ダイヤモンドは地球上で最も硬い天然の鉱物として知られているが、条件しだいで液体にもなる。米ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)のチームが、ごく小さなダイヤモンドの試料に強力なレーザーを撃ち込み、地球の中心の3倍を超える圧力と、太陽の表面より高い温度をつくり出して、それが融ける瞬間を捉えた。論文は2026年8月13日付で科学誌Nature Physicsに掲載されている。
この状態が続いたのは10億分の1秒。その一瞬のあいだに、原子の並び方から温度、密度、光の反射率までを測りきったという実験だ。
10億分の1秒の高温高圧
実験の舞台は、ロチェスター大学レーザーエネルギー学研究所にあるOmegaレーザー施設。強力な紫外線レーザーを、人工のダイヤモンド試料に向けて撃つ。
ここで少し意外なのは、レーザーがダイヤモンドを直接融かすわけではないという点だ。レーザーが蒸発させるのは、試料のいちばん外側の層だけ。その層が勢いよく吹き飛ぶ反動で、内側へ向かって強烈な衝撃波が走る。この衝撃波がダイヤモンドの内部を押しつぶし、一瞬だけ極限の圧力と温度をつくる。ロケットが燃焼ガスを後ろに噴き出して前へ進むのと同じ理屈で、外側を捨てることで内側を圧縮している。

到達した圧力は1テラパスカル(1兆パスカル)前後。地球の中心はおよそ360ギガパスカルなので、その3倍を超える。海王星や天王星の中心よりも高い圧力だ。温度のほうは太陽の表面(約5500℃)を上回る。
問題は、この状態が10億分の1秒しかもたないことだった。研究チームはその短い時間のなかで、光の速度計測、放射される光から温度を割り出すパイロメトリ(高温計測)、そして原子の並び方を読み取るX線回折を同時に走らせている。論文の著者であるLLNLのマリウス・ミロー氏によれば、炭素は原子が小さく軽いためX線をほとんど散乱せず、拾うべき信号はかなり弱かったという。衝撃で圧縮されたダイヤモンドを、融けるところまでX線回折で追いかけたのはこれが初めてだとしている。
20年続いた実験と理論の食い違い
LLNLがダイヤモンドの極限状態を調べはじめたのは、今回が初めてではない。同研究所のジョン・エガート氏らは約20年前、高圧下での融解実験を先駆けて行い、そこで奇妙なことに気づいている。ダイヤモンドは融けると密度が上がるのだ。
ふつうの物質は、融けて液体になると密度が下がる。ところがダイヤモンドは逆で、固体のほうが軽い。これは私たちのよく知る例外と同じ振る舞いで、水も液体のほうが氷より重いから氷が浮く。ミロー氏は、この結果はつまり高圧下ではダイヤモンドが液体の炭素に浮くということだと説明している。
この発見はこの分野の節目になったが、同時にやっかいな問題も残した。実験で測られた融解温度と、量子力学にもとづくコンピューターシミュレーションの予測値が、約20%も食い違っていたのである。
この20%は小さな誤差ではない。実験の温度域では1000度以上の開きになる。しかも理論の側がどれだけ計算手法を高度にしても、実験値を再現できなかった。ミロー氏は、理論家たちが最新のシミュレーション技術を使ってもどうしても実験に合わせられなかったと振り返っている。
謎はもうひとつあった。サンディア国立研究所がZマシンという装置の強力な磁場でダイヤモンドを圧縮した実験から、ダイヤモンドは液体になる前にBC8と呼ばれる別の結晶構造にいったん姿を変えるのではないか、という兆候が出ていた。シミュレーションもその見立てを支持していたが、原子の並びを直接測って確かめた人は誰もいなかった。
ずれていたのは理論ではなく測定
今回の新しい測定が示したのは、20年ぶんの食い違いの責任が理論側にはなかった、ということだった。
強化された観測装置で測り直した融解温度は、シミュレーションの予測とほぼ完全に一致した。逆に言えば、20年前の温度測定のほうが1000度以上ずれていたことになる。理論は最初から正しく、合わせにいくべき相手は実験値ではなかった。
エガート氏自身が、当初の温度測定が1000度以上外れていたと分かったのは悔しいとしつつ、新しい診断装置でデータの質がこれほど劇的に上がったことのほうが喜ばしいと語っている。加えて、当時は間接的な推定にとどまっていた「融けた」という判断そのものが、今回X線回折によって直接裏づけられた。20年前の結論は正しく、数字だけが間違っていたわけだ。
現れなかったBC8相
もうひとつの謎、BC8への転移のほうは、逆の答えが出た。
炭素は1テラパスカルに達するまでダイヤモンドの構造を保ったまま、途中の相を経由せずに直接液体になった。密度汎関数理論(原子の電子の振る舞いから物質の性質を計算する手法)は、1テラパスカルあたりを超えるとBC8のほうが安定だと予測していたにもかかわらず、である。
ミロー氏の解釈は、試料に変化する時間がなかったから、というものだ。衝撃を一度しか受けない条件では、原子は並び替わる暇がなく、ダイヤモンドの構造に閉じ込められたままになる。
これは単なる例外報告では終わらない。物質がどう応答するかは、圧力と温度だけで決まるのではなく、その圧力をどういう与え方で加えたかにも左右される、ということになるからだ。高エネルギー密度の実験やシミュレーションを組み立てるうえで、この違いは効いてくる。
核融合の出力への波及
理論と実験がようやく噛み合ったことは、核融合の研究に直接はね返る。
慣性閉じ込め核融合では、燃料を包んだ小さなダイヤモンド製のカプセルに強力なレーザーを当て、生じた衝撃波でカプセルごと内側へ押しつぶす。このとき最初の衝撃でダイヤモンドをむらなく均一に融かしておかないと、つぶれ方がいびつになって反応が失速してしまう。だからLLNLの国立点火施設(NIF)では、確実に融かすために最初の衝撃をやや強めに設定してきた。
今回の結果は、その最初の衝撃をもう少し弱くしても完全に融かせることを示している。ミロー氏によれば、衝撃をゆるめると燃料が圧縮されやすくなり、同じレーザーのエネルギーから引き出せる最大出力が上がる。予測では出力を3倍にできる可能性があるという。
ただしこれには条件が付く。出力を落とす他の要因を抑え込めれば、という前提つきの見通しであって、3倍が確定したわけではない。
氷惑星の内部への手がかり

惑星科学の側にも足場ができた。海王星や天王星のような氷惑星の内部は、直接見に行くことができない。探査機を送り込んでも表面より下は覗けないので、研究者は実験室での再現とモデル計算から推測するしかない。
その内部では、炭素が深いところで結晶化し、落ちていくことで「ダイヤモンドの雨」が生じているのではないか、という説がある。今回の実験は氷惑星の内部を超える圧力まで踏み込んでいるので、そこで得られた融解のデータは、惑星がどう生まれ、どう変化してきたかを考えるうえでの土台になる。
ここで一点、混乱しやすいところを整理しておきたい。「ダイヤモンドは液体の炭素に浮く」と「ダイヤモンドの雨が降る」は、字面だけ見ると食い違って見える。ただしこの2つは舞台が違う。浮くというのは、まわりが純粋な液体の炭素だった場合の話だ。一方、氷惑星の内部で炭素の結晶が沈んでいくと考えられている相手は、水やアンモニア、メタンなどが混ざり合った別の流体である。何に対して浮くか沈むかは、まわりに何があるかで変わる。
LLNLのチームは今後、NIFの設備を使って、さらに再現しにくい極端な条件でのダイヤモンドの振る舞いを調べる計画だという。つぶれていく後半の段階でカプセルがどう応答するのか、衝撃波を何度も浴びせたときダイヤモンドの構造がどこまで保たれるのか。20年かかって片方の食い違いが解けたところで、次の問いが並んでいる状態だ。
出典
- Diamond melting in shock compression experiments at 1 TPa pressures(Nature Physics)
- Melting diamond could unlock triple fusion gain and the secrets of ice-giant planets(LLNL)
- Melting diamond could unlock triple fusion gain and the secrets of ice giant planets(Phys.org)
- Scientists Melted A Diamond and Cracked a Secret of Ice Giants(Universe Today)


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