【原生代の生物】ディッキンソニア – クラゲでもゴカイでも地衣類でもなかった

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名前ディッキンソニア(Dickinsonia)。南オーストラリア州の鉱山局長だったベン・ディキンソンにちなむ
分類動物。ただし現生のどのグループに近いかは未確定
時代原生代 エディアカラ紀後期(約5億6000万〜5億5000万年前)
発見地オーストラリア南部フリンダース山脈(エディアカラ丘陵)、ロシア白海沿岸、ウクライナ
全長数ミリ〜約80センチ。1メートルを超えたとする報告もある
厚さ数ミリ以下。化石は砂岩に残った押し跡だけで、体重の推定はない

ディッキンソニアは、エディアカラ紀の海底に暮らしていた、平たい楕円形の生き物です。体には細かい仕切りが左右に規則正しく並び、大きいものは畳の短辺ほどの長さに育ちました。1947年に記載されてから70年あまり、クラゲ・ゴカイ・地衣類・巨大な単細胞生物と正体をめぐる説が入れ替わり続け、2018年に化石に残っていた脂肪の分子から「動物」と判定されました。

姿と暮らし

体は薄い座布団のような形で、中央に一本の筋が通り、そこから左右へ細長い単位(モジュール)が並びます。単位の数は小さな個体で数十、大きな個体では数百に達します。単位の並びは左右がきっちり対称ではなく、半分ずつずれて噛み合っているようにも見え、この点はいまも解釈が分かれています。片方の端にある単位がほかより大きく、こちらが前と考えられています。体の一端に新しい単位を足しながら大きくなり、成長の途中で全体の輪郭が崩れないように形が調整されていたことが、南オーストラリアの1000点を超える標本の計測から分かっています。

口も消化管も、目も足も見つかっていません。海底を覆っていた微生物のマット(細菌や藻類が層になった膜)の上に体を伏せ、下面から直接、マットを消化して吸収していたと考えられています。根拠は化石そのものではなく、化石のまわりに残された跡です。ディッキンソニアの本体の近くに、同じ形・同じ大きさの薄い輪郭がいくつも連なって残ることがあり、体の下でマットが溶かされて薄くなった「食べ跡」と解釈されています。

この食べ跡は、ディッキンソニアが自力で動いていた証拠にもなりました。2019年の研究では、南オーストラリアの一枚の地層面から掘り出された最大200個体ほどの群れについて、それぞれの跡がどちらを向いているかを調べています。潮や嵐で流されたのなら、同じ面の個体はそろって同じ方向へ移動するはずです。実際には向きはばらばらで、しかも個体ごとに見ると、大きな単位のある端を先にして進む傾向がありました。体を伸ばしたり縮めたりして、ミミズのように這って移動していたとみられます。

体は柔らかく、水の流れで引き伸ばされたり、ねじれたり、ちぎれたりした個体の化石も見つかっています。硬い部分がまったくない体で、それでも押し跡として残ったのは、海底のマットが砂の流入から化石の輪郭を保護する「鋳型」の役目をしたためです。同じ海底には、這い跡を残す軟体動物に似たキンベレラや、三放射対称のトリブラキディウム、葉状のチャルニアの仲間が暮らしていました。

正体をめぐる70年と、化石に残った脂肪分子

ディッキンソニアは、1946年に地質学者レッグ・スプリッグがオーストラリア南部のエディアカラ丘陵で見つけた化石のひとつです。スプリッグ自身は最初、クラゲの化石だと考えました。翌1947年の記載論文では、平たい多毛類(ゴカイの仲間)として扱っています。その後、現生のどの動物にも当てはまらないという点が問題になり、解釈は動物の枠を出ていきます。海底に横たわる巨大な単細胞生物とする説、陸上に生えていた地衣類とする説まで提案されました。地衣類説を唱えたグレゴリー・レタラックは、エディアカラ紀の地層そのものを海底ではなく陸上の土壌と見る立場です。形からは決着がつかず、教科書には「所属不明」と書かれる時期が長く続きました。

決着の糸口は、化石の形ではなく、化石に残った分子でした。2018年、オーストラリア国立大学のイリヤ・ボブロフスキーとヨッヘン・ブロックスらは、ロシア白海沿岸の崖で採取した約5億5800万年前のディッキンソニアを分析しました。この産地の化石は、砂岩の押し跡だけでなく、化石の表面に薄い有機物の膜が残っている点で例外的です。研究チームはこの膜から脂質を取り出し、周囲の堆積物と成分を比べました。

結果は明快でした。化石の部分から出た分子の大半は、コレステロールが地層の中で変化した「コレステロイド」でした。周囲の堆積物では、藻類に由来する別の種類のステロイドが主で、化石の部分だけが組成としてはっきり違っていました。細胞膜の主成分としてコレステロールだけを使うのは動物に限られます。菌類はエルゴステロールを使い、藻類や単細胞生物はもっと雑多な組み合わせを作ります。地衣類説も巨大単細胞説も、この成分の偏りでは説明がつきません。同じ産地の近縁属アンディバからも同じ結果が出ています。論文は、ディッキンソニアとその仲間を「岩石記録で確認できる最古の大型動物」と位置づけました。

この結果は、それ以前から積み上がっていた形と行動の証拠とも噛み合いました。体の一端から単位を足していく規則的な成長、自力での移動、下面でマットを食べる暮らし方はいずれも動物的な特徴です。分子の証拠が加わったことで、ディッキンソニアを動物とみなす見方が主流になりました。

出典

化石に残った脂質からディッキンソニアを動物と判定した研究:Bobrovskiy et al., “Ancient steroids establish the Ediacaran fossil Dickinsonia as one of the earliest animals”(Science, 2018)

食べ跡の向きからディッキンソニアの自力移動を示した研究:Evans, Gehling & Droser, “Slime travelers: Early evidence of animal mobility and feeding in an organic mat world”(Geobiology, 2019)

南オーストラリアの標本を統計的に再検討し、種の数と大きさを見直した研究:Evans et al., “Species of Dickinsonia Sprigg from the Ediacaran of South Australia”(Palaeontology, 2023)

インドの「ディッキンソニア」が蜂の巣の跡だと示した研究:Meert et al., “Stinging News: ‘Dickinsonia’ discovered in the Upper Vindhyan of India not worth the buzz”(Gondwana Research, 2023)

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