過去最多17機で太陽の噴出を追跡、初期映像に写っていなかった地球行きのプラズマ

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2024年12月19日、木星の衛星エウロパを目指して飛行中だったNASAの探査機エウロパ・クリッパーが、予定外の信号を拾った。打ち上げから約2か月、搭載機器がきちんと動くかを確かめる定期チェックの最中に、まわりの太陽風がいつもより熱く、薄くなっていることに気づいたのである。チームが時間をさかのぼって調べていくと、行き着いた先は数日前の太陽だった。太陽の表面に浮かんでいた濃いガスの帯(フィラメント)が噴き上がり、大量のプラズマが宇宙へ放り出されていた。

そしてこの1回の噴出を、太陽系のあちこちに散らばっていた17機もの探査機・衛星が同時に捉えていたことが分かった。1つの噴出を追跡した探査機の数として、これは過去最多の記録である。ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所のエイドリアン・ルスペイ=クティ氏が率いるチームがこれらの観測をまとめ上げ、成果は2026年8月19日付の科学誌Science Advancesに掲載された。17の目で見えてきた噴出の姿は、これまでの想像とはずいぶん違うものだった。

コロナ質量放出と観測の死角

太陽は、ときどき大量のプラズマ(電気を帯びたガス)のかたまりを宇宙空間へ噴き出す。コロナ質量放出、略してCMEと呼ばれる現象だ。太陽フレアという言葉のほうが有名かもしれないが、フレアが「太陽表面で起こる光の爆発」なのに対して、CMEは「磁場をまとったプラズマの雲そのものが飛んでくる」現象で、別物である。フレアに伴って起こることも多いが、今回のように、フィラメントの噴出から生じることもある。

このプラズマの雲が地球に届くと、磁気嵐が起こり、オーロラが輝く。それだけなら美しい話だが、強いCMEは人工衛星やGPS、通信、地上の送電網にまで影響を及ぼす。雲に含まれる高エネルギーの粒子は、宇宙飛行士にとっては放射線の危険そのものだ。だから世界中の機関が、太陽を監視して「いつ、どんな噴出が、どちらへ向かったか」を予報しようとしている。日本でも情報通信研究機構(NICT)が宇宙天気予報を毎日出している。

ところが、この予報にはそもそもの弱点がある。私たちは太陽を、基本的に地球側からしか見ていないのだ。噴き出した雲がどんな形で、どちらへどれくらいの速さで広がっているのかは、一方向からの映像をもとに推し量るしかない。正面から飛んでくるボールの速さと回転を、写真1枚から当てるようなものである。

複数の探査機で同じCMEを捉えた例は過去にもあり、これまでの記録は10機だった。ただしその10機は、太陽から地球方向へほぼ一直線に並んでいた。視点の数は増えても、見る方向はほとんど同じ。立体的な形をつかむには足りなかった。

17機がとらえた噴出の実像

2024年12月15日 00:48(世界時)に起こった今回の噴出は、その意味で幸運だった。ちょうどこの時期、太陽系の内側には探査機がかつてなく密に散らばっていたのである。太陽を監視し続けているSOHOやSDO、STEREO-A、地球のまわりを回るACE・Wind・DSCOVR・GOES、4機編成のMMS、月の近くのARTEMIS 2機、水星へ向かうベピコロンボ、火星のMAVEN、太陽へ向かうソーラー・オービター、そして木星へ向かう途中のエウロパ・クリッパー。距離も方向もばらばらの17機が、それぞれの場所で同じ雲の通過を記録した。

雲の到達は時系列で追える。噴出の翌日にあたる12月16日、太陽から0.35天文単位(太陽と地球の距離の約3分の1)の水星付近で、ベピコロンボが最初に雲を捉えた。12月17日には地球に到達し、地球周辺の多数の衛星が一斉に記録した。12月18日、地球と同じ距離で軌道の先を行くSTEREO-Aに、12月19日から20日にかけては火星のMAVENに届いた。太陽から吹き出した1つの雲が5日かけて広がっていくようすが、日付つきで再現できたわけである。

そして、集まったデータを突き合わせて見えてきた形が意外だった。この噴出は、きれいなひとかたまりの雲ではなく、大きさも速さも違う2つのこぶ(ローブ)に分かれた、左右非対称の構造をしていたのだ。地球と火星の方向へ向かったこぶは平均で秒速840キロ。東京から大阪まで1秒かからない速さである。一方、西へそれてSTEREO-Aの方向へ向かったこぶは平均で秒速534キロと大幅に遅く、STEREO-Aに着く頃には秒速400キロほどまで減速していた。同じ噴出から生まれたのに、進む向きによってまるで別物だったのである。

初期映像に写っていなかった地球行きの塊

ここからが今回の研究の核心だ。速いほうのこぶ——つまり地球へまっすぐ向かっていた塊は、地球側からの最初の観測には写っていなかった。

噴出の瞬間を捉えたのは、30年以上太陽を監視し続けているSOHOである。ところがSOHOの映像に写っていたのは、地球から見て斜めの方向へ飛び出していく、大きくて遅いほうのこぶだけだった。地球へ向かう速いこぶは、その大きな雲のちょうど陰に入っていて、見えなかったのだ。手前の大きな雲が、奥から自分に向かってくる雲を隠す。一方向から見ている限り、絶対に気づけない配置である。

この隠れた塊の存在を暴いたのが、散らばった17機のネットワークだった。横から見ていたSTEREO-Aの視点、水星付近・火星・巡航中の探査機がそれぞれの場所で記録した通過データ。それらを組み合わせてはじめて、「地球へ向かう速いこぶが確かに存在した」と言えたのである。

面白いのは、ソーラー・オービターの扱いだ。この探査機は当時、太陽から0.94天文単位、地球と太陽を結ぶ線からわずか10度ほどしか離れていない位置で観測していたのに、CMEを検出しなかった。普通なら空振りである。ところが研究チームにとっては、この「すぐ近くにいたのに当たらなかった」という事実こそが貴重な情報だった。雲がそこを通らなかったと分かれば、雲の輪郭をその分だけ絞り込める。捉えた16機と、捉えなかった1機。両方あわせて17機ぶんのデータなのだ。

宇宙天気予報への含みと残る謎

幸い、今回のCMEは目立ったオーロラを起こすほど強くはなく、実害はなかった。だが「地球行きの塊が、地球からの観測では見えていなかった」という事実そのものが、宇宙天気予報の死角をはっきり示している。ルスペイ=クティ氏は、見逃されたCMEは警報までの貴重な時間を失うことを意味すると指摘する。速いCMEは高エネルギー粒子を加速し、地球の磁場の外にいる宇宙飛行士には放射線の危険となる。人類の活動が月や火星へ広がっていくなら、太陽と地球を結ぶ線の外からの監視がますます重要になる、というわけだ。実際、欧州宇宙機関は地球の軌道上の離れた位置から太陽を横目に監視するVigil(ヴィジル)というミッションを2031年に打ち上げる計画を進めている。

一方で、分かっていないことも残っている。まず、なぜこの噴出が左右非対称の二葉構造になったのか、その原因はまだ不明で、チームが調査を続けている。そしてもうひとつ、より大きな問いがある。こうした極端に非対称なCMEは本当に珍しいのか、それとも実はよく起きているのに、観測の目が足りなくてこれまで気づけなかっただけなのか。ルスペイ=クティ氏自身、この現象は観測されてきたCMEのばらつきの中でも最も極端な部類だと述べつつ、その問いを研究の宿題として挙げている。今回の発見が「珍しい一例」なのか「氷山の一角」なのかで、話の重みはずいぶん変わってくる。答えを出すには、結局のところ、もっと多くの目で太陽を見続けるしかなさそうだ。

出典

論文:Luspay-Kuti, A. et al., The structure of a complex, asymmetric coronal mass ejection revealed by 17 spacecraft across the inner heliosphere, Science Advances(2026年8月19日)

解説記事:How a huge fleet of 17 spacecraft discovered something surprising about solar eruptions(Space.com・2026年8月23日)/Interplanetary spacecraft capture a coronal mass ejection component hidden from Earth(Phys.org・2026年8月)

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