生まれたばかりの星は、両極から細長いガスの流れを勢いよく噴き出しています。この噴出流に巻きつく磁場を、チリの電波望遠鏡ALMA(アルマ望遠鏡)が数百天文単位というスケールで初めて詳細にとらえた、という報告がありました。研究を率いたのは、米国立電波天文台(NRAO)と台湾・国立清華大学に所属するタオチュン・チン(Tao-Chung Ching)氏。論文は2026年8月11日、Nature Communicationsに掲載されました。査読済みで、誰でも無料で全文を読めるオープンアクセスの論文です。
対象となったのは、ペルセウス座の方向、およそ960光年先の分子雲にあるNGC 1333 IRAS 4Aという天体。生まれてまもない2つの原始星(生まれたての星の赤ちゃん)が寄り添う、若い連星系です。

生まれたての星が噴き出すガスの流れ
星は、ガスと塵の雲が自らの重力で縮んでいくことで生まれます。縮んでいく物質は星の周りに回転する円盤(降着円盤)をつくり、星はそこから物質を吸い込んで成長していきます。
ところが、ここにひとつ問題があります。円盤の中の物質は勢いよく回転しているので、そのままでは遠心力が邪魔をして、なかなか星に落ちていけません。フィギュアスケートの選手が腕を縮めると回転が速くなるのと同じで、物質が中心に近づくほど回転はどんどん速くなってしまうからです。星が育つには、この回転の勢い(角運動量)をどこかへ捨てる仕組みが必要になります。
その捨て場所と考えられているのが、両極からの噴出です。若い星の極からは、細く絞られた高速のジェットと、それを包むように広がるやや遅めの流れ(アウトフロー)が噴き出していて、これが回転の勢いを外へ運び去ることで、残りの物質が星へ落ちていけるようになる。つまり噴出流は、星が育つための排気口のような存在です。
ただ、長年よく分からないことがありました。極から噴き出したガスが、なぜあれほど細く絞られ、あれほど速く加速されるのか、という点です。
回転がねじる磁場という理論
これを説明する有力な理論が、数十年前から存在していました。磁気遠心力モデルと呼ばれる考え方です。名前は硬いですが、中身は意外と日常の言葉で説明できます。
まず、円盤からは磁力線が流れに沿って縦に伸びています(この縦向きの成分をポロイダル磁場と呼びます)。ガスはこの磁力線に導かれて円盤から飛び出していきます。ところが円盤は高速で回転しているので、磁力線は根元からぐるぐるとねじられ、流れに巻きつくドーナツ状の形に変わっていきます。この巻きついた成分がトロイダル磁場です。そして巻きついた磁力線は、輪ゴムのようにガスの流れを外から締め上げ、細く絞り込みながら加速する——というのがこのモデルの筋書きです。
理論としてはよくできていて、多くの研究者がおおむねこの絵を支持してきました。問題は、肝心の「巻きついた磁場」を誰も観測で確かめられていなかったことです。
じつは手がかりは古くからありました。今回のIRAS 4Aでは、噴出流からの電波にわずかな偏り(偏光)があることが1999年の時点で検出されています。電波の波の振れる向きの偏りは、その場の磁場の向きを反映するため、磁場を探る手がかりになるのです。チン氏自身も2016年に別の電波望遠鏡でこの天体を調べ、「磁場はらせん状に巻いているらしい」というところまで迫っていました。ただ、当時の解像度では、磁場が本当に流れに巻きついているのか、それとも流れに沿って縦に走っているだけなのかを見分けられませんでした。理論の核心である「巻きつき」は、ずっと未確認のままだったのです。
ALMAがとらえた巻きつく磁場
研究チームは、従来より約30倍も鋭いALMAの解像度で、IRAS 4Aの噴出流から届く一酸化炭素分子の電波の偏光を測定しました。信号は全体のわずか0.5%ほどという微弱なもので、これを数百天文単位(1天文単位は太陽と地球の間の距離)というスケールで地図にしていきます。ちなみに観測データ自体は2016年11月に取得されたもので、この結論にたどり着くまでにおよそ10年がかりの解析だったことになります。
浮かび上がった磁場の姿は、はっきりしていました。磁場はガスの流れの軸に対してほぼ垂直、つまり流れに対して横向きに巻きついていたのです。しかもその向きは、噴出流自身の回転の向きとぴったり揃っていました。円盤の回転にねじられた磁力線が流れに巻きつく——理論が数十年前から紙の上に描いてきた絵が、そのままの姿で観測に現れたわけです。
チン氏は、目に見えない磁場の漏斗をALMAがついにとらえたことで、太陽のような星の誕生と強力なジェットの噴出をめぐる長年の理論が裏づけられた、と発表の中で述べています。共著者のジョセップ・ミケル・ジラール氏(スペイン宇宙科学研究所)は、この天体が20年前から理論どおりの磁場に導かれた収縮を示す「教科書のような存在」だったことにも触れています。実際、IRAS 4Aは磁場研究の定番天体で、周囲を包む砂時計形の磁場は2006年にScience誌で報告されていました。今回はその内側、噴出流そのものの磁場に、ようやく手が届いたことになります。
数ミリガウスの磁場が担う役割
測定された磁場の強さは0.3〜6ミリガウス、おおざっぱに言えば数ミリガウスでした。1ミリガウスは1ガウスの1000分の1。地球の地表の磁場が0.25〜0.65ガウスほどなので、その100分の1程度という、とても弱い磁場です。
それでも、この場所ではこの弱さで十分だというのが論文の見積もりです。ガスの密度をもとに計算すると、磁場がガスを押し上げる加速は、星の重力による引き戻しの約100倍。磁場がガスを締めつける圧力も、ガス自身の熱による圧力の約100倍に達していました。つまりこの数百天文単位のスケールでは、ガスの流れを支配しているのは重力でも熱でもなく、あの弱々しい磁場だということになります。
研究チームはさらに、磁場のねじれ具合とガス中を流れる電流の間に、電磁気学の基本法則(アンペールの法則)どおりの比例関係が成り立っていることも見いだしました。これは星が生まれる現場の磁場の向きを推定する新しい手段になりうるもので、思わぬ副産物といえます。
同じ「回転する円盤と磁場がジェットを絞る」という仕組みは、生まれたての星だけでなく、銀河の中心にある超大質量ブラックホールの噴出にも働いていると考えられています。今回の結果は、宇宙のあちこちで見られる噴出流の共通の土台を、いちばん身近な星の誕生現場で確かめたことになります。
一方で、まだ分かっていないこともあります。磁場が流れに巻きついていることは確かめられたものの、時計回りに巻いているのか反時計回りなのかは、今回の手法では決められませんでした。また、これほどトロイダル成分が強い磁場は、理論上は流れを不安定にしてしまう可能性も指摘されており、この噴出流がなぜ安定を保っているのかの検証も続きます。研究チームは、磁場の向きを直接測れる別の観測手法で、続きを確かめていく考えです。
出典
論文(査読済み・オープンアクセス):Unveiling dominant toroidal magnetic fields in a protostellar outflow(Nature Communications)
研究機関の発表:Twisted Physics: Astronomers Solve 30-Year-Old Stellar Mystery(NRAO)
解説記事:Astronomers Finally See the Twisted Magnetic Fields That Drive Protostar Jets(Universe Today)


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