
| 名前 | グリパニア(Grypania)。ギリシャ語で「曲がった」を意味する語に由来するとみられる。代表種はグリパニア・スピラリス(spiralis=渦を巻いた) |
| 分類 | 未確定。真核生物の藻類とする説と、シアノバクテリアとする説がある |
| 時代 | 約18億7000万年前(古原生代)から約6億年前(エディアカラ紀)まで |
| 発見地 | アメリカ・ミシガン州(最古の産地)、モンタナ州、インド中部、中国北部・南部 |
| 大きさ | リボンの幅0.5〜2mm、渦巻きの直径1〜2cm前後。伸ばした長さはミシガンの標本で最大9cmほど、他の産地では最大60cmとする記載もある |
グリパニアは、渦巻き状に巻いたリボンの形で岩に残る、原生代の生物です。顕微鏡なしで見える大きさの化石としては最古級で、地球の生命史では「肉眼サイズの生き物」が登場した目安としてよく引き合いに出されます。ただし、何の生き物だったのかは、発見から120年以上たった今も決まっていません。
姿と暮らし
化石として残っているのは、黒っぽい炭質の薄い膜です。1本のリボンが枝分かれせずに、渦巻き、C字、S字、ほぼ直線とさまざまな形で泥岩の表面に張りついています。形がばらばらに見えるのは、死んだあとに海底へ落ちて潰れたときの崩れ方の違いだと考えられていて、2016年に中国の標本を再検討した研究では、これらの形のあいだに中間型が連続して見つかることから、すべて同じ種にまとめられています。
リボンがねじれて折れた跡が残る標本があることから、生きていたときは平たい帯ではなく、柔らかい円筒形の体だったと復元されています。1〜2mmの太さで数十センチまで伸びる、細長い管のような姿です。海底に付着して、体を水中に浮かせて光を受けていたとする復元案が出されていますが、根や付着器官にあたる部分は化石に見つかっていません。
光合成をしていたとする点は、真核藻類説と細菌説のどちらの側もおおむね認めています。当時の海には目に見える大きさの生き物はほかにほとんどなく、同じ地層から出るのは細菌のマットやストロマトライトが中心です。最古の産地であるミシガン州のネゴーニー鉄鉱層は、海に溶けていた鉄が酸素と結びついて沈殿した縞状鉄鉱層で、露天掘りの鉄鉱山から数百点の標本が採集されました。酸素が海に増え始めた時期に、その現場で生きていたことになります。
虫の這い跡から藻へ、藻から細菌へ
グリパニアの化石を最初に記載したのは、アメリカの地質学者チャールズ・ウォルコットです。1899年、モンタナ州のベルト累層群から出た渦巻き状の跡を、虫のような動物が泥の上を這った生痕化石として報告しました。動物の痕跡だとすれば、動物の起源が10億年以上さかのぼることになります。
この解釈は1976年に覆されます。ウォルターとオーラーら3人の研究者が同じ標本を調べ直し、動物の跡ではなく、体そのものが炭質の膜として残った大型の藻類だと結論しました。このときグリパニアという属名が付けられています。渦巻きの径や巻き方が標本ごとに一定していること、そして細菌にしては桁違いに大きいことが、細胞に核をもつ真核生物、つまり藻類だとする根拠でした。
1992年にはハンとランネガーが、ミシガン州の鉄鉱層から出た数百点の標本をサイエンス誌に報告し、当時の年代推定で21億年前としました(その後2002年に火山岩の年代が測り直され、現在は約18億7000万年前とされています)。それまで知られていた産地より数億年古く、真核生物の起源をいちばん早い時期まで引き上げる化石として注目を集めました。
ところが2009年、インド中部のロータス層の標本を調べたシャルマとシュクラは、逆の結論を出しました。同じ地層から、中が空になった糸状の鞘や、細胞らしい区切りが並んだ糸が一緒に出ることを根拠に、グリパニアはシアノバクテリアのなかまである可能性が高いとしたのです。インド産や中国産の保存のよい標本にはリボンを横切る細かな筋があり、これを真核藻類説は体内の仕切りとみなし、細菌説は糸状のシアノバクテリアに見られる細胞の境目とみなします。同じ筋を、両方の説が自分に有利な証拠として読んでいる状態です。
決め手がないのは、化石が炭質の膜に潰れているためです。核や細胞壁のような、真核生物と細菌を分ける決定的な構造が見えません。残っているのは大きさと形だけで、大きさは真核藻類を、形は糸状の細菌を思わせます。虫の跡、藻、細菌と解釈が三度変わり、現在は真核藻類説を主とし細菌説を併記する扱いが一般的です。


出典
Walter, Oehler & Oehler (1976) Megascopic algae 1,300 million years old from the Belt supergroup, Montana: a reinterpretation of Walcott’s Helminthoidichnites(Journal of Paleontology)
Han & Runnegar (1992) Megascopic eukaryotic algae from the 2.1-billion-year-old Negaunee Iron-Formation, Michigan(Science)
Schneider et al. (2002) Age of volcanic rocks and syndepositional iron formations, Marquette Range Supergroup(Canadian Journal of Earth Sciences)
Kumar et al. (2004) Pb–Pb age of earliest megascopic, eukaryotic alga bearing Rohtas Formation, Vindhyan Supergroup, India(Precambrian Research)
Sharma & Shukla (2009) Taxonomy and affinity of Early Mesoproterozoic megascopic helically coiled and related fossils from the Rohtas Formation, the Vindhyan Supergroup, India(Precambrian Research)
Wang, Wang & Du (2016) The long-ranging macroalga Grypania spiralis from the Ediacaran Doushantuo Formation, Guizhou, South China(Alcheringa)
ミシガン州環境局 Oldest Fossil Found in Michigan


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