ダイソン球の候補が2つ消えた——正体は、真後ろにあった別の銀河だった

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宇宙のどこかに、恒星をまるごと覆ってエネルギーを使い尽くす文明がいるかもしれない——そんな「ダイソン球」の有力候補とされていた星2つを、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で詳しく調べた結果が報告されました。スウェーデン・ウプサラ大学が主導する探索チーム「プロジェクト・ヘファイストス」によるもので、結論から言うと、どちらもダイソン球ではありませんでした。ただ、この「違った」という結果が、思いのほか面白いのです。何がどう違ったのか、順番に見ていきます。

ダイソン球という発想と探し方

ダイソン球は、物理学者フリーマン・ダイソンが1960年に提案した仮説上の巨大構造物です。高度に進んだ文明は、いずれ自分たちの恒星が出すエネルギーをまるごと受け止める構造物を作るのではないか、という発想でした。もっとも、星をすっぽり包む固い殻を本当に作るのは材料の面で現実味が薄く、今では無数の集光衛星が星のまわりを群れになって回る「ダイソン・スウォーム(群れ)」の形で考えるのが一般的です。あくまで仮説で、実在が確かめられたものは一つもありません。

面白いのは、この仮説上の構造物に、はっきりした探し方があることです。鍵になるのは熱力学。文明がどれだけ進んでいても、集めたエネルギーを何かに使えば、最後は必ず廃熱になって外へ逃げていきます。恒星を構造物で覆えば、本来出てくるはずの可視光は減り、代わりに廃熱が赤外線として放射される。つまり「見た目より暗いのに、赤外線だけ妙に明るい星」を探せばよいことになります。エネルギーは形を変えても消えない、という物理の基本原則が、そのまま宇宙人探しの検索条件になっているわけです。

候補にたどり着くまでの絞り込み

プロジェクト・ヘファイストスは、この条件で銀河系の星をふるいにかけてきました。使ったのは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の位置天文衛星ガイアと、NASAの赤外線天文衛星WISE(ワイズ)の観測データです。両者を照合できた約500万個の近傍の星を調べ、2024年に「可視光が暗いわりに赤外線が過剰な星」として7つの候補を発表しました。いずれも地球から約1,000光年以内にある、M型矮星(太陽より小さく暗い、赤っぽい星)です。

ただ、赤外線が過剰だからといって、すぐにダイソン球というわけではありません。星のまわりの塵(ちり)が温められて赤外線を出している可能性もあれば、まったく別の何かが観測に紛れ込んでいる可能性もあります。候補の発表後、世界の研究者が電波望遠鏡などでこれらの星を追いかけ、正体の絞り込みが続いていました。今回チームは、そのうち2つの候補に、現役最強の赤外線望遠鏡であるJWSTを向けました。撮像と分光(光を波長ごとに分けて調べる観測)の両方で、赤外線の出どころを直接確かめようというわけです。

ウェッブ望遠鏡が明かした正体

結果は冒頭に書いたとおり、2つともダイソン球ではありませんでした。ここからが本題です。過剰な赤外線は、そもそもその星から出ていませんでした。正体は、星の真後ろにたまたま重なっていた、はるか遠くの別の銀河だったのです。

2つの候補の背後には、それぞれ約1秒角——満月の見かけの直径の1,800分の1ほどのずれ——という、ほとんど完全に重なる位置に銀河がありました。片方は「Hot DOG」と呼ばれるタイプ(正式にはHot Dust-Obscured Galaxy=高温の塵に覆われた銀河。中心の巨大ブラックホールが周囲の塵を熱し、強い赤外線を出す)と見られ、もう片方は、明るい塊がいくつも見える広がった姿と、星が盛んに生まれているダスト豊富な銀河(スターバースト銀河)に合うスペクトルを示しました。どちらも数十億光年かなたにある銀河で、その赤外線が、手前の星の光と混ざって観測されていたのです。

なぜ今まで気づけなかったのか。チームのアンドレアス・コルン氏(ウプサラ大学)は、WISEの画像が粗いために背景銀河の光と手前の星の光が混ざってしまい、区別できなかったのだと説明しています。WISEは空全体を見渡すのが得意な衛星で、そのぶん一つひとつの天体を細かく見る力は高くありません。JWSTの解像度でようやく2つの光源が分離でき、それぞれを別々に分析できるようになった——解像度が上がった瞬間に、10年越しの謎があっけなく解けた形です。

影響は今回の2つにとどまりません。別の研究チームによる電波観測でも、候補の一つの背後に活動銀河核(銀河中心の巨大ブラックホールが強く輝いている天体)が見つかるなど、他の候補にも同じ疑いが次々と出ています。チーム自身も、7つの候補の赤外線超過は背景銀河の混入で説明できるというのが現時点で最有力の見方だとしています。約500万個から絞り込んだ候補が、そろって「星と銀河の偶然の重なり」だった可能性が高い、ということです。

残る課題と探索のこれから

誤解のないように書いておくと、今回の結果は「ダイソン球は存在しない」と証明したものではありません。消えたのは候補2つ(と、疑いが濃くなった残りの候補)であって、探索という営みそのものが否定されたわけではないのです。むしろ今回はっきりしたのは、「背景銀河の混入」という探索の落とし穴の深刻さでした。遠くの銀河は可視光では暗く、赤外線で明るいものが多いため、ダイソン球の想定シグナルとちょうど紛らわしい。チームによれば、2030年代には空間解像度の高い中間赤外線の観測が広い領域で可能になる見込みで、そうなれば候補の段階で背景銀河をより分けられるようになると期待されています。

それにしても、候補を挙げ、より良い望遠鏡で見直し、消え、次の探し方を考える——この一連の流れは、科学がどう進むかをそのまま見せてくれます。「見つかったかもしれない」というニュースは世界中を駆け巡りますが、「調べたら違った」という続報まで丁寧に出てくることは、それほど多くありません。今回の2本の論文は、その地味で誠実な続報です。

そして、探索の土台は少しも揺らいでいません。コルン氏が語るように、たとえダイソン球のエネルギーが計算のような用途に使われていたとしても、そのエネルギーは最後には形を変え、廃熱として赤外線で放出されます。文明がどれだけ進んでも、熱からは逃げられない。だからこそ、赤外線を探し続ける意味がある——候補が2つ消えた今回の報告は、その原則を裏返しに確かめた話でもありました。

出典

今回の研究成果は、2本の論文として天文学誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』に投稿されています(本記事執筆時点では査読前のプレプリントです)。JWSTによる候補2つの観測を報告したのが「Project Hephaistos IV」、候補7つの性質を詳しく調べたのが「Project Hephaistos III」です。

Project Hephaistos – IV. James Webb Space Telescope Observations of Two Dyson Sphere Candidates(arXiv)
Project Hephaistos – III. Characterizing anomalous infrared sources identified as Dyson-sphere candidates(arXiv)
NASA’s Webb Telescope Rules Out Two New Dyson Sphere Candidates(Universe Today)

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