地球の温暖化が、この10年で「速くなっている」——それが統計のうえではっきり確認された、という研究が発表されました。気温が上がり続けていること自体はよく知られていますが、そのペースまで上がったのかどうかは、これまで数字のうえで言い切れずにいました。今回、自然のゆらぎを差し引いて見ると、2015年ごろから温暖化のスピードがほぼ倍になっていた——それが98%を超える確からしさで示された、というのが要点です。米国の統計家グラント・フォスター氏と、ドイツ・ポツダム気候影響研究所のシュテファン・ラームストルフ氏による研究で、米国地球物理学連合(AGU)の学術誌に載りました。
これまで「加速」と言い切れなかった理由
1970年代から、地球の平均気温はだいたい10年で0.2℃くらいのペースで、わりと一定に上がってきました。ところがここ数年、記録的に暑い年が続いたことから、「温暖化のペース自体が上がったのでは?」という議論が出てきます。
ただ、これを数字で確かめるのは簡単ではありませんでした。気温は、長い目で見た温暖化の流れとは別に、短い期間で上下に揺れます。その揺れをつくる代表格が、太平洋の海面水温が周期的に変わるエルニーニョ、大きな火山の噴火、そして太陽の活動の変化です。こうした自然の要因が”ノイズ”になって、肝心の「ペースが変わったのか」という信号を覆い隠してしまう。だからたとえ最近の数年が暑くても、それが加速なのか、たまたまの揺れなのか、統計的には判断がつかずにいました。
実際、過去にも似たことがありました。1998年の強いエルニーニョのあと、「温暖化は止まった(あるいは鈍った)のでは」という話が広まったことがあります。このときも、自然のゆらぎを差し引いて見れば”停滞”は統計的には意味のないものだった——そう示したのが、じつは今回の研究と同じ著者たちでした。今回は同じ考え方を、逆向きの「加速したのか」という問いに向けたわけです。
ノイズを引くと見えた倍増

やり方はシンプルです。エルニーニョ・火山・太陽活動という3つの自然要因が気温に与える影響をそれぞれ見積もり、観測データから引き算する。残るのは、揺れをならしたあとの”本当の温暖化の信号”です。使ったのはNASAやNOAAなど、世界で広く使われている5つの気温データセット。ノイズを減らせば、その分だけ底に流れている長期の傾向がくっきり見えてきます。
すると、2015年ごろを境に、温暖化のペースがおよそ0.35℃/10年へと、それまでの2倍近くに上がっていました。しかもこの結果は、5つのデータセットのどれでも、分析の手法を変えても、98%を超える確からしさで一致したといいます。分析には観測史上もっとも暑かった2023年と2024年も含まれていますが、その2年のエルニーニョの影響を差し引いてもなお、加速は消えませんでした。つまり「最近たまたま暑い年が続いただけ」では説明しきれない上昇が、確かに残ったということです。
気温の加速を、統計的な確からしさをもって示せたのは今回が初めて——と研究チームは述べています。加速そのものは以前から予想はされていて、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示してきた温暖化シナリオともおおむね整合します。ただ、ラームストルフ氏によれば、これほどはっきりした加速は「少し予想外」でもあるそうです。
2030年より前の1.5℃
このペースがこのまま続くと何が起きるか。研究チームは、パリ協定が歯止めの目安としてきた「産業革命前から1.5℃」のラインを、2030年より前に超えうると見積もっています。従来の見通しより数年早い計算です。ラームストルフ氏は、直近の10年がたまたま極端だった(外れ値だった)なら話は変わるとしつつ、「2030年はもう4年後。今のペースが長く続く必要すらなく、1.5℃を超えてしまう」と話しています。
加速の原因はまだ確定していない
では、なぜ2015年ごろから加速したのか。ここははっきり決着していません。研究チームが有力候補として挙げるのは、大気中の汚染物質——エアロゾル(空気中に漂う細かい粒)が減ったことです。化石燃料を燃やすと出るこうした粒は、太陽の光をさえぎったり雲を明るくしたりして、じつは温暖化の一部を”日傘”のように覆い隠してきました。ところが2000年代初めから各地で大気汚染対策が進み、粒が減ったぶん覆いが薄くなって、隠れていた温暖化が表に出てきた——という見立てです。気候モデルがこの効果を十分に織り込めていない可能性がある、といいます。
ただしこれは「大気汚染を減らすのをやめればいい」という話ではありません。エアロゾルは人の健康に害があるので、あえて残すべきものではない、と研究者も明言しています。加速がこの先も続くかどうかは、結局のところ、化石燃料からの二酸化炭素の排出をどれだけ早くゼロに近づけられるかにかかっている——それが研究チームの締めくくりです。
受け止めるときの留意点
いくつか、そのまま受け取る前に押さえておきたい点があります。
まず、「統計的に有意」という言葉は、「この加速はまず偶然では説明できない」という意味であって、特定のモデルが正しいと証明された、という意味ではありません。論文の中でも、温暖化の”ペースの推移”を描くのに複数の統計モデルを当てていて、どのモデルを使うかで曲線の形は違って見えます。確かに言えるのは「加速している」というところまでで、その細かい形まで確定したわけではない、という距離感で読むのが正確です。
それから、原因(エアロゾル説)はあくまで有力候補で、確定ではありません。今回の10年が長い変動の中の一時的な山だった可能性も、研究者自身が排除していません。加速という事実は堅いものの、この先どうなるかは今後の観測しだい、という段階です。危機をあおる話としてではなく、「ペースが上がったことが、数字のうえでも確認できた」という一歩として受け取るのがよさそうです。
出典・もっと知りたい人へ
論文(Geophysical Research Letters、オープンアクセスで全文読めます):Global Warming Has Accelerated Significantly(DOI: 10.1029/2025GL118804)
AGU(米国地球物理学連合)のプレスリリース:In a first, researchers confirm global warming has accelerated in last decade
ポツダム気候影響研究所(PIK)の発表(EurekAlert!):Significant acceleration of global warming since 2015


コメント