博物館の骨格標本を掃除する、体長5センチの新しい「職人」

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博物館に並ぶ動物の骨格標本は、どれも骨だけがきれいに残っている。見慣れた光景だが、あそこまでの状態にするには、誰かがどこかで肉を落としている。そして多くの博物館で、その仕事を実際に引き受けているのは人ではなく虫だ。カツオブシムシの仲間である。

その担当に別の虫を推す論文が、7月1日付でオープンアクセス誌の PLOS One に載った。イランのフェルドウスィー大学マシュハド校を中心とするチームが試したのは、ペットショップで爬虫類や小鳥の餌として売られている「スーパーワーム」——ツヤケシオオゴミムシダマシの幼虫だ。

きっかけは偶然だったという。チームはもともと、保護した野鳥に与えるためにこの幼虫を飼っていた。餌はふだん野菜くずだが、ある日それを切らして、昼食で残った鶏の骨を代わりに入れてみた。骨に残っていた肉が消える速さに驚いたことから、この研究は始まっている。

骨格標本の準備工程

動物の死体から骨格標本をつくるとき、いちばん手間がかかるのが「除肉(じょにく)」——骨に付いた筋肉や腱、脂を落とす工程だ。ここで失敗すると取り返しがつかない。骨は熱や薬品で簡単に歪むし、割れる。歯が抜け落ちて、どこに何本あったのか分からなくなることもある。標本の科学的な価値は、この段階でほぼ決まってしまう。

今回の論文は、その比較対象として煮沸法も並行して試している。マダライタチ1体を90分煮て手で肉を外したところ、肋骨がゆがんで胸のかたちが崩れた。速いかわりに、失うものがある。

従来法が抱える弱点

薬品に漬ける、土に埋める、酵素で溶かす——どれも古くから使われてきたが、細い骨を傷める、時間がかかる、廃液の処理が要る、といった問題がついて回る。そこで近年の主流になったのが、生き物に食べさせるやり方だ。ロンドン自然史博物館、スミソニアン国立自然史博物館、バーク自然史文化博物館など、名の知られた館の多くがカツオブシムシ(デルメスティド)のコロニーを飼っている。虫は骨を傷つけずに、器具の届かない隙間の肉まで取ってくれる。

ただし、この方法には構造的な弱点がある。カツオブシムシのコロニーには、卵から幼虫、サナギ、成虫までの全ステージが同居している。つまり、いつでも成虫が生まれて飛び立てる状態にある。逃げ出した成虫が収蔵庫にもぐり込めば、毛皮や羽根といったケラチン質を食い荒らす。標本に気づかれないまま卵を産みつけられることもある。博物館にとっては、除肉のために飼っている虫が、そのまま収蔵品の害虫になりうるという厄介な事情だ。だからコロニーは密閉されたガラスや金属の部屋に隔離して管理される。場所も人手も要る。

幼虫のまま使い切れるという利点

研究チームがスーパーワームに目を付けた理由は、実は速さよりもこちらにある。この虫は、密集した状態ではサナギにならない。変態するには1匹ずつ隔離される必要があり、大勢で押し合っている限り、幼虫のまま何か月も過ごす。成虫が出てこないということは、逃げ出す成虫も、産みつけられる卵も、原理的に発生しないということだ。

仮に成虫になっても、翅はあるがほとんど飛ばない。チームが長年飼育してきた観察では、飛ぼうとするのは強いストレスがかかったときだけで、それも短く弱い動きに終わる。しかも成虫は腐りかけた有機物を好み、毛や羽根は食べない。カツオブシムシの成虫とは、逃げたあとの危険度が違う。

つまりこれは「速い虫を見つけた」という話ではなく、博物館の収蔵庫を荒らさない虫を見つけたという話だ。カツオブシムシに厳重な隔離設備が要るのは、逃げると困るからである。その前提が要らなくなれば、予算も場所も人手も足りない小さな施設でも同じことができる。

体が大きいことも効いている。カツオブシムシの幼虫が1センチ台なのに対し、スーパーワームは4〜5センチ、大きいものは6センチを超える。アゴもそのぶん強く、筋肉が厚く残った標本にも歯が立つ。幼虫でいる期間も10〜12週と、カツオブシムシの5〜7週より長い。よく食べる時期が長く続くということでもある。

8種の標本での試験結果

チームが試したのは8種。ハツカネズミ、エジプトルーセットオオコウモリ、ヒメヨシゴイ、ワシミミズク、ミヤマガラス、アリゲーターガー、ヨーロッパヤマネコ、ハイイロオオカミ。いちばん小さいものは10グラムほど、いちばん大きいのは下ごしらえを終えた時点で4.2キロあったオオカミだ。

結果は、小さいものなら数時間、大きいものでも数日で除肉が終わった。ズキンガラスの例では、容器に入れて8時間で肉の大半が消え、12時間で骨だけになっている。届きにくい頭の内側の隙間まできれいになり、アリゲーターガーのような細い骨の集まりでできた魚の骨格も、崩れずに残った。

量の最適点とトレードオフ

ここからが、この研究のいちばんおもしろい部分だ。幼虫を増やせば増やすほど作業は速く終わる。ただし、速すぎると骨まで食われる。

実際、幼虫の量が突出して多かった2例——ハツカネズミとエジプトルーセットオオコウモリ——では、薄い頭骨や肋骨の一部が欠けたり、食われてなくなったりした。コウモリでは眼窩の下の頬骨が折れ、頭骨の裏側にも表面が削られた跡が残っている。逆に量を抑えたヒメヨシゴイでは損傷は出なかったが、そのぶん時間がかかった。

上の図の左側が、幼虫が多すぎた場合に起きることだ。何度か条件を振って、チームが折り合いどころとして提案しているのが標本1グラムあたり幼虫10〜15グラムという比率になる。匹数ではなく重さの比で、100グラムの標本なら1〜1.5キロの幼虫、という計算だ。実験では40×30×12センチの容器に約700グラムずつ幼虫を入れ、標本の重さを変えることでこの比率を振っている。

この比率をあらためて小鳥の頭骨3点に当てはめたところ、いずれも損傷なしできれいに仕上がった。中型・大型の標本では、そもそも比率が低めだったこともあり、損傷は観察されていない。

前処理と運用の実際

「容器に入れれば終わり」ではない点は、押さえておいたほうがいい。標本はまず皮を剥ぎ、内臓と余分な肉を取り除く。中型以上はさらに80℃の湯で組織をやわらかくする——中型で20〜30分、大型で30〜45分。大きな標本は容器に入りきらないので、いくつかに分けることになる。

幼虫の側にも段取りがある。使う24時間前から絶食させて食欲を高め、6〜8時間ごとに標本を新しい容器へ移して、常に空腹の個体に当たるようにする。標本が乾いて硬くなったら、いったん取り出して湯で5〜10分ふやかしてから戻す。暗いほうが活発なので、光もできるだけ遮る。かなり手のかかる作業だ。

掃除が終わったあとの幼虫は、野菜や果物の皮を与えて休ませる。肉ばかり食べさせ続けると脱皮に支障が出たり、死亡率が上がったりするためだ。この点はカツオブシムシと違う。手入れをしながら密集状態で飼っておけば、同じ幼虫を半年近く使い回せるという(アラエイ・カフキ氏がNPRの取材に答えたもの)。チームの飼育規模は成虫800〜1000匹ほどで、そこから月に3.5キロの幼虫が採れている。

なお論文には、除肉後に1%の次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)に短時間漬ける工程が書かれているが、著者ら自身が「所属博物館の慣行に従っただけで、推奨はしない」と明記している。骨を傷めるおそれがあるためで、どうしても白くしたいならレモンと重曹のような穏やかな方法を、と付け加えている。

解釈上の留意点

著者らは、この方法で既存のやり方を置き換えるつもりはないとはっきり述べている。どの方法にも得意不得意があり、標本の種類と研究の目的によって最適解は変わる——というのが本人たちの立場だ。「カツオブシムシは時代遅れ」という話ではない。

試したのは8種で、規模としては小さい。小型で脆い標本では実際に骨が欠けており、「骨を傷めない」は比率を守った場合の話だという点は落とせない。また、カツオブシムシ法と条件をそろえて速さを比べた実験はこの論文に含まれていない。論文が並行して行ったのは煮沸法との比較である。

半年使い回せるという数字は論文本文ではなくインタビューでの発言で、論文が挙げる幼虫期の長さは10〜12週。密集飼育でサナギ化を抑えることで実務上は延びる、という理解になる。比率についても、論文の考察部分には「1グラムあたり10〜15匹」と読める書き方が混ざっているが、プレスリリースと実験設定からは重量比で間違いない。

最後にひとつ。スーパーワームは日本のペットショップでも普通に手に入るが、中南米原産で日本には自然分布しない外来の虫だ。1990年ごろに餌用として持ち込まれたもので、野外に逃がしていい生き物ではない。これは設備の整った博物館が管理下で行う手順であって、家庭で真似する種類の話ではない。学名も少しややこしく、論文が使う Zophobas morioZophobas atratus の新参異名にあたる。正式には後者だが、文献では前者が今も広く使われている。

出典

Rastekar F, Alaei Kakhki N, Aliabadian M, Monfared M (2026) A practical and safe alternative method for skeletal cleaning for museum specimens using superworms (Zophobas morio). PLoS One 21(7): e0349669.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0349669(オープンアクセス。全文が無料で読めます)

PLOS プレスリリース(EurekAlert!)
Superworms might be the future of skeleton cleaning

Smithsonian Magazine(2026年8月5日)
Flesh-Eating ‘Superworms’ Could Become a New Skeleton-Cleaning Crew for Museum and Research Specimens

Science(2026年7月1日)
These flesh-eating ‘superworms’ can clean a skeleton in hours

Live Science(著者へのメール取材)
‘Superworms’ can clean extremely delicate skeletons lickety-split

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