全長7メートルの巨大ワニ、獲物は1トン超の草食獣——化石の噛み跡が明かした食物連鎖

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コロンビアのラ・タタコア砂漠から見つかった草食獣の化石に、大きな噛み跡が残っていました。年代はいまから1,050万〜1,600万年前、中新世(ちゅうしんせい)と呼ばれる時代のものです。フィンランドのヘルシンキ大学の研究者を中心とする国際チームがこの噛み跡を分析したところ、犯人として浮かび上がったのは、全長およそ7メートル、体重およそ1,800キロ——乗用車1台分に相当する巨大なワニの仲間、プルスサウルス・ネイヴェンシス(Purussaurus neivensis)でした。

この研究は2026年8月16日に、古脊椎動物学の専門誌 Journal of Vertebrate Paleontology でオンライン公開されました。骨に残った痕から、絶滅した動物どうしの「食う・食われる」の関係を直接読み取った報告です。

巨大生物ひしめく中新世の南米

舞台となったのは、いまのコロンビア南部にあたるラ・ベンタと呼ばれる地域です。当時の南アメリカには広大な湿地と湖が広がっていて、その岸辺には大型の動物がひしめいていました。地上性の巨大ナマケモノ、アルマジロの親戚にあたる甲羅を持つ動物、そしてひづめのある草食獣たちです。

草食獣のなかには、かなりの大物がいました。今回の研究で調べられた3種の体重は、論文の推定でおよそ616キロから1,822キロ。いちばん重いものは1.8トンに達します。そのひとつ、グラナストラポテリウム・スノルキ(Granastrapotherium snorki)は、太い柱のような脚と牙を持ち、サイを思わせる体つきの動物でした。

これだけの獲物がいれば、捕食者も育ちます。当時の湖岸には、剣歯を持つ肉食哺乳類、飛べない巨大な肉食鳥「恐鳥(きょうちょう)」、アナコンダの仲間の大蛇、そして陸を歩くワニの仲間まで、さまざまな捕食者が暮らしていました。

骨と歯だけでは分からなかったこと

そのなかでひときわ目立つのが、プルスサウルスです。いまの中南米にすむカイマン(アリゲーターに近いワニ)の親戚で、1941年に正式に記載されて以来、南米各地から骨や歯が見つかってきました。ラ・ベンタの動物群では最大のワニ形類(ワニに連なる系統の爬虫類)で、前方の歯は頑丈な円錐形、大きなものは根元の直径が30ミリを超えます。

ただ、骨と歯から「巨大だった」ことは分かっても、実際に何を食べていたのかは別の問題です。歯の形から大型の獲物に適していたと推測されてはいたものの、獲物の側の証拠——つまり「食べられた痕」——がそろっているわけではありませんでした。絶滅した動物どうしの捕食関係を直接示せるのは、骨に残った噛み跡や歯の痕くらいしかありません。

研究チームが調べたのは、博物館に収蔵されていた4点の化石です。内訳は頭骨の一部、大腿骨(太ももの骨)1本、下顎の骨2本で、いずれも3種の大型草食獣のものでした。そのすべてに、何者かが噛んだ痕が残っていました。

噛み跡が指し示した犯人

痕のなかでとくに分かりやすいのが、頭骨に開いた円形の穿孔(せんこう)です。直径は29.2ミリ。プルスサウルスの太い円錐形の歯と、大きさも形もよく合います。チームは博物館収蔵のプルスサウルスの歯と痕の寸法を突き合わせ、この痕を残せた動物として、ラ・ベンタ最大のワニ形類がもっとも有力だと結論づけました。大腿骨のほうにも、穿孔5つと小さなくぼみ4つ、あわせて9か所の痕が確認されています。

頭骨に歯が食い込むほどの噛みつきというのは、想像するとかなりの場面です。研究を紹介した海外メディアでは、水を飲みに来た獲物の頭にかぶりつき、頭骨を砕いてから、体を回転させて引きちぎる——現生のワニがやる「デスロール」——という光景が描かれています。現生のワニでも、オーストラリアのイリエワニが水牛や馬を、アフリカのナイルワニがカバやサイを襲った記録があり、大物狙いはワニの得意技といえます。ただし祖先たちは、体格に対してさらに大きな相手を狙っていた可能性がある、と研究チームは指摘しています。

そして、この分析がもっとも効いてくるのは「誰が生態系の主役だったか」という問いです。冒頭に書いたとおり、当時の南米には剣歯を持つ肉食哺乳類もいました。それでも、筆頭著者のオスカー・ウィルソンさんは「獲物があまりに多く、哺乳類の捕食者だけでは食べきれなかった」と述べたうえで、こう続けています。とりわけ大型の獲物を狩る場面では、この地域でもっとも重要な捕食者はワニ類だった——。つまり、1トン級の草食獣の数を抑える「頂点」の役割を担っていたのは、哺乳類ではなくワニの仲間だった可能性が高いのです。ライオンやトラのいる現在の感覚からすると、ずいぶん様子の違う世界です。

一本の顎に刻まれた食物連鎖

4点の化石のなかには、さらに面白い1本があります。クセナストラポテリウム(Xenastrapotherium kraglievichi)という草食獣の下顎です。この骨には、性質の異なる2種類の痕が残っていました。

ひとつは、大きな穿孔と骨の激しい変形。これはプルスサウルスによるものと考えるのがもっとも自然だとされました。もうひとつは、反対側に並ぶ細い溝10本。こちらは水辺ではなく陸で暮らしていた、別の小型のワニの仲間ランクストニア(Langstonia huilensis)の歯並びと合致します。

では、ランクストニアも狩りに参加していたのでしょうか。チームの答えは「おそらく違う」です。体重を推定すると、ランクストニアは約371キロ。対する獲物のクセナストラポテリウムは約1,687キロで、4倍以上の開きがあります。この体格差では仕留めたとは考えにくく、細い溝の痕は、死骸をあとから食べた——つまり腐肉食(ふにくしょく)の痕だと解釈されました。

つまり、巨大なプルスサウルスが仕留め、食べ残しを陸生の小型ワニ類が片づけていた。捕食と腐肉あさりという食物連鎖の2つの段階が、たった1本の顎の骨に刻まれていたわけです。噛み跡の研究では「狩ったのか、死骸を食べただけなのか」の区別がいつも難題になるのですが、この標本は体重の推定を根拠にその線引きまで踏み込んでいて、今回の報告の読みどころのひとつになっています。

島だった南米という舞台

なぜ南米では、ワニ類がここまでの地位を占められたのでしょうか。ヒントは地理にあります。この時代、南アメリカと北アメリカをつなぐパナマ地峡はまだ存在せず、南米は事実上の巨大な島でした。北米にいたイヌ科やネコ科のような有胎盤の肉食哺乳類は、まだ渡ってこられなかったのです。

のちに地峡がつながると、南北の動物が大移動する「アメリカ大陸間大交差」が起こり、南米の動物相は大きく入れ替わっていきます。今回の噛み跡が語っているのは、その入れ替わりが起こる前の、独自の進化を遂げていた南米の姿です。巨大ワニ類が湖岸に君臨し、恐鳥が地を駆け、大蛇がひそむ——そんな生態系が、確かにあったことを骨が伝えています。

最後に、割り引いて読むべき点も添えておきます。まず、調べられた化石は4点で、決して多くはありません。また、噛み跡の主はあくまで「プルスサウルスによるものと思われる」であって、現場を見た人がいない以上、断定はできません。体重や体長の数字も化石からの推定で、幅があります。それでも、痕の大きさ・形・頻度がそろって同じ方向を指しているというのが今回の報告で、失われた生態系の食卓を骨からここまで復元できるという点だけでも、じゅうぶん驚く価値のある研究だと思います。

出典

Oscar E. Wilson ほか「Physical evidence of crocodylian predation on ungulates in the Middle Miocene of Colombia」Journal of Vertebrate Paleontology(2026年8月16日オンライン公開)
https://doi.org/10.1080/02724634.2026.2701154

ヘルシンキ大学プレスリリース「Giant crocodylians dominated the food chain in Miocene South America」(2026年8月17日)
https://www.helsinki.fi/en/news/evolution/giant-crocodylians-dominated-food-chain-miocene-south-america

ScienceAlert「This Giant Crocodile Relative Weighed as Much as a Car And Preyed on Rhino-Sized Mammals」(2026年8月24日)
https://www.sciencealert.com/this-giant-crocodile-relative-weighed-as-much-as-a-car-and-preyed-on-rhino-sized-mammals

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