データセンターが電気を大量に使うことは、この数年でよく知られるようになった。では、水はどうだろう。米議会調査局(CRS)が2026年7月末に公表した報告書によれば、米国のデータセンターが冷却などのために直接使った水は、2023年におよそ170億ガロン(約640億リットル)。2014年の56億ガロン(約210億リットル)から、ほぼ3倍に増えている。東京ドームに換算すると、およそ50杯分の水が1年で消えている計算になる。
CRSは米議会に中立の立場で調査資料を提供する機関で、今回の報告書は米国議会図書館を通じて公開された。査読を受けた学術論文ではないが、企業や業界団体の資料とは性格が違い、議員が政策を考えるための基礎資料という位置づけだ。数字自体はローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)が2024年にまとめた推計を引いている。
ただ、この報告書とそれを伝えた米メディアThe Registerの記事でいちばん重要なのは、「3倍に増えた」という部分ではない。データセンターが使う水の内訳のほうである。

AIブームがもたらした水消費の急増
まず、なぜ水の消費がここまで増えたのか。報告書とThe Registerの記事は、その理由をはっきり名指ししている。2022年末にOpenAIがChatGPTを公開して以降のAIブームだ。生成AIと大規模言語モデルへの需要が爆発し、データセンターの建設ラッシュが起きた。新しく建てられる施設の多くにはAI向けの専用ハードウェアが詰め込まれていて、これが従来の機器よりはるかに多くの電力を食い、そのぶん発熱も大きく、冷却の必要も大きい。
しかも、170億ガロンという数字は2023年のもの。AIによる建設ブームが本格化し始めた、いわば入り口の時点の値だ。The Registerも「その後さらに増えているのはほぼ確実」と書いている。LBNLの推計では、直接消費は2028年までに2〜4倍、つまり年間380億〜730億ガロン(約1,400億〜2,800億リットル)に達する可能性があるとされる。
冷却に水が使われる仕組み
サーバーは動けば熱を出す。何万台も詰め込んだデータセンターでは、その熱を逃がし続けないと機器が止まってしまうため、大がかりな冷却設備が欠かせない。
冷やし方にはいくつか流儀がある。空気で冷やす方式は水をほとんど使わないかわりに電気を多く食う。一方、水を蒸発させて熱を奪う方式は電気の面では効率がいいが、蒸発した水はそのまま大気へ消えていく。ここで言う「消費」とは、まさにこの戻ってこない分のことだ。報告書は、いったん取り込んでも川や水道に戻される水と、蒸発などで水源に戻らない水をきちんと区別していて、170億ガロンは後者、つまり本当に失われた水の量である。
どちらの方式を選ぶかは施設の規模や土地の気候にもよるので、一概にどちらが正解とは言えない。ただ、規模の感覚をつかめる数字が報告書に載っている。CRSが引く国際エネルギー機関(IEA)の推計では、100メガワット級のデータセンター1つが施設内で直接消費する水は、1日あたり約2,600世帯分。中規模の町がひとつ増えるのと同じだけの水を、1つの施設が飲んでいることになる。
そしてもうひとつ、見過ごせない数字がある。米国のデータセンターに供給される水の97%は、自治体の上水道、つまり住民が飲んだり風呂に使ったりしているのと同じ水道から来ているという推計だ。井戸や川から独自に取っているのではなく、蛇口の水と同じ供給網を分け合っている。
発電所で消える見えない水
ここからが本題だ。データセンターの水と聞くと、施設の脇に立つ冷却塔から湯気が上がる光景を思い浮かべる。ところが、その冷却塔で消える水は、実は一部にすぎない。
The Registerが紹介している研究によれば、米国のデータセンターに関わる水の消費のうち、8割以上は「間接的な消費」——つまり、データセンターが使う電気を作るために、発電所で消費された水だという。LBNLの推計を並べると差はもっと際立つ。直接消費が年間170億ガロンだったのに対し、電力経由の間接消費は約2,110億ガロン(約8,000億リットル)。直接分の10倍を超える水が、データセンターから遠く離れた発電所で消えている。
なぜ発電に水が要るのか。火力発電所も原子力発電所も、燃料や核反応の熱で蒸気を作ってタービンを回し、その蒸気を冷やして水に戻す、という循環で動いている。この「冷やす」工程で大量の冷却水が使われ、一部は蒸発して戻らない。データセンターが電気を1kWh使うたびに、その電気を作った発電所で水が減っていく。電線の向こう側で起きていることなので、データセンターの敷地をいくら眺めても見えない。
つまり、データセンターの水問題は、かなりの部分が電力の水問題なのだ。冷却塔の写真ばかりが出回るけれど、実際の水はもっと上流で消えている。
ただし、この「8割以上」という割合は固定の数字ではない。報告書内のIEAの推計では間接6割・直接4割と、研究によって幅がある。そして何より、間接消費の大きさは電源の構成に強く左右される。冷却水を大量に使うのは火力と原子力で、太陽光や風力はほとんど水を使わない。同じデータセンターでも、どんな電気をつないでいるかで、水の足あとはまるで違ってくる。
誰も把握していない全体像
もうひとつ、報告書が指摘している構造的な問題がある。米国の連邦政府は、データセンター産業による水の使用を体系的に調べたことがない、という点だ。水の供給は州の管轄で、使用量のデータは州や地方の機関がばらばらに集めている。しかも、事業者と自治体が結ぶ水道の供給契約には、情報の開示を制限する条項が含まれることがあるという。国全体でどれだけの水がデータセンターに流れているのか、正確な姿を誰も持っていない。冒頭の170億ガロンも、あくまで研究機関の推計である。
この「見えなさ」は、すでに争いの種になっている。2026年7月には、水資源の研究者がAmazon Web Servicesを相手取り、バージニア州北部での水使用について誤解を招く説明をしたとする訴訟を起こした。根拠となったのは、情報公開請求で水道事業者から取り寄せた請求記録だった。企業の自己申告と、実際の水道メーターの数字を突き合わせないと実態がつかめない——そういう段階にある。
議会も動き始めてはいる。The Registerによれば、データセンターと水を扱う連邦法案は現在20本(下院14、上院6)が提出されているが、審議が先へ進んだのは3本だけ。一方、州レベルでは36の州議会が関連法案を出しているという(データセンターの水問題を追跡する民間サイトの集計)。対照的なのがEUで、こちらはすでに法律でデータセンター事業者に年間の淡水消費量の報告を義務づけている。測ることを義務にした地域と、測る仕組みがまだない米国。同じ問題への向き合い方が、はっきり分かれている。
日本のデータセンターと水
この話は、米国だけのものではない。日本でも千葉の印西や北海道の石狩など、各地で大規模データセンターの建設が続いていて、電力や用地をめぐる議論は始まっている。しかし「水」については、国が全国の使用量を集計・公表する仕組みは見当たらず、市場調査会社の推計が出ている程度だ。日本は米国の乾燥地帯ほど水に困っていないぶん、問題として意識されにくいのかもしれない。
それでも、間接消費の話はそのまま当てはまる。日本の電気のおよそ3分の2は火力発電でまかなわれていて、発電には冷却水が要る。データセンターが増えて電力需要が伸びれば、発電所側の水の消費も一緒に伸びる。冷却塔が見当たらないから水は使っていない、という話にはならない。米国の報告書が教えてくれるのは、「まず測らないと、問題があるかどうかも分からない」というシンプルな事実だ。日本で同じ問いが立てられるのは、もう少し先になりそうである。
出典
米議会調査局(CRS)報告書「Data Centers and Water: Frequently Asked Questions」(2026年7月31日公表、Congress.gov)。報道は The Register「US datacenters tripled their water footprint in 10 years」(2026年8月24日、Dan Robinson記)。水消費の推計値はローレンス・バークレー国立研究所の2024年報告(United States Data Center Energy Usage Report)による。CRS報告書は議会向けの調査資料であり、査読を受けた学術論文ではない。本文中の数値はいずれも推計値である。


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