【原生代の生物】シアノバクテリア – 史上最大の「公害」を起こした立役者

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名前シアノバクテリア(藍色細菌)。学名 Cyanobacteria は、ギリシャ語で藍色を意味する kyanos から
分類細菌(バクテリア)ドメイン シアノバクテリア門
時代約20億年前(確実な化石の記録)〜現在。誕生自体はさらに古いとみられる
発見地世界各地。最古の確実な化石はカナダ・ベルチャー諸島
大きさ細胞の直径はおおむね1マイクロメートル〜10マイクロメートル。髪の毛の太さよりひと桁小さい。細胞が糸状に連なったり、マット状に積み重なったりすると肉眼でも見える

シアノバクテリアは、酸素を出す光合成を行う細菌のなかまです。確実な化石は約20億年前までさかのぼり、現在も海や川、田んぼや温泉で暮らしています。太古の地球で大量の酸素を作り続け、大気の成分そのものを作り替えました。

細菌なのに、植物と同じ光合成をする

シアノバクテリアは、昔の教科書では「藍藻(らんそう)」と呼ばれていました。藻という字がついていますが、植物でも藻類でもなく、細胞に核を持たない細菌の仲間です。細胞ひとつの直径は数マイクロメートル程度。単独で浮かんでいるものもいれば、数珠のように連なって糸状になるもの、砂の粒を巻き込みながら層状のマットを作るものもいます。

この細菌が特別なのは、水と二酸化炭素と太陽の光から養分を作り、酸素を吐き出す「酸素発生型光合成」を行うところです。植物と同じ仕組みですが、順序は逆で、先にこの仕組みを発明したのはシアノバクテリアのほうでした。植物の細胞の中で光合成を担っている葉緑体は、大昔にほかの細胞へ取り込まれたシアノバクテリアの子孫だと考えられています。つまり、森の木も、道ばたの草も、細胞の中でシアノバクテリアの末裔を働かせて生きていることになります。

現在の地球でも、その働きぶりは変わっていません。熱帯の海には、プロクロロコッカスという直径0.6マイクロメートルほどの極小のシアノバクテリアが漂っています。地球上でもっとも数の多い光合成生物とされ、その総数は10の27乗個。地球の酸素のおよそ2割はこのグループが作っているという見積もりもあります。ほかにも温泉の湯だまり、田んぼ、乾いた岩の表面まで、光さえ届けばたいていの場所に住みつきます。夏の湖の水面を緑に染めるアオコも、シアノバクテリアの大増殖です。

岩に残った、20億年前の姿

シアノバクテリアの体は柔らかく、骨も殻もないため、化石になりにくい生き物です。それでも、条件がそろえば残ります。決め手になるのは、細菌のマットが砂や炭酸塩の粒を捕まえながら層状に積み重なってできる構造、ストロマトライトです。

「これは確かにシアノバクテリアだ」と広く認められている最古の化石は、カナダのベルチャー諸島で見つかったエオエントフィサリス・ベルケレンシスです。約20億1800万年前〜18億5400万年前のストロマトライトの中に、細胞の形まで保存されていました。しかもその姿は、いま浅い海で暮らしている現生のシアノバクテリアとよく似ています。20億年前にはすでに、現在とほとんど変わらない姿ができあがっていたわけです。

ストロマトライト自体は、いまも作られ続けています。西オーストラリアのシャーク湾では、シアノバクテリアのマットが積み上げた岩のかたまりが浅瀬にずらりと並び、太古の海の風景をそのまま見せてくれます。

史上最大の「公害」

シアノバクテリアにとって、酸素は目的ではありません。光合成で養分を作ったあとに出る、ただの廃棄物です。ところがこの廃棄物が、地球の歴史を大きく曲げました。約24億3000万年前ごろ、それまでほぼ無酸素だった大気に酸素が現れ始めます。大酸化イベントと呼ばれる転換点です。

問題は、当時の生物のほぼすべてが、酸素のない世界を前提に生きていたことです。酸素は反応性の高い分子で、無防備な細胞にとっては部品を壊しにかかる毒になります。シアノバクテリアの出す酸素は、酸素に対処するすべを持たない微生物たちの環境を根こそぎ変えていきました。この出来事が「酸素カタストロフ」という物騒な別名で呼ばれるのはそのためで、生物が自分の廃棄物で地球環境を一変させた例としては、これを超えるものはありません。

このとき何がどれだけ死んだのかは、実ははっきり分かっていません。微生物は化石にほとんど残らないので、絶滅の現場を直接示す証拠が取りにくいのです。確かなのは、酸素を嫌う微生物たちがいまも生きていて、その住みかが沼の泥の中、海底の堆積物、動物の腸の中といった、酸素の届かない場所に限られていることです。かつて地球全体に広がっていた生き方が、酸素の届かない場所に追いやられた形です。

酸素の影響は、生き物だけにとどまらなかった可能性もあります。当時の大気には温室効果の強いメタンが多く含まれていましたが、酸素はこのメタンを壊してしまいます。メタンが減った地球は冷え込み、大酸化イベントと同じころに大規模な氷河時代が始まったことが、地層の記録から分かっています。酸素によるメタンの破壊が引き金だったという筋書きが有力視されていますが、これも決着済みというわけではありません。

その後、酸素を使ってエネルギーを取り出す「酸素呼吸」の仕組みが広まり、毒はいちばん効率のよい燃料に変わりました。私たちが息を吸って生きていられるのは、この転換の延長線上にいるからです。公害の原因だった酸素は、そのまま生物界を支える資源になり、シアノバクテリアはいまも酸素を作り続けています。

出典

約17億5000万年前の化石からチラコイドを発見した研究:Demoulin et al., “Oldest thylakoids in fossil cells directly evidence oxygenic photosynthesis”(Nature, 2024)。最古の確実なシアノバクテリア化石(エオエントフィサリス)の年代もこの論文の記載によります。

大酸化イベントの開始年代と初期の氷河時代の対応について:Gumsley et al., “Timing and tempo of the Great Oxidation Event”(PNAS, 2017)

大気の酸素が定着するまでの経緯について:Poulton et al., “A 200-million-year delay in permanent atmospheric oxygenation”(Nature, 2021)

プロクロロコッカスについて:スミソニアン協会 Ocean Portal の解説ページ

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