110歳を超えた人の血液には、がんを殺す免疫細胞が4倍いた——大阪大学が調べた超長寿者の免疫

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110歳を超えて生きる人の血液には、がん細胞を殺せる珍しい免疫細胞が、ふつうの高齢者の4倍以上ふくまれていた——そんな研究結果を、大阪大学蛋白質研究所の橋本浩介准教授らのチームが発表しました。日本の超長寿者から直接採血して調べたもので、論文は2026年8月19日、科学誌Cell Reportsに掲載されています。

110歳以上という研究対象

110歳を超えて生きる人は「超長寿者(スーパーセンテナリアン)」と呼ばれます。100歳を超える百寿者でさえ珍しいのに、そこからさらに10年生きた人たちです。世界的に見ても数はごくわずかで、世界でもっとも長寿の国である日本ですら、110歳以上の人は約150人しかいません。

超長寿者が注目されるのは、単に長く生きているからではありません。心臓病・認知症・がんといった、高齢期に増える病気を寄せつけないまま歳を重ねる傾向があるからです。つまり「長生き」というより「健康なまま長生き」のお手本のような人たちで、その体の中で何が起きているのかが分かれば、みんなが健康に歳をとるためのヒントになるかもしれない、と期待されています。

ただ、これほど希少だと研究そのものが難しくなります。今回の研究に参加したのは28人。内訳は70〜90代が8人、100〜109歳の百寿者が10人、110歳以上の超長寿者が10人です。人数だけ見ると小さな研究ですが、国内に約150人しかいない超長寿者を10人集めたと考えると、むしろ貴重なデータと言えます。

がん細胞を殺すCD4キラーT細胞

チームが注目したのは、CD4陽性細胞傷害性T細胞(CD4 CTL)という免疫細胞です。名前は長いですが、要するに「がん細胞やウイルスに感染した細胞を見つけて殺す、キラータイプのT細胞」です。以下、CD4キラーT細胞と呼びます。

T細胞にはもともと、司令塔として指示を出すタイプ(CD4)と、実際に敵を殺しにいくタイプ(CD8)という大まかな分業があります。CD4キラーT細胞はその分業から外れた変わり者で、司令塔の目印を持ちながら、自分で殺しにいく能力もあわせ持っています。ふだんは全T細胞の5%未満しかいない少数派ですが、ウイルス感染のときに現れることが知られていて、近年は肺がんやメラノーマ(皮膚がんの一種)のがん細胞を殺せるという証拠も増えてきました。

実はこのチーム、2019年にも超長寿者7人の血液を1細胞ずつ解析して、この珍しい細胞が超長寿者では際立って多いことを突き止めていました。ただそのときは、いつから増えるのかまでは分かりませんでした。今回の研究は、70代から110歳超まで年代を並べて、その答えを探したものです。

100歳前後で始まる免疫の変化

結果は、きれいな階段状になりました。CD4キラーT細胞が全T細胞に占める割合は、70〜90代で4%。ふつうの値です。それが100〜109歳の百寿者ではおよそ10%に増え、110歳以上の超長寿者ではおよそ18%——70〜90代の4倍以上に達していました。増え始めるのは100歳前後。この変化は、超長寿者だけの特徴ではなく、100歳の壁を越えたあたりから始まっているようなのです。

ここで意外なのは、増えているという事実そのものです。免疫の研究では長いあいだ、「歳をとれば免疫は衰える」が大前提でした。免疫の老化に関する研究のほとんどは、何がどう衰えていくかを調べるものだったのです。ところが今回見つかったのは、衰えの記録ではありませんでした。100歳を超えた体の中で、特定の免疫細胞が選ばれて増えていく——橋本氏は「超高齢になっても、免疫システムは選択的に適応し続けているのかもしれない」と述べています。

特定の敵に狙いを定めた増え方

しかも、増え方がでたらめではありませんでした。

T細胞は1個1個が異なる「受容体」というセンサーを持っていて、それぞれ違う敵に反応するようにできています。ある1個のT細胞が自分の担当の敵に出会うと、その細胞は自分のコピーを大量に作って攻撃部隊を編成します。これをクローン増殖といいます。つまり、同じコピーの細胞がたくさん見つかったら、それは体が特定の敵と戦ってきた跡なのです。

百寿者と超長寿者のCD4キラーT細胞を調べると、まさにその跡が見つかりました。ある百寿者の検体では、53.8%もの細胞が互いに同一のコピーでした。半分以上が、たった1個の細胞から増えた攻撃部隊だったことになります。何か特定のしつこい敵に対して、免疫が長年戦い続けてきたことをうかがわせる結果です。

では、その敵は何なのか。チームは、増えていた細胞の受容体の配列を、世界中の患者から集めた受容体のデータベースと突き合わせました。すると、約30個の配列が、がん患者で報告されている受容体と一致しました。中でも多かったのは肺がん患者との一致です。興味深いことに、今回の参加者は誰ひとり、がんを経験していませんでした。がんになる前の、ごく早い段階の異常な細胞に免疫が反応していた可能性——チームはそう推測していますが、この点はまだ証明されていない、と明言しています。

解釈上の留意点

ここまで読むと「この細胞が多いから、がんにならず長生きできた」と言いたくなりますが、その一歩手前で止まる必要があります。今回の研究が示したのは、超長寿者にこの細胞が多いという相関関係だけです。この細胞のおかげで長生きしたのか、それとも長生きした結果としてこの細胞が増えたのかは、区別できていません。研究チーム自身も、CD4キラーT細胞ががんを防いでいるとも、長寿の原因だとも証明されていない、と繰り返し断っています。

ほかにも分かっていないことは残っています。今回調べたのは血液中を流れている細胞だけなので、この細胞が実際にどの組織に入り込んで、そこで何をしているのかは不明です。28人という人数の少なさ、参加者が日本人に限られている点も、結果を一般化するうえでの限界です。チームは次の段階として、この細胞が人の組織の中でどうふるまうのかを調べる予定だといいます。

それでも、この研究が見せてくれた景色は新鮮です。免疫は衰える一方だと思われてきた超高齢の体の中で、がんに関わるかもしれない敵に狙いを定めて、免疫が静かに適応を続けていたかもしれない。長寿研究の主戦場が「何が衰えるか」から「何が適応するか」へ広がっていく、その入り口に立つような結果でした。

出典

Hashimoto, K. et al. “CD4 CTLs in supercentenarians: Signs of adaptive expansion in healthy aging” Cell Reports (2026)
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2026.117728

Katherine Bourzac “How do people live beyond 110? Abundance of cancer-killing cells might be key” Nature News(2026年8月19日)
https://www.nature.com/articles/d41586-026-02587-1

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