乾いた空気からでも水を絞り出す多孔質材料、工場で作れる段階へ

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暑くて乾いた土地でも、空気そのものから飲み水を取り出す——そんな材料を、ドイツのチームが「工場で作れる量」まで一気に増やせることを示しました。実験室でほんの数グラム作れるだけだった多孔質の材料を、まとめて30キログラム。しかも1キログラムあたり12〜14ドルという現実的なコストで、です。研究として一番の山場は、じつはこの「量産できるかどうか」のところにあります。

乾いた空気を水源にするという発想

地中海沿岸のように、これから気温が上がり雨が減っていくと見られる地域では、水をどう確保するかが切実な問題になります。そこで注目されているのが、川でも井戸でもなく、空気に含まれる水分を水源にするという考え方です。

空気中には、目に見えないだけで水蒸気がいつも漂っています。それを集めて液体の水に戻せれば、雨の少ない土地でも水が得られる。今回の主役は、その「集める」役目を担う材料です。

スポンジのように水を吸う多孔質材料

使われたのは、キール大学(正式名称クリスティアン・アルブレヒト大学)の無機化学研究所が開発した CAU-10-H という材料です。金属有機構造体(きんぞくゆうきこうぞうたい、略してMOF=Metal-Organic Framework)と呼ばれる種類のひとつで、内部が目に見えないほど細かい穴だらけになっています。

この無数の穴が、まるでスポンジのように空気中の水蒸気を素早く吸い込み、そしてまた素早く手放す。MOFはこの「吸って放す」を得意とする材料で、その基礎になる化学は2025年のノーベル化学賞の対象にもなっています。名前の「CAU」は大学のドイツ語名の頭文字、「10」は大学の化合物カタログでの番号、「H」は骨組みに使った水素系のグループを指しています。

湿度18%から水を捕まえ、70度で手放す

空気から水を取る材料はいくつもありますが、多くはある程度しめった空気でないとうまく働きません。CAU-10-Hが面白いのは、相対湿度が18%を超えれば、常温のまま水分を捕まえ始める点です。ほかの多くの仕組みなら「乾きすぎていて相手にならない」と切り捨てる条件でも動く、ということです。

捕まえた水を取り出すのも手間がかかりません。材料を約70度まで温めれば、吸い込んだ水を放してくれます。この温度なら、電気ヒーターに頼らなくても、太陽の熱や工場から出る廃熱でまかなえます。さらに研究チームが電気を通す炭素の構造と組み合わせたところ、吸って放すの一巡が数時間で回り、連続して運転できるようになりました。

1キログラムで1日1.8リットルという見込み

肝心の取水量です。乾いた空気の条件で、CAU-10-Hは材料1グラムあたり最大0.17グラムの水を捕まえます。これを積み上げると、材料1キログラムあたり1日およそ1.8リットルの水が得られる見込みだと研究チームは説明しています。ニュースの見出しでは「2リットル」と紹介されることもありますが、これは端数を丸めた数字で、論文が示しているのは1.8リットルのほうです。

この材料にはもうひとつ使い道があります。空気を冷やす「吸着式冷却」の乾燥剤としても働き、長年その用途で使われてきたシリカゲルの3倍の性能を出したとのこと。データセンターやパン工場のオーブンから漏れてくるような廃熱を使って、エアコンの電気を増やさずに空間を冷やす——そんな使い方が視野に入ります。

グラムからキログラムへ、量産という関門

研究チーム自身が強調しているのは、材料そのものの化学より「実際に使える量まで作れるかどうか」です。CAU-10-Hが最初に見つかったのは約15年前で、それ以来ずっと世界中で応用が探られてきました。ただ、有望な材料の多くは、グラム単位の実験からキログラム単位の量産へ移るところでつまずいてしまいます。

今回チームは、大学の助成を受けて約30キログラムの材料を作ることに成功しました。これまでの実験室での一回分と比べて、およそ60倍の量です。コストは1キログラムあたり12〜14ドルの見積もり。「実験室で動くだけでなく、採算の合う規模で作れることを示せた」と、開発を率いるノルベルト・シュトック教授は述べています。量産のめどと値段がついた、というのが今回の一番のニュースです。

留意点

期待できる話ですが、数字の読み方には少し注意が要ります。今回の1日1.8リットルという値は、実験室の条件で測った「材料そのもの」の性能から見積もったもので、ファンや熱交換器を備えた実際の装置がまるごと1日にどれだけ水を作れるか、という数字とは別ものです。空気から水を作る装置は世の中にすでにありますが、装置単位の取水量と材料単位の取水量は前提が違うため、単純に横並びで比べることはできません。

また、空気から水を取る材料の性能を比べるための共通のものさしは、まだ定まっていません。たとえば同じ2026年には、捕まえた水を約50度・3分ほどで放すことに重きを置いた別の材料も報告されていますが、こちらは「速さ」を優先した設計で、一度にためられる水の量を狙ったCAU-10-Hとは目指す方向が違います。どちらが上と一言では言えない、という段階です。次の関門は、実験室の外での実地テストで、そこでラボの数字が再現できるかどうかがこれから問われます。

出典

研究成果は査読を経た2本の論文として公開されています。あわせて、きっかけになったニュース記事とキール大学の発表もどうぞ。

論文(Journal of Materials Chemistry A, 2026/DOI: 10.1039/d6ta00544f)

論文(Industrial & Engineering Chemistry Research, 2026/DOI: 10.1021/acs.iecr.5c05308)

Porous composite pulls 2 liters of water from air, and is factory ready(New Atlas)

キール大学プレスリリース

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