NASAの宇宙望遠鏡「ニール・ゲーレルス・スウィフト観測衛星」(以下スウィフト)が、早ければ2026年10月にも地球の大気圏に落ちてくる見通しになりました。落下を防ぐために民間企業が救出用のロボット宇宙機を打ち上げていたのですが、機体のトラブルで救出は断念。20年以上働いてきた望遠鏡は、そのまま高度を下げ続けています。
「落ちてくる」と聞くと不安になる話ですが、NASAは「大部分は大気圏で燃え尽き、残った破片も海に落ちる可能性がいちばん高い」としています。この記事では、救出ミッションに何が起きたのか、そして落下の見通しがどうなっているのかを順に見ていきます。
20年働いた望遠鏡と、下がり続けた軌道
スウィフトは2004年11月に打ち上げられたNASAの観測衛星です。主な仕事は、宇宙でもっとも強力な爆発現象「ガンマ線バースト」を捉えること。ガンマ線バーストは前触れなく突然起きるため、空のどこで光っても素早く望遠鏡を振り向けられるスウィフトは、長いあいだ替えのきかない存在でした。年間およそ100個のバーストを検出し、世界中の望遠鏡に「今ここで起きている」と知らせる役割を担ってきました。
問題は軌道でした。スウィフトが飛んでいる低い軌道では、わずかに残る大気が抵抗になって、高度が少しずつ下がっていきます。しかも近年は太陽の活動が活発な時期にあたり、大気がふくらんで抵抗が増したことで、高度の低下が加速していました。何もしなければ大気圏に突入して燃え尽きる——その時期が、目に見えて近づいていたのです。
そこでNASAは2025年9月、「スウィフトを救ってくれる企業はいないか」という異例の公募を出しました。手を挙げたのが、アリゾナ州の宇宙企業カタリスト・スペース・テクノロジーズ(Katalyst Space Technologies)です。契約額は3,000万ドル(約45億円)。ロボット宇宙機を送り込んでスウィフトをつかまえ、より高い軌道へ押し上げる、という計画でした。
9か月で作られた救出機LINK
カタリストが開発した救出機は「LINK(リンク)」と名付けられました。ロボットアームでスウィフトをつかみ、自分のエンジンで押し上げる設計です。スウィフトはもともと軌道上で他の機体とドッキングすることをまったく想定せずに作られた衛星なので、つかまえること自体が前例のない挑戦でした。
そして注目すべきは開発期間です。公募から打ち上げまでに使えた時間はごくわずかで、カタリストは設計・製造・試験・打ち上げまでを約9か月でやり切りました。宇宙機の開発としては異例の速さです。LINKは2026年7月3日、太平洋のクェゼリン環礁から、航空機に吊るして空中発射するペガサスXLロケットで打ち上げられました。
打ち上げ後のトラブルと断念までの経緯
打ち上げ自体は成功し、機体のチェックも順調に進んでいました。ところが7月下旬、LINKに深刻なトラブルが起きます。機体の向きを制御する装置「リアクションホイール」(内蔵のはずみ車を回して機体の姿勢を変える装置)が、3基のうち2基故障。さらに姿勢制御用スラスター(小型の噴射装置)にも一部不具合が出て、機体は毎秒約9度で回転する制御不能のスピンに陥りました。通信も途切れがちになります。
カタリストのエンジニアたちは、本来はスウィフトへの接近に使うはずだったイオンエンジンを姿勢の立て直しに転用し、回転を毎秒1.47度まで減速させることに成功しました。8月11日には姿勢制御ソフトウェアの大きな更新も送り込み、一時は「まだ間に合うかもしれない」という空気もあったようです。
しかし、スウィフトをつかんで押し上げるという繊細な作業に必要なレベルまで姿勢制御を回復させることはできず、8月19日、NASAとカタリストは軌道の押し上げを正式に断念しました。
勝敗を分けた「時間」
ここで印象的なのが、カタリストのCEOゴンヒ・リー氏が8月24日にCNNの番組で語った言葉です。リー氏は「望んだ結果ではない」としつつ、9か月で宇宙ロボットを設計・製造・打ち上げまでやり遂げた規模の大きさに触れたうえで、こう続けました。「もし12か月あったら——いや、あと3か月あるだけでも、まるで違っていたはずです」。
つまりリー氏の見立てでは、足りなかったのは技術ではなく時間でした。スウィフトの高度は日々下がり続けていたため、開発に時間をかければかけるほど、救出そのものが間に合わなくなる。試験を重ねて完成度を上げたくても、その余裕がない。時間との競争を最初から強いられたミッションだった、ということです。
もちろん、これはCEO自身の振り返りであって、あと3か月あれば本当に成功したかは誰にも分かりません。ただ、「軌道が下がりきる前に救出機を用意できるか」という時間の制約が、このミッションの最大の壁だったことは確かでしょう。NASAのジャレッド・アイザックマン長官も「望んでいた結果ではないが、この挑戦に価値があったことは変わらない」という趣旨のコメントを出しています。
なお、LINK自体は今も軌道上にあり、スウィフトをつかむことはしないものの、接近して並走する運用試験は続ける予定です。将来の衛星修理・延命ミッションに向けたデータ集めとして、失敗の中からも持ち帰れるものを持ち帰る形です。

落下の見通し
救出がなくなった以上、スウィフトは大気圏に落ちてきます。NASAの広報担当者によると、再突入は「制御されない再突入」——つまり、落ちる場所や時期を人間がコントロールできない落下になります。時期は早くても2026年10月以降の見込みで、太陽活動などの条件によって前後します。時期が近づけば、NASAが所定の手続きに沿って情報を出すとのことです。
どこに落ちるかについては、軌道の傾きからある程度の範囲が分かります。スウィフトの軌道は赤道に対して21度傾いているため、落ちうるのは北緯21度から南緯21度のあいだ。日本の本土はこの範囲よりずっと北にあるため、本土に落ちてくる心配はありません。そしてこの緯度帯は地球の中でも海の割合がとくに大きい領域です。
機体そのものも、大部分は燃え尽きる見込みです。スウィフトの乾燥質量(燃料を除いた機体そのものの重さ)は613キログラム。軌道監視企業LeoLabsの技術者は「地上に被害を出す恐れがない程度まで分解するだろう」としつつ、望遠鏡のレンズやチタン製のタンクなど、一部の部品は溶けきらずに地上へ届く可能性があると指摘しています。

増え続ける「制御されない再突入」
今回の一件だけを見れば、過度に心配する話ではありません。ただ、専門家が指摘しているのは、もう一段広い問題です。ブリティッシュコロンビア大学で宇宙の持続利用を研究するユアン・ライト氏は、残った破片が海に落ちる可能性がいちばん高いとしながらも、「制御されない再突入は年々増えており、誰かに当たる確率もそのぶん高まっている」と警告しています。衛星の数が急増している今、「役目を終えた機体をどう終わらせるか」は、宇宙開発全体の課題になりつつあります。
実はこの分野、日本も当事者です。JAXAは大型デブリ(宇宙ごみ)の除去を民間と実証する「商業デブリ除去実証(CRD2)」を進めていて、フェーズ1では2024年にアストロスケール社の衛星ADRAS-Jが、軌道上に残る日本のロケット上段への接近・観測を実施しました。続くフェーズ2では、ロボットアームを備えた後継機でこのロケット上段を実際に軌道から取り除く計画が動いています。壊れた衛星やごみに近づき、つかみ、動かす——今回LINKが挑んで届かなかった技術は、まさに世界中で開発競争の真っただ中にあるものです。
スウィフトの落下は、20年以上働いた名機の静かな幕引きであると同時に、「宇宙にある古い道具をどう畳むか」という、これからますます重くなる問いを残していきました。再突入の正確な時期はまだ分かっていません。続報が出たら、また追いかけたいと思います。
出典
NASA Aborts LINK Mission to Rescue Sinking Swift Space Telescope(New Atlas)
Katalyst Space makes progress in restoring control of Swift servicing spacecraft(SpaceNews)


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