きのこの仲間から作る革、幅20センチ×8メートルの連続シートに

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菌から作った「革」が、幅20センチ、長さ8メートルの連続シートになりました。フィンランド技術研究センター(VTT)の研究チームが製法を発表し、実際にこの素材を縫い合わせてハンドバッグの試作品まで作っています。論文は2026年6月に学術誌『ACS Applied Bio Materials』に掲載され、8月に米国化学会がプレスリリースを出しました。

菌で革を作る話自体は、じつは新しくありません。今回のニュースの中心は素材そのものではなく、「作り方」のほうにあります。しかもその作り方が、革とはまったく縁のなさそうな、ある産業の技術とそっくりなのです。

「ヴィーガンレザー」の多くはプラスチック

まず前提から整理します。動物の革を使わない「ヴィーガンレザー」と呼ばれる素材は、すでに世の中にあふれています。ただ、その多くはポリウレタンなどの合成樹脂——つまりプラスチックです。動物を使わないという問題は解決できても、石油由来でリサイクルが難しいという別の問題を抱えています。

そこで注目されてきたのが、菌糸体(きんしたい)です。菌糸体は、きのこの傘の下に広がる、糸状の細い繊維のネットワークのこと。この繊維が絡み合ってできるシートは革に似た質感を持ち、しかも生き物由来なので土に還ります。

従来の作り方は、トレイの中で菌を育てて、繊維が自然に絡み合ってシート状になるのを待つというものでした。原理としては成立するのですが、この方法では一枚ずつ「育てて待つ」しかなく、大量生産に向きません。

VTTのチームは数年前、菌糸体のシートを毎分1メートルの速さで連続的に作る製法を開発していました。速度の面では量産に近づいたものの、今度は素材の質が壁になります。バッグや靴として日常的に使うには、強さと耐久性が足りなかったのです。

シートに「育てる」のをやめた発想転換

今回の研究で、チームは順番を変えました。菌をシートの形に育てるのではなく、いったんドロドロのパルプにしてから、シートに加工するのです。

手順はこうです。まず、トリコデルマ・リーゼイという菌を、栄養豊富な液体に沈めてタンクの中で育てます。使うのはビールの醸造に使うようなタンクです。液体の中で育った菌は、シートではなく、繊維の詰まったどろりとした塊になります。

この塊を回収して洗い、2つの材料を混ぜます。ひとつはソルビトール。食品や化粧品によく使われる糖アルコールで、素材を柔らかくし、パリパリと割れにくくします。もうひとつはセルロース。植物の細胞壁を作っている繊維で、こちらは強度を受け持ちます。柔らかさと強さを、それぞれ別の材料で足すわけです。

そして仕上げに、この混ぜ合わせたパルプを薄く延ばして乾かし、シートにします。

紙を漉く機械で革を作る

ここがこの研究のいちばん面白いところです。「繊維をパルプにして、薄く延ばして、乾かす」——この工程、紙の作り方とほぼ同じなのです。

実際、シートを連続的に作るために使われたのは、製紙業で使われているものとよく似たローラー装置でした。これで幅およそ20センチ、長さ8メートルの連続シートを作ることに成功しています。フィンランドは製紙業の国ですから、紙の技術の蓄積がそのまま生きた形です。

この点は、量産を考えるうえで大きな意味を持ちます。まったく新しい専用設備を開発するのではなく、バイオテクノロジーや印刷の業界ですでに普通に使われている機器で作れるからです。設備投資という量産化の大きな壁が、最初から低くなっています。

パルプを経由する作り方には、もうひとつ利点がありました。混ぜる段階で色を加えたり、質感を調整したり、綿の布に重ねたりと、仕上がりをコントロールしやすいのです。試作されたハンドバッグも、黒く染めた生地から縫われています。

強さと分解の速さ、そして残る課題

できあがった素材は、実験室での試験で従来の革に匹敵する強度と耐久性を示しました。

一方で、使い終わったあとの分解は速いままです。水中での試験では28日以内に77%が生分解し、産業用の堆肥化条件なら6週間ほどで完全に崩れました。丈夫さと土に還る速さは普通は両立しにくいので、この組み合わせは素材として大きな売りになります。

ただし、課題も残っています。研究チーム自身が認めているのは、引き裂きへの強さです。引っ張りには強くても、切れ目から裂ける力にはまだ弱く、量産に進む前に改善が必要とされています。

また、幅20センチというサイズは、量産の入り口としては画期的でも、革製品の材料としてはまだ細めです。大きなバッグや靴を作るには、継ぎ合わせの工夫が要るでしょう。水中で速く分解するという性質も、裏を返せば濡れる場面での耐久性が問われるということです。雨の日に使えるのかどうかは、今後の検証を待つことになります。

それでも、「菌を育てて、紙のように漉いて、革を作る」という道筋が、実験室のサンプルサイズを超えて動き始めたのは確かです。夢の素材の発表で終わらず、既存の産業機械で作れるところまで具体化してきた点に、この研究の実力が表れています。

出典:New Atlas「Plastic-free vegan leather sees production-scale breakthrough」(2026年8月22日)/論文:Production of Mycelium-Based Nonwoven Fabrics via Submerged Fermentation(ACS Applied Bio Materials, 2026)

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