アメリカ・ニュージャージー州の民家で、屋根と寝室の天井を突き破って落ちてきた石があります。分析してみると、それは太陽系ができたころの姿をとどめた珍しい隕石で、しかもアミノ酸や有機物――生きものの体をつくる材料につながる分子――を含んでいました。しかも、その材料は「塩水のあった小惑星」の上で作られたらしい、という話です。
昼間の空を裂いた火球と、寝室の天井
落ちてきたのは2024年7月16日の昼下がり。ニューヨーク上空を火の玉(火球)が横切り、自由の女神のすぐ南あたりを通ったときに衝撃波の音(ソニックブーム)が街を揺らしました。大気圏に飛び込んできたのは、重い機内持ち込みバッグくらいの大きさ、重さおよそ50キロの岩です。もろい石だったため落ちながら砕け、最終的に回収できたのは、家に当たって割れた1個(約1キロ、2ポンド超)だけでした。
その1個が落ちたのが、ヒルズボロという町の一軒家でした。家主は「大きな音がして、寝室の天井に穴が開いていた。強い硫黄のようなにおいがして、黒いかけらや黒い粉がベッドやカーペットに散らばっていた」と当時のようすを語っています。
ここで効いたのが、家主のとっさの判断でした。使い捨ての手袋をはめてかけらを拾い、アルミホイルで包んでガラス瓶に入れ、現場も記録したのです。この種の隕石(炭素質コンドライト=炭素をふくむ原始的な隕石)は、空気中の水分をどんどん吸ってしまう性質があります。素手でさわれば手の脂や湿気で汚染されてしまうところを、家主がそれを防いだおかげで、標本はとてもきれいな状態で残りました。研究チームは「彼のすばやい対応のおかげで、このタイプとしては知られている中でいちばん状態のいい隕石になった」と話しています。

分析でわかった「塩水のあった小惑星」のかけら
拾い集められたかけらは、NASAジョンソン宇宙センターの隕石学者マイク・ゾレンスキーさんらのもとで詳しく調べられました。「ヒルズボロ隕石」と名づけられたこの石は、CM型と呼ばれる原始的な炭素質コンドライトの仲間でした(Mは、1889年にウクライナに落ちたミゲイ隕石にちなむ記号です)。
ただ、ふつうのCM型より水の影響を強く受けた跡があり、CM2とCM1の中間にあたる「CM1/2」という珍しい分類になりました。落下が目撃されたCM型は今回で22例目ですが、そのうちCM1/2はまだ2例目です(1例目は2020年にインドネシア・北スマトラに落ちたコラン隕石)。それだけ手に入りにくいタイプだということです。
いちばんおもしろいのは、石の中から小さな塩の多いかけらが見つかったこと。これは、もとの小惑星の表面近くで、液体の水が蒸発して塩が濃く煮詰まったような場所からやってきた、と考えられます。つまりこの石は、かつて塩水(ブライン=塩分の濃い水)があった小惑星の、表面近くのかけらだというわけです。あの硫黄のにおいも、その化学の名残でした。研究チームはこれを「ある意味、生命の大気の始まりのにおいをかいでいるようなものだ」と表現しています。
さらに、水に溶けやすい有機物(ソリュブル有機化合物)が幅広く見つかり、その中にはタンパク質のもとになるアミノ酸も多く含まれていました。分析からは、これらのアミノ酸は地球に落ちたあとに付いたものではなく、もとの小惑星の上で、塩水の化学に助けられて作られたらしい、と見られています。石には重さの1.8%の炭素と0.07%の窒素が含まれ、その炭素・窒素の同位体(重さの違う原子のタイプ)の割合も、CM型らしい典型的なものでした。
玄関カメラが助けた軌道の割り出し
この研究のもうひとつの見どころが、石が落ちてくる「前」の情報の集め方です。ニューヨーク、ニュージャージー、コネチカット、ロードアイランド、ペンシルベニアの60人が「火球を見た」と報告し、16人が衝撃波を感じました。さらに、コネチカットやペンシルベニアに設置されたカメラ、そしてニュージャージーの民家の玄関ドアベルカメラが火球をとらえていて、その映像から飛んできた道すじが測定できました。
火球は高度約35キロで見えなくなりましたが、その直後、ニューアーク空港のドップラー気象レーダーが、砕けながら降る小石の長い帯をとらえていました。帯はスタテン島からニュージャージーへと伸び、いちばん大きな石が落ちたその末端が、ヒルズボロだったのです。これらを組み合わせて、秒速14.4キロ(時速3万2千キロ)という速さと、飛んできた方向がわかり、小惑星帯の内側の低いあたりから来たものだと突き止められました。研究者は「もし近くで隕石が落ちたと聞いたら、ドライブレコーダーや防犯カメラ、スマホの映像を確認してほしい」とも呼びかけています。何気ない映像が、宇宙から来た石の正体を解く手がかりになるかもしれない、というわけです。
生命の材料を運ぶ配達便という見立て
塩水がなぜそんなに大事なのか。濃い塩水(ブライン)は、生命に欠かせないリン酸を水に溶けたまま保ったり、有機物どうしの化学反応を後押ししたりできると考えられています。地球の生命は、こうした隕石が運んできた鉱物や分子から始まったのではないか――そんな説が以前からあり、状態のよい「塩水のあった小惑星」のかけらは、その筋書きの空白を埋める材料になりえます。実際、NASAゴダード宇宙飛行センターの研究チームは、CM型のような天体が運んだアミノ酸などの有機分子が、地球で生命が生まれる前の「材料のストック」に加わったのかもしれない、と結論づけています。
似た話は、探査機が持ち帰った小惑星サンプルでも出ています。JAXAのはやぶさ2が小惑星リュウグウから、NASAのオサイリス・レックスが小惑星ベンヌから持ち帰った試料でも、表面のすぐ下に塩水があった証拠が見つかっていました。研究チームは、ヒルズボロ隕石の中の塩の鉱物を特定して、これらの持ち帰りサンプルと比べようとしています。わざわざ探査機を送って回収してくる試料と近いものが、今回はたまたま民家の屋根から「配達」されてきた、というのがこの話のおもしろさです。かけらの一部は、ニューヨークのアメリカ自然史博物館で保管・展示される予定です。
「材料」と「生命」の距離
ここは冷静にいきたいところです。見つかったのはあくまでアミノ酸や有機物という「材料」であって、生命そのものでも、宇宙で生命が見つかったという話でもありません。「生命につながりうる分子が、地球ができるより前の小惑星の上ですでに用意されていたらしい」――今回言えるのは、ここまでです。
研究チーム自身も慎重です。石の中で見つかったマグネシウムを含む有機化合物についても、塩水の化学で作られたのか、それとも過去に小惑星がぶつかったときの衝撃で残ったものなのか、まだ区別がついていないと明かしています。塩水が本当に生命の材料づくりを後押ししたのかどうかは、塩の鉱物の特定や、持ち帰りサンプルとの比較など、これから地道に確かめていく先の話になりそうです。査読を経てScience Advances誌に載った研究ですが、「小惑星の上で何が起きたか」の全体像が固まったわけではない、という距離感で読むのがちょうどよさそうです。
出典・参考リンク
元論文(Science Advances/査読ずみ・オープンアクセス):DOI 10.1126/sciadv.ea2105
Space.com:Meteorite that crashed through New Jersey house could hold the clues to life’s origins



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