血漿(けっしょう)を粉にして、常温の棚に1年置いておける——そういう血液製剤が、アメリカで初めて承認されました。
米国食品医薬品局(FDA)が2026年7月29日にライセンスを与えたのは、EZPLAZ(イージープラズ)という凍結乾燥血漿です。製造するのはミネソタ州のVascular Solutions社(医療機器大手テレフレックスの子会社)。2〜25℃で12か月保存でき、付属の滅菌水を混ぜれば2分半以内に輸血できる状態に戻ります。
ただし、承認の条件には見落とせない一文が付いています。使えるのは「ほかの血漿製剤が手に入らない場面」だけ。ふだんの病院で凍結血漿の代わりに使う製品ではありません。
凍結保存という制約
血漿は、血液から赤血球や血小板を取り除いた液体の部分です。この中に、血を固めるはたらきを持つタンパク質——凝固因子が溶けています。大きなけがや肝臓の病気で凝固因子がまとめて足りなくなったとき、それを補うために輸血されます。
問題は、このタンパク質が壊れやすいことです。だから現行の新鮮凍結血漿は、マイナス20℃以下(アメリカの基準ではマイナス18℃以下)で凍らせたまま保管します。日本赤十字社の製剤も同じで、専用の冷凍庫に入れ、使う分だけ取り出して融解する運用になっています。
この「凍らせる」「解かす」がそのまま足かせになります。FDAの評価文書によると、凍結血漿の融解には20〜30分かかります。冷凍庫も、融解装置も、それを動かす電源も要る。戦地の前線、離島の診療所、停電した被災地、飛んでいるヘリコプターの中——そのどれにも、置きようがありません。
そして、大量出血で最も時間が惜しいのはまさにその場面です。重い外傷を負った人のうち約40%が、凝固因子を使い果たして血が止まらなくなる状態に陥ります。戦場で防ぎえた死のうち最も多いのは出血によるもので、その多くは受傷から2時間以内に起きています。
1968年に一度消えた製品
では、粉にすればいいという発想がなかったのかというと、そうではありません。むしろ古い技術です。
第二次世界大戦中、アメリカ軍は凍結乾燥血漿を大量に使っていました。数百万単位が輸血され、当時の記録では副作用も軽いじんましん程度にとどまっていたとされています。
それが消えたのは、性能のせいではありませんでした。当時は複数の献血者の血漿をまとめて(プールして)作っていたうえ、ドナーの選別も感染症の検査も今ほど整っていません。結果として肝炎の伝播が許容できない水準に達し、1968年までに使われなくなりました。
技術が戻ってこられたのは、別の分野が追いついたからです。ドナーの問診と選別、感染症検査、病原体を減らす製造技術——このあたりが1990年代以降に整い、肝炎の問題そのものが小さくなりました。今回のEZPLAZも、複数人分をまとめるのではなく、献血者ひとり分の新鮮凍結血漿(約270ミリリットル)をそのまま凍結乾燥して作られます。
ただ、感染症の問題が片づいても、もうひとつの壁が残っていました。凍らせずに1年置いて、中のタンパク質は本当に無事なのか、という壁です。

常温12か月の内訳
上の図では左右を並べていますが、性能の差は「置ける/置けない」だけではありません。FDAが公開した規制評価文書には、凝固因子の残り具合を12か月にわたって測った表が載っています。ここが今回いちばん見どころのある部分です。
承認された保存条件は「2〜25℃」。幅があります。そして、この幅のどこに置くかで結果がかなり変わります。
4℃に置いた場合、12か月後もほとんどの凝固因子が元の新鮮凍結血漿の85%以上を保っていました。いちばん落ちた第VIII因子でも約22%減にとどまります。
ところが25℃——つまり暖かい室内に置いた場合は、こうなります。
| 成分 | 4℃で12か月 | 25℃で12か月 |
|---|---|---|
| 第VIII因子 | 約22%減 | 約39%減 |
| フォン・ヴィレブランド因子(活性) | 約14%減 | 約40%減 |
| 第IX因子 | 約15%減 | 約32%減 |
| プロテインS | 約14%減 | 約31%減 |
| フィブリノゲン | 約6%減 | 約21%減 |
いずれも、凍結乾燥する前の新鮮凍結血漿を基準にした減り方です。第VIII因子は血友病Aで足りなくなるあの因子、フォン・ヴィレブランド因子は血小板を傷口に貼り付ける役目のタンパク質で、どちらも止血の中心にいます。それが暖かい場所では4割近く目減りする。
それでもFDAは12か月という表示を認めました。すべての因子が、あらかじめ決めておいた合格ラインを満たしていたからです。
つまり、合格ラインが「凍らせた血漿と同じ性能」に置かれていない。「止血のはたらきを支えるのに足りる量が残っているか」に置かれています。EZPLAZは凍結血漿と同等の製品として承認されたのではなく、劣化を織り込んだうえで、それでも役に立つ場面がある製品として承認された——ここが今回の承認の性格です。
そう考えると、あの「ほかの血漿製剤が手に入らないとき」という条件が、単なる但し書きではないことが見えてきます。冷凍庫のある病院では、性能で勝る凍結血漿を使えばいい。EZPLAZが引き合いに出されるのは、比較対象が凍結血漿ではなく「何もない」場面です。FDAはこの限定を、リスクを抑えるための仕掛けとして明記しています。
まだ確かめられていないこと
臨床の裏づけの薄さについても、FDAははっきり書いています。
承認の根拠になった臨床試験は1本だけ。シンシナティ大学で行われた第1相試験で、参加したのは健康な成人24人です。8人ずつ3つのグループに分かれ、それぞれ270ミリリットル、540ミリリットル、810ミリリットルを投与されました。死亡も重篤な有害事象もなく、いちばん多い量を入れたグループでは、投与後の凝固因子の値が凍結血漿を入れたときと同程度になっています。
ただし、この24人は全員、自分の血漿を戻されています。あらかじめ献血しておいた本人の血漿を凍結乾燥して、本人に輸血する形です。この設計だと感染症のリスクは消せますが、他人の血漿を使う実際の輸血に結果をそのまま当てはめることはできません。FDA自身がこれを限界として挙げています。
加えて、対象は健康な人であって、実際に使われる相手——出血して危険な状態にある人ではありません。生存率が凍結血漿より良くなるかどうかを示したデータも、ありません。
とくに宿題として残っているのが血栓塞栓症、つまり血のかたまりが血管を詰まらせる副作用です。既存の報告では、従来の凍結血漿で3〜15%、凍結乾燥血漿で1.3〜12%の発生率が報告されています。ただ、重い外傷を負った人はもともと血栓ができやすいので、24人の健常者のデータからはこの製品自体のリスクを切り分けられません。そのためFDAは承認の条件として、SAFE-PLASMAという比較試験を課しました。完了予定は2030年9月です。
使用上の制限もいくつかあります。溶かしたあとは4時間以内に輸血しなければならず、冷蔵も再凍結もできません。血漿にアレルギーのある人と、IgA欠損症(免疫グロブリンAが生まれつき足りない体質)の人には使えません。また、承認されているのは成人のみで、子どもに使うための試験は別枠で、2031年までかかる見込みです。
血液型はAB型と、抗B抗体の少ないA型の2種類だけが用意されています。血液型を調べる前に輸血せざるを得ない状況を想定した組み合わせです。輸血関連急性肺障害(輸血のあとに起きる重い呼吸障害)を減らすため、原料の血漿は男性の献血者からのみ集められています。妊娠を経験した女性の血漿には白血球に対する抗体ができていることがあり、これがこの障害の引き金になりうるためです。
日本での位置づけ
日本では、輸血用血液製剤を製造できるのは日本赤十字社だけです。凍結乾燥血漿は国内で承認されておらず、現在使えるのは冷凍保存の新鮮凍結血漿になります。
ただ、関心そのものはあります。防衛省は2023年から血液製剤に関する有識者検討会を開いており、テルモの米国子会社テルモBCTは、米国防総省系の助成を受けて凍結乾燥血漿の開発を続けています。地震や離島の多い国の事情を考えれば、常温で運べる血漿という発想が刺さる場面は想像しやすいところです。
いっぽうで、日本で血液製剤を語るときには薬害の記憶がついてまわります。EZPLAZの歴史がまさに、感染症の伝播で製品が消えた話でもありました。今回はドナーひとり分を単位に作り、現代の検査を通していますが、FDAの文書も「感染性の病原体が伝わる可能性は残る。ドナーの選別と検査でこの危険はなくならない」と明記しています。輸血一般に共通するリスクで、この製品に固有のものではない、という書き方です。
もうひとつ、この承認には裏話めいた記録が残っています。申請は2021年1月。5年半かかりました。ただし2021年に一度差し戻されたときの理由は、臨床データでも統計でもなく、製造上の不備だけでした。凍結乾燥用の袋を無菌に保てるかの検証と、袋への異物混入。粉にすること自体より、それを入れる袋のほうが難所だった、ということになります。
出典
FDA|Summary Basis for Regulatory Action — EZPLAZ Freeze Dried Plasma(BLA 125702、2026年6月29日付、PDF)
FDA|FDA Licenses First-Ever Freeze-Dried Plasma Product in the U.S.(2026年7月29日)
ScienceAlert|The FDA Just Approved The First US Freeze-Dried Plasma, Ready in Minutes
凝固因子の残存率はFDAの規制評価文書に掲載された安定性試験の表(Table 1・Table 2)にもとづきます。JAMAはこの承認をニュース記事として報じており、研究論文ではありません。


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