバターを作り、そのリアルさを何段階にも変えて本物のサルに見せました。すると、いちばんリアルなアバターと、いかにも作り物のアバターにはよく目を向けるのに、その中間——「そこそこリアルだけど、どこか変」なアバターには、注視する回数が減ったのです。

好感度をグラフにするとちょうどU字型に落ち込む。この形が、人間で言われてきた不気味の谷とそっくりでした。つまり、ほぼ本物に見えるのに完璧ではない姿に対して、サルもまた居心地の悪さのような反応を示していた、ということになります。

実験の方法

この研究の土台になったのが、チームが新しく開発した「MacAction」というツールです。人間のCGを作るときは、体に反射マーカーを付けてモーションキャプチャする方法が定番ですが、サルにマーカーを付けて動いてもらうのは現実的ではありません。そこでMacActionは、複数のカメラで撮った映像から、マーカーなしでディープラーニングを使って全身の3Dアバターを組み立てます。

まず確かめたのは、そのアバターがどれだけ本物らしいか。オスのアカゲザル8頭(5〜7歳)に、本物のサルの映像と、同じ動きをするアバターの映像を見せ、どこを・どのくらい・何回見たかを測りました。すると、本物とアバターへの見方に差が出ませんでした。サルたちはアバターを、本物とほぼ区別せずに受け入れていたわけです。

そのうえで、アバターから毛・色・質感を順番にはぎ取り、リアルさを段階的に落としていきました。そうして「本物そっくり」から「いかにも作り物」までの見え方をそろえ、それぞれにサルがどう反応するかを比べた結果が、さきほどのU字型でした。

この結果が示すこと

ひとつは、不気味の谷が人間だけの感覚ではなさそうだ、ということです。顔に続いて全身でも同じ反応が見つかったことで、この感覚は進化的にもっと古い根を持つのかもしれない、という見方に一歩近づきます。サルと人間で、社会的なものの見え方が似た性質を持っている、という手がかりでもあります。

もうひとつは、実用面です。アカゲザルは脳や行動の研究でよく使われますが、これまでサルのCGアバターは質がまちまちで、実験の再現性を保ちにくいという悩みがありました。MacActionのように限られた手間でリアルな全身アバターを作れれば、姿勢や動きを自在に操りながら「サルが何にどう反応するか」を調べる、といった新しい実験がやりやすくなります。

解釈上の留意点

おもしろい結果ですが、受け取り方には少し慎重になりたいところです。

まず、被験体はオスのアカゲザル8頭と、数としては小規模です。測っているのも「どこをどれだけ見たか」という注視のふるまいで、そこから好き嫌いや不快感を読み取っているぶん、あくまで間接的な指標です。

また、サルの不気味の谷をめぐっては、これまでの研究で結果が割れてきた経緯があります。効果があったとする報告もあれば、はっきりした効果は見られなかったとする報告もあり、「サルも確かに感じる」と言い切れるほど決着した話ではありません。今回の研究はその議論に有力な材料を足したものですが、これで確定、というわけではない点は押さえておきたいところです。

「進化的に古い」という説明も、今の段階では有力な推測です。今回わかったのはあくまで、全身アバターでもU字型の反応が出た、ということ。その先の「なぜそう進化したのか」までは、これからの検証を待つ話になります。なお今回の論文は査読を経てオープンアクセス誌に掲載されたもので、誰でも本文を読めます。

出典・参考

論文(オープンアクセス):Martini LM, Bognár A, Vogels R, Giese MA (2026) Realistic monkey body animation reveals an uncanny valley in macaque body perception. PLOS Biology 24(7): e3003880.

プレスリリース:Uncanny valley effect observed in macaques through 3D animated monkey avatars(EurekAlert! / PLOS)

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