20年越しの答え合わせ――正体不明の電波信号を出していた連星「J17」

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夜空のどこかから、数分から数時間おきに、規則正しく電波が届く場所があります。最初の兆候が見つかったのは2005年。それから20年、この信号を出している天体の正体は分からないままでした。

その謎に、ひとつ答えが出ました。シドニー大学の大学院生 Kovi Rose 氏を筆頭とする研究チームが、正体不明だった信号源のひとつを観測し尽くし、「白色矮星と赤色矮星が約80分で回り合う連星」であることを突き止めたのです。論文は2026年6月、Nature Astronomy に掲載されました。

面白いのは、信号の周期の作られ方です。この明滅は、天体が自分でくるくる回ることで生まれているのではありませんでした。

20年間正体不明だった信号源

この種の信号源は「長周期電波トランジェント(LPT)」と呼ばれています。届く電波には、はっきりした特徴があります。波の向きがきれいにそろっていて(偏光)、レーザーのように波の足並みもそろっている。しかも数分から数時間の周期で、規則正しく繰り返す。自然現象のノイズとは明らかに違う、「何かの天体が仕組みを持って出している」電波です。これまでに見つかったのは十数個ほどしかありません。

規則正しく電波を明滅させる天体といえば、パルサーがよく知られています。パルサーは高速で自転する中性子星で、磁極から出る電波のビームが灯台の光のように地球を周期的に照らします。ただしその周期は、速いもので千分の1秒、遅くても数秒ほど。数分から数時間というLPTの周期は、桁が違いすぎるのです。

そこで研究者たちは2つの説を立てていました。ひとつは、極端に強い磁場を持つ中性子星「マグネター」が、何らかの理由でゆっくり自転しているという説。もうひとつは、白色矮星が相手の星と短い周期で回り合っている連星だという説です。近年見つかったLPTには白色矮星の連星らしきものもあったのですが、電波を生み出す肝心の仕組みまでは、はっきりしていませんでした。

3百万天体からたどり着いた1つの連星

今回の主役は、ASKAP J174508.9-505149 という天体です(研究チームは「J17」と略しています)。オーストラリアの電波望遠鏡 ASKAP による約300万天体の掃天観測データから、波の向きが円を描くようにそろった珍しい電波源だけを絞り込むと、約100個が残りました。そのうち正体につながる既知の天体が見当たらなかったのは、J17ただひとつ。そこからチームの追跡が始まりました。

電波望遠鏡での監視に加えて、可視光の望遠鏡で光の成分を細かく調べると、水素とヘリウムの特徴的な輝きが見つかりました。これは「激変星」――強い磁場を持つ白色矮星が、すぐそばの相手の星からガスを吸い込んでいる連星――に典型的なサインです。さらにX線でも、電波と同じ周期の明滅が確認されました。

白色矮星というのは、太陽のような星が燃え尽きたあとに残る芯です。J17の白色矮星は、大きさは地球ほどしかないのに、質量は太陽の8割ほどと見積もられています。角砂糖1個分で1トンにもなる、ぎゅっと詰まった星です。相棒の赤色矮星は、太陽の10分の1ほどの軽い星。この2つが、太陽の半径よりも近い距離――間隔にして太陽半径の6割ほど――で、約80分に1周のペースで互いのまわりを回っています。太陽1個の中にすっぽり収まる世界で、2つの星が1時間ちょっとごとに回り合っているのです。

自転ではなく公転が刻む周期

ここが今回の発見のいちばん面白いところです。分光観測から求めた連星の公転周期は約1.37時間。電波パルスの周期は1.345時間。X線の明滅も約1.3時間。すべてがぴたりと一致しました。つまり、20年間謎だったあの規則正しい明滅は、天体が自分で回転するリズムではなく、2つの星が互いのまわりを回るリズムがそのまま電波の周期になっていたのです。

共著者のウィスコンシン大学ミルウォーキー校 David Kaplan 教授は、この明滅は自転ではなく軌道運動から来ていると考えている、と説明しています。80分で1周するには、2つの星はとても小さく、とても近くになければならない。実際、あまりに近いために片方の星から物質がこぼれ出し、もう片方に降り注いでいる――その痕跡が観測に表れていて、100年にわたって研究されてきた激変星という種族に、この天体をしっかり結びつけたのだそうです。

パルサーの周期が「1つの星の自転」だとすれば、J17の周期は「2つの星のダンス」。似たような規則正しい信号でも、生まれ方がまるで違っていたわけです。

電波とX線の別々の出どころ

もうひとつ、観測から見えてきた大事な切り分けがあります。X線は、赤色矮星からこぼれたガスが白色矮星に落ちて降り積もり(降着といいます)、高温になった場所から出ています。ところが電波のほうは、その降着の現場から出ているのではありません。2つの星の磁場が触れ合い、絡み合う領域から生まれていると考えられるのです。

その証拠のひとつが、タイミングのずれです。電波とX線はどちらも同じ約1.3時間の周期で明滅するのに、ピークの位相がそろいません。Rose氏は、どちらの信号も連星の軌道運動に結びついているものの、ピークが一致しないことから、系の中の別々の場所で作られていることが分かる、と述べています。

さらに興味深いおまけもありました。J17の電波には、木星とその衛星イオの間で生じる電波にしか見つかっていなかった、細かい縞模様のような強度の揺らぎが確認されたのです。木星ではイオが木星の磁場をかき乱すことでこの模様が生まれます。似た模様がJ17にも出ているということは、ここでも磁場とプラズマ(電気を帯びたガス)の相互作用が電波作りの主役であることを示唆しています。

残りの信号への手がかり

今回の結果で、「少なくとも一部のLPTは、物質を吸い込んでいる激変星である」ことがはっきりしました。共著者のシドニー大学 Tara Murphy 教授によれば、連星と関連づけられたLPTはこれまでにもあったものの、2つの星と降着の現場までまとめてはっきり捉えられたのは今回が初めてとのことです。

Rose氏はJ17を、古代文字の解読の鍵になったロゼッタストーンにたとえています。仕組みがここまで分かった実例がひとつあれば、他のLPTの信号と見比べて、それが白色矮星の連星タイプなのか、それともパルサーに近い何かなのかを見分ける物差しになるからです。

ただし、十数個あるLPTのすべてが同じ正体だと決まったわけではありません。中にはマグネターのような別の天体が混ざっている可能性も残っています。研究チーム自身、この仕組みでLPT全体を説明できるかどうかは、詳しい理論計算と、新しいLPTの発見・追跡観測にかかっていると締めくくっています。謎の電波信号というと、つい派手な想像が膨らみがちですが、電波・可視光・X線と地道に観測を積み重ねれば、こうやって正体は割れていく。20年越しの答え合わせの、これが最初の1問目です。

解釈上の留意点

今回の論文は査読を経て掲載済みで、誰でも全文を読めるオープンアクセスです。そのうえで、受け取り方に注意したい点がいくつかあります。

まず、正体が確定したのはJ17という1天体についてです。論文も「少なくとも一部のLPTは降着する激変星」という書き方をしており、LPT全体の謎が解けたわけではありません。また「初めて正体を特定した」という表現は研究チーム(大学の発表)によるもので、厳密には「連星の2つの星と降着の様子までそろって確認できた初の例」という意味合いです。

数値にも仮定が含まれます。白色矮星の質量「太陽の8割ほど」は直接の測定値ではなく、激変星の白色矮星の平均値を当てはめたものです。赤色矮星の質量と半径も、相手に物質を渡せるぎりぎりまで膨らんでいるという標準的な仮定から計算した推定値です。J17までの距離は約1300光年から約3万光年までと幅があり、まだ絞り込めていません(論文は、この幅があっても結論には影響しないとしています)。電波を生む具体的なメカニズムとして提案されている電子サイクロトロンメーザーという仕組みも、観測をよく説明するモデルではあるものの、確定ではなく今後の検証課題です。

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