40年前の核実験が、地球の「外核」に浮かぶ何かを映し出した

スポンサーリンク

地球のいちばん深いところについて、少し意外な報告がありました。バージニア工科大学の地球物理学者イン・ジョウ(Ying Zhou)氏が、1977年から1995年にかけて南太平洋で行われたフランスの地下核実験の地震記録を解析したところ、地球の中心を包む「外核(がいかく)」の中で、何かが動いている痕跡が見つかったというのです。論文は地球科学の専門誌 Journal of Geophysical Research: Solid Earth に2026年に掲載されました。

兵器のために起こした爆発の記録が、40年ほどたったいま、地球の中身をのぞく観測データとして使われた——そんな研究です。

地震波だけが頼りの地球深部

まず前提から。地球の中心には金属の核があり、内側の「内核」は固体、その外側を包む「外核」は溶けた液体の金属です。外核が始まるのは深さおよそ2,900キロ。人類が掘った最も深い穴でも12キロほどですから、直接見に行く手段はありません。

それでも中身が分かっているのは、地震波のおかげです。大きな地震の揺れは地球の内部を通り抜けて反対側まで届きます。その波がどの経路を、どれくらいの速さで伝わったかを世界中の観測点で記録し、突き合わせることで、「この深さには固いものがある」「ここは液体らしい」と推し量ってきました。内核と外核の存在自体、この方法で明らかになったものです。

ただ、この方法には昔から弱点がありました。自然の地震は、起きる場所も深さも規模もばらばらです。つまり「まったく同じ場所から出た波を、時間をおいてもう一度測る」ということができません。定点カメラのない監視のようなもので、外核の中身が年単位で変化しているのかどうかは、確かめようがなかったのです。過去にも時代の離れた地震どうしを比べる試みはありましたが、震源の位置の誤差と本物の変化を切り分けるのが難しいという問題を抱えていました。

同じ場所でくり返された112組の爆発

ジョウ氏が目をつけたのが、フランスが南太平洋のムルロア環礁で行った地下核実験でした。核実験は自然の地震と違い、ほぼ同じ場所で、日時も分かった状態で、何度もくり返されています。人工の震源として見れば、これ以上ない「定点」です。

同氏は1977年から1995年までの実験の中から、爆心の位置が0.05度(距離にしておよそ5キロ)以内に収まる組み合わせを112組選び出しました。それらの爆発が生んだ地震波は地球の内部を通り抜け、はるか北のカザフスタンにある観測点で記録されています。ムルロアからカザフスタンへ——ほぼ同じ経路を通った波を、18年分そろえて比べられることになります。

もし外核の中身がずっと変わっていないなら、波が伝わる時間も毎回同じはずです。ところが、結果はそうなりませんでした。

18年間でぶれていた波の到達時間

外核を通り抜けた波の到達時間は、1977年を基準にすると、1982〜83年には約0.1秒速く、1988〜90年には約0.15秒速くなり、そして1995年には逆に0.15〜0.2秒ほど遅くなっていました。数千キロを伝わってきた波にとって、コンマ数秒のずれは誤差では片づかない大きさです。波の通り道にある物質が、この十数年のあいだに入れ替わったり動いたりしたことを示しています。

解析の過程でジョウ氏は、これまで報告のなかったタイプの地震波も見つけ、「PKrKP」と名づけました。地球を貫く波の多くは内核まで届いてから戻ってきますが、この波は外核の途中で反射して戻ってくるという変わった振る舞いをします。おかげで、波の旅路のうち「外核の中で何が起きたか」だけを切り出して調べられるようになりました。マントル(核の外側の岩石の層)だけを通る別の波と比べることで、時間のずれの原因が浅い場所ではなく外核にあることも絞り込んでいます。

では、何が動いていたのか。ジョウ氏の見積もりでは、南太平洋の低緯度の下、外核の中に、横方向に700キロ以上、厚さ100キロほどの「異質な何か」があれば、観測された時間のずれを説明できるといいます。そしてその正体として挙げているのが、液体の金属の中を漂う固体の物質です。同氏はこれを「トマトスープに浮かぶ巨大なクルトン」にたとえています。

つまり、外核は教科書の図が思わせるような、均質に溶けた金属のプールではないかもしれない——固体の塊が浮かび、しかも数年単位で活発にかき混ぜられている場所かもしれない、というわけです。

地磁気の理解につながる手がかり

外核の中身の動きは、実は私たちの生活と無関係ではありません。外核で液体金属が流れることで、地球の磁場(地磁気)が生み出されているからです。地磁気は太陽からの荷電粒子を防ぎ、方位磁針やナビゲーションの基準にもなっています。外核がどう混ざり、どう動いているかが分かれば、地磁気がなぜ変化するのか、これからどう変わりうるのかを理解する手がかりになります。

また、核実験という人工の震源が「くり返し観測」の道具になることが示されたのも、この研究の収穫です。冷戦期を中心に、世界では2,000回を超える核実験が行われ、その地震記録は各地に残っています。同じ発想で掘り返せるデータは、まだ眠っているかもしれません。

一方で、忘れてはいけない背景もあります。ムルロア環礁の核実験は現地の環境と住民に深刻な影響を残し、健康被害の補償をめぐる問題はいまも続いています。実験のデータが科学の役に立ったことと、実験そのものの是非は、切り分けて考える必要があります。

解釈上の留意点

この結果の受け取り方には、いくつか注意がいります。まず、外核に浮かぶ塊が直接観測されたわけではありません。見えたのは地震波の到達時間のわずかなずれで、「そのような塊があれば説明できる」という推定です。別の説明の余地が完全に消えたわけではありません。

また、この論文は単独の研究者による単著で、他の研究者による追試や評価はこれからです。査読を経て専門誌に掲載された研究ではありますが、定説になるかどうかは今後の検証しだいといえます。

観測の範囲にも限りがあります。今回調べられたのは「ムルロア環礁からカザフスタン」という1本の経路だけで、地球全体の外核が同じ状態だとは言えません。別の経路でも同じような変化が見つかるのか、それとも南太平洋の下だけの話なのか。他の場所の核実験記録や、新しい観測手法での確認が待たれるところです。

出典

元論文:Ying Zhou, Journal of Geophysical Research: Solid Earth(2026年、DOI: 10.1029/2026JB033798)

紹介記事:All Those Nuclear Tests Decades Ago Have Revealed Something New About Our Planet’s Core(ScienceAlert、2026年8月22日)

コメント

タイトルとURLをコピーしました