太陽系のオールトの雲に、よその星系の天体が数万個まぎれているかもしれない

スポンサーリンク

太陽系の外れにある「オールトの雲」に、よその星系で生まれた小天体が数万個まぎれ込んでいるかもしれない。フランス・ボルドー天体物理学研究所のショーン・レイモンド氏らが、2026年8月24日付で天文学誌「Astronomy & Astrophysics」に発表した研究です。

2017年のオウムアムア以来、別の星系からやってきた天体(恒星間天体)は3つ見つかっていますが、いずれも数週間で太陽系を突き抜けていきました。今回の研究が言っているのは、その仲間のなかに「通り過ぎなかったもの」がいて、しかもそれが太陽系のごく普通の歴史のなかで自然に起きた、ということです。ただし、実際に見つかった天体は1つもありません。コンピューターの計算による見積もりで、その点は先に押さえておきます。

太陽系に居座るよその星の天体

研究を主導したのは、ボルドー天体物理学研究所(フランス国立科学研究センターとボルドー大学)のショーン・レイモンド氏です。共著者は、アメリカの惑星科学研究所のネイサン・ケイブ氏と、ニュージーランドのカンタベリー大学のマシュー・ホプキンス氏。3人で、太陽が他の恒星とすれ違うときに何が起きるかを、大量の粒子を使ったシミュレーションで追いかけました。

結果を一行にすると、太陽はこれまでの一生のうちに、オウムアムアと同じくらいの大きさ(100メートル級)の恒星間天体を数万個ほど捕まえた可能性が高い、というものです。捕まった天体の多くは、太陽から地球までの距離の5万倍より遠く、オールトの雲のいちばん外側に落ち着いていると計算されています。

上の図のように、太陽のそばを別の星が通り過ぎるとき、たまたまその場に居合わせた恒星間天体の一部が太陽の重力圏に取り残される、というのが今回の話の骨組みです。仕組みそのものは単純ですが、どのくらいの頻度で、どのくらいの数が捕まるのかを具体的に見積もったのがこの論文の中身になります。

恒星間天体が通り過ぎてしまう理由

そもそも、なぜ恒星間天体は太陽系に残らないのでしょうか。理由は速さです。よその星系から飛んでくる天体は、太陽の重力を振り切れるだけの速度を最初から持っています。太陽に引かれて一時的に加速し、通り過ぎたあとはまた減速して、もといた速度で銀河の旅に戻る。オウムアムアもボリソフ彗星も、2025年に見つかった3I/ATLASも、みなこのパターンでした。

捕まえるには、この速度を削る必要があります。これまで一番よく研究されてきたのは、木星の重力を使う方法です。木星のそばをうまい角度で通った天体は減速して、太陽を回る軌道に入ることがあります。ただ、この方法で捕まった天体は木星や土星に何度も揺さぶられるため、100万年から1000万年ほどで、また外へ弾き出されてしまいます。太陽系の年齢に比べれば、ほんの一時滞在です。

もう一つ、前提として知っておきたいのが太陽の「縄張り」の広さです。太陽の重力が天体をつなぎとめておける範囲は、太陽から約1パーセク、光年でいえば3光年ちょっとまで広がっています。太陽と地球の距離の20万倍。この範囲の外まで出てしまった天体は、銀河全体の重力に引かれて、もう太陽には戻ってきません。

そして、この3光年という縄張りには、他の恒星がしょっちゅう入り込んできます。研究チームの見積もりでは、およそ5万年に1回。太陽が生まれてからの45億年で数えると、約9万回にもなります。恒星どうしのすれ違いは、珍しい事件ではなく、日常茶飯事なのです。

星のすれ違いが生む捕獲

ここからが今回の研究の核心です。別の星が太陽のそばを通ると、その星の重力で太陽自身が少しだけ横に押されます。すると、太陽の縄張りのなかを通過中だった恒星間天体のうち、太陽に対する相対速度がもともと小さかったものは、太陽の側が動いたぶんだけ「取り残される」形になり、太陽を回る軌道に入ってしまう。天体に力が働いたのではなく、太陽のほうが動いた結果として捕まる、というのがこの仕組みの面白いところです。

シミュレーションで分かったのは、捕獲が起きるかどうかを決めるのは、通り過ぎる星の質量でも距離でも速さでもなく、その3つを組み合わせた「太陽がどれだけ押されたか」の一点だということでした。押される量を速度で表すと、秒速0.1キロメートル、つまり秒速100メートルあたりで捕獲の効率が最大になります。それより弱ければ天体はつなぎとめられず、それより強いすれ違いは起きる頻度が低くなります。

9万回のすれ違いのうち、この条件を満たすほど強いものは、ほとんどありません。研究チームが太陽の遭遇史を1000通り作って調べたところ、捕獲を起こせるほどのすれ違いは中央値で1回、平均で1.7回でした。18%のケースでは一度も起きていません。逆に、7回起きるケースもあります。つまり、45億年のあいだにたった1回か2回の出来事が、いまオールトの雲に残っている捕獲天体のほとんどを作った計算になります。

その1回か2回を起こすのは、たいてい太陽より重い星です。重い星がゆっくり通ると、遠くを通っても太陽を強く押せるからです。捕獲を起こしたすれ違いのうち59%は太陽より重い星によるもので、太陽の半分以下の軽い星は13%にとどまりました。数の上では軽い星が圧倒的に多いのに、捕獲の主役にはなれていないわけです。

そうして捕まる数を、恒星間天体の密度モデルと組み合わせて見積もると、100メートル級で数万個、キロメートル級なら1000個ほど。しかも、この仕組みには木星のような巨大惑星がいりません。星がそこにあって、別の星が通り過ぎれば、それだけで起きる。だから研究チームは、銀河のなかを漂う恒星のほとんどが、同じように捕まえた恒星間天体を薄くまとっているはずだ、と結論づけています。太陽系が特別なのではなく、これが星の普通の姿だ、ということです。

オールトの雲の中での存在感

数万個と聞くと多く感じますが、オールトの雲全体から見ると、この数は驚くほど小さいものです。オールトの雲には、1キロメートルより大きな天体だけでも10億個ほどあると見積もられています。捕まった恒星間天体は、その1億分の1程度。仮に捕獲天体がすべて太陽系の内側まで降りてきたとしても、生え抜きの彗星100万個に1個の割合でしか混じっていません。

これが、「太陽系に数万個ある」と「1個も見つかっていない」が両立する理由です。捕獲天体を彗星の観測記録のなかから見つけ出すには、長周期彗星のカタログが100万個規模になる必要があります。現状ではまったく足りません。論文は、成分の違いから見分けられる可能性には触れつつ、これまでに知られている「成分の変わった彗星」が捕獲された恒星間天体である確率は統計的にきわめて低い、とも書いています。

ひとつ具体例も出ています。太陽は約280万年前、HD 7977という太陽に似た星と比較的近くですれ違ったことが分かっています。このすれ違いが捕獲を起こしたかどうかを計算すると、いちばん近くを通った場合でも太陽を押した量は捕獲の下限をわずかに下回り、捕獲は起きにくかったという結果でした。捕獲を起こした1回か2回が、いつ、どの星との出会いだったのかは、まだ誰にも分かっていません。

見積もりの足場と不確かさ

この話は、二つの仮定の上に立っています。一つ目は、オールトの雲そのものです。オールトの雲は長周期彗星の軌道から存在が推定されている構造で、直接観測されたことは一度もありません。その中身について語る今回の研究は、まだ見えていないものの中に、さらに見えていないものを見積もっている、という位置づけになります。

二つ目は、銀河を漂う恒星間天体の密度です。この値はオウムアムアと3I/ATLASの発見から逆算されていますが、二つの見積もりのあいだには30倍ほどの開きがあり、桁の単位で不確かです。捕獲される数はこの密度にそのまま比例するので、密度が10倍違えば答えも10倍変わります。今回の「数万個」は、オウムアムアの発見から出した高めの密度を使った値で、3I/ATLASの発見から出した低めの密度で計算し直すと、数は30分の1ほどになります。

さらに、捕獲は最も強い1回のすれ違いにほぼ左右されるため、太陽がどんな星とどう出会ってきたかによって、答えはゼロから数百万個まで振れます。中央値の2万個前後というのは、あくまで「もっともありそうな一点」であって、確定した数字ではありません。研究チームは、捕まった天体のうち現在まで残っているのは半分ほどだろう、という単純な仮定も置いています。

それでも、この研究が示した「重力の押し合いだけで、惑星の助けなしに恒星間天体が捕まる」という道筋は、太陽系に限らない一般的な仕組みとして残ります。次に恒星間天体が太陽系を通り過ぎていくとき、その仲間が3光年の彼方でずっと前から太陽を回っているかもしれない。それを確かめる手段は、いまのところありません。

出典

この記事は、以下の情報をもとにまとめました。

Capture of interstellar objects during stellar encounters(Astronomy & Astrophysics 712, A215・査読済み・オープンアクセス)

同論文のDOI

Thousands of Interstellar Objects May Be Lurking in Our Solar System(404 Media)

コメント

タイトルとURLをコピーしました