メモリが高すぎて、Linux機器を作るのをやめた会社が出た

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安価なLinuxタブレットや小型基板を作ってきたPine64が、Linuxが動く製品の生産を当面続けない、と発表した。理由は部品の値上がりである。2026年8月17日、コミュニティ向けのMastodonアカウントに投稿された短い告知がその内容で、DRAM(メインメモリ)とeMMC(基板に直付けする内蔵ストレージ)の不足を挙げ、「近い将来、Linux機器をこれ以上作る計画はない」と書いている。再開するかどうかは、2027年半ば以降の部品価格を見て決めるという。

電子ペーパー端末のPineNoteやタブレットのPineTab2は、いまある在庫が3か月ほどで尽きる見込みだとしている。売り切れたあとに補充はない。一方で、腕時計のPineTimeやはんだごてのPinecil、スマートスピーカーのPineVoiceは、これまで通り生産を続けるという。同じ会社の製品なのに、片方は止まり、片方は止まらない。この線引きが、今回の話の芯である。

Pine64という会社

Pine64は2015年に「Pine A64」という小型のLinux基板で始まった、開発者や趣味の人向けのハードウェアメーカーだ。組み込みニュースサイトのCNX Softwareによると、その後もArmやRISC-VのLinux基板、Linuxスマートフォン、タブレット、電子書籍端末を次々に出してきた。売りは安さと、設計やソフトウェアを公開する姿勢で、Raspberry Piの隣に置かれることの多いブランドである。

近年は、はんだごてや卓上電源のような「道具」にも手を広げていた。CNX Softwareは、以前は年に何回もPine64の新製品を記事にしていたのに、今年これまでに扱ったのはPineVoiceの1件だけだと書いている。しかもそれはLinux機器ではなく、マイクロコントローラ(マイコン)を載せたスマートスピーカーだった。新製品の出方に、すでに兆候はあった。

メモリ価格の現在地

背景にあるのは、この1年で急激に進んだメモリの値上がりだ。市場調査会社TrendForceの集計では、汎用DRAMの契約価格(メーカーと大口購入者の間の取引価格)は2026年の第1四半期に前の四半期からほぼ倍になり、第2四半期も58〜63%上がった。第3四半期の見込みは13〜18%で、上げ幅は縮んでいるが、下がる話ではない。NAND型フラッシュ(SSDやeMMCの中身)も同じ道をたどっていて、第2四半期は70〜75%の上昇だった。

原因としてTrendForceが挙げるのは、AI向けデータセンターの需要である。メモリメーカーが工場の能力をサーバー向けやAI用の高性能メモリに振り向け、パソコンやスマートフォン、そして小さな基板に回るぶんが細った。しかもTrendForceは、eMMCとUFS(スマートフォン向けの内蔵ストレージ)を、NAND製品の中で最も供給が逼迫(ひっぱく)している区分だと見ている。企業向けSSDと製造ラインが重なるうえに利益が薄いので、メーカーにとって後回しにしやすい。Pine64のような小さな会社が使う部品が、いちばん割を食う位置にある。

この波は、すでに大手にも届いていた。Raspberry Piは2026年4月、LPDDR4メモリの価格が1年で7倍になったとして、3度目の値上げを発表している。8GB版のRaspberry Pi 5は175ドル、16GB版は305ドルになった。少し前まで「安い基板」の代名詞だったものが、ミニPCと変わらない値段になっている。それでも、ここまでの流れは全部「値上げ」だった。高くなっても、買おうと思えば買えた。

値上げではなく生産停止という選択

Pine64が選んだのは、その先である。値段を上げて売り続けるのではなく、在庫がなくなったらLinux機器そのものを作らない。告知の中に価格や台数の数字はなく、判断の内訳は書かれていない。Hackadayでこの話を取り上げたジェニー・リスト(Jenny List)氏は、値上げをすると売れる数が減りすぎて生産を続ける意味がなくなったのだろう、と推測している。Hackster.ioのギャレス・ハーフアクリー(Gareth Halfacree)氏も、部品代のせいで販売価格を維持できない水準まで上げるしかなく、その選択肢を取らなかったのだろうと見ている。どちらも記者の読みであって、Pine64自身がそう説明したわけではない。ただ、値上げを重ねてきたRaspberry Piの数字を見れば、小さなメーカーがその競争に付き合えなかったとしても不思議ではない。

そして、告知をもう一度読むと、止まる製品と止まらない製品の線が、きれいに一か所で引かれていることに気づく。止まるのは、PineNote、PineTab2、小型基板、スマートフォンといったLinuxが動く機器。続くのは、PineTime、Pinecil、PineVoiceといったマイコンで動く機器。Linuxか、マイコンか。その違いは、実はそのまま「メモリを別のチップとして買っているかどうか」の違いになっている。

上の図の左側がLinux基板の作りだ。Linuxのような本格的なOSを動かすには、数百MBから数GBのメモリと、OS本体を置く数GB以上のストレージが要る。そのため基板には、プロセッサとは別に、DRAMのチップとeMMCのチップが載っている。この2つが、いま値上がりしている部品そのものである。図の右側がマイコン基板で、マイコンとは、プロセッサとメモリとプログラム用のフラッシュを一つのチップに収めた小さな部品を指す。メモリは数百KBから数MB程度と桁違いに小さいが、外付けのDRAMもeMMCも要らない。市況で値上がりしている部品を、そもそも買っていない。

つまりPine64の製品ラインは、AI需要が直撃する部品を使っているかどうかで、そのまま二つに割れた。同じ会社の中に、値上がりの影響を受ける側と受けない側が並んでいて、受ける側だけが止まった。データセンターの需要と、机の上の小さな基板が、同じDRAMとeMMCを取り合っている。その取り合いの結果が、この線引きに出ている。

マイコンで代わりが利く範囲

リスト氏はこの状況に、明るい面も見ている。安いLinux基板が出回りはじめた10年以上前と比べると、いまの高性能マイコンはずいぶん力をつけていて、これまでLinux基板でやっていた仕事の多くはマイコンで足りる、というのが同氏の見立てだ。センサーの値を読んで送る、モーターを回す、小さな画面に表示する、といった用途なら、確かにマイコンで間に合うことが多い。ESP32のようにWi-Fiまで内蔵したマイコンが、手頃な値段で手に入る時代でもある。そしてメモリが中に入っている以上、今回のような値上がりの影響を受けにくい。

ただし、これはリスト氏の意見であって、どんな用途でも置き換えられるという話ではない。カメラの映像を処理する、Webブラウザやデスクトップ環境を動かす、Pythonの大きなライブラリをそのまま使う、といったことは、いまのマイコンでは難しい。PineNoteのような電子ペーパー端末やタブレットは、そもそもLinuxが動くことが商品の中身なので、マイコンでは代わりにならない。Pine64が「Linux機器にとっては少し暗い話だが」と自ら書いているのは、そのあたりを分かっているからだろう。

残る不確かさ

メモリ価格の上昇をAI需要だけで説明するのは、少し言い過ぎになる。メーカー側の減産や設備投資の周期、為替、地政学的な事情も重なっていて、TrendForce自身も新しい工場の能力が本格的に立ち上がるのは2027年後半から2028年になると見ている。Pine64が「2027年半ば以降」と言っているのは、その見通しと重なる。逆に言えば、少なくとも1年は状況が変わらない前提で、会社が動いているということでもある。

リスト氏が心配しているのは、これが1社で終わらないことだ。同じ部品を同じ立場で買っている小さなメーカーは、Pine64のほかにもたくさんある。CNX Softwareは今年4月に、NVIDIAがLPDDR4の高騰を理由に組み込み向けモジュールJetsonの一部を打ち切ったことも伝えている。値上げで踏みとどまる会社と、作るのをやめる会社。その分かれ目がどこにあるのか、まだ全体像は見えていない。

日本の電子工作でも、Raspberry Piやその類似基板は定番で、値上がりは店頭の値札にそのまま出ている。同人ハードウェアや個人の小規模な製品開発で、Linux基板をモジュールとして組み込んでいる人にとっては、部品そのものが手に入らなくなる事態が現実味を帯びてきた。設計の段階で「本当にLinuxが要るのか」を一度考える、というのが、今回の話から引き出せる一つの実務的な教訓かもしれない。Pine64のLinux機器が戻ってくるのが2027年なのか、もっと先なのかは、いまのところ誰にも分からない。

出典

Pine64コミュニティの告知(Mastodon、2026年8月17日):PINE64 Community (@pine64@treehouse.systems)

CNX Software(2026年8月19日):Pine64 hits pause on Linux devices due to RAM and eMMC shortage/high prices

Hackster.io(2026年8月):PINE64 Calls Time on the Linux Hardware Market, Ceases Production Until the AI Bubble Bursts

Hackaday(2026年8月28日、Jenny List):RAM And EMMC Prices Are So High, Pine64 Has Stopped Linux Device Production

TrendForce(2026年7月3日):AI Server Demand Continues to Support Memory Prices in 3Q26/同(2026年3月31日):AI Server Demand to Drive Memory Contract Price Increases in 2Q26

Raspberry Pi公式ブログ(2026年4月):A new 3GB Raspberry Pi 4 for $83.75, and more memory-driven price increases/CNX Software(2026年4月30日):NVIDIA phases out several Jetson modules due to high LPDDR4 RAM prices and tight supplies

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