南極で拾われた一つの隕石のなかに、46億年前の磁場の記録が残っていた——そんな研究結果を、MIT(マサチューセッツ工科大学)のチームが発表しました。調べたのは、隕石に含まれるミリ以下のちりの粒。太陽系で知られているかぎり、もっとも古い物質です。この粒に閉じ込められていた磁気を読み出したところ、太陽系のいちばん最初の時期に、思いのほか強い磁場が働いていたことが分かってきました。

丸い雲から円盤への変化
太陽系は、ガスとちりでできた巨大な雲から生まれました。約46億年前、この雲が縮み始め、やがて回転する平たい円盤(原始惑星系円盤)になります。円盤の中心で太陽が生まれ、残った材料から惑星ができました。
「丸い雲」が「平たい円盤」に変わる。この一段が、太陽系の歴史のなかでもとくに大きな出来事です。研究チームを率いたMIT教授のベンジャミン・ワイス氏も、この移り変わりを「太陽系史でもっとも重要な出来事のひとつ」と表現しています。
では、何がこの変化を引き起こしたのか。長いあいだ、主役とされてきたのは重力でした。物質を引き寄せて集める力ですから、当然の候補です。ただ、もうひとつ疑われてきた力があります。磁場です。生まれたばかりの星のまわりでは、電気を帯びた粒子がぐるぐる動くことで磁場が生まれます。理論のうえでは、この磁場が円盤の構造やガスの流れに影響したはずだと考えられてきました。
問題は、46億年前の磁場を、どうやって確かめるかです。
鉱物に磁場が残る仕組み
じつは、昔の磁場を読み出す方法があります。鉄などの磁気を帯びやすい鉱物は、高温の状態から冷えて固まるとき、そのときその場所にあった磁場の向きと強さを、そのまま内部に固定します。あとから強く熱されたりしないかぎり、この記録は何十億年でも消えません。
この性質を使う研究分野を古地磁気学といいます。地球の岩石で昔の磁場を読み、大陸移動の証拠を見つけたのと同じ手法です。今回のチームは、これを地球の岩石ではなく、宇宙から降ってきた石に適用しました。
調べたのは、DOM 08006という隕石です。2008年、東南極のドミニオン山脈(Dominion Range)で回収されました。名前のDOMは、この採取地の頭文字です。
この隕石が選ばれたのには、はっきりした理由があります。ワイス氏によると、ほとんどの隕石は46億年のあいだにさまざまな作用を受けています。星雲のなかで生まれ、水を含む天体に取り込まれ、壊され、小惑星帯を経て、ようやく地球に落ちてくる。その過程で熱や水にさらされると、鉱物の磁気記録は上書きされてしまいます。ところがDOM 08006は、知られている隕石のなかでも並外れて変質が少なく、最初の状態をほぼ保っていました。記録が残る条件は、その後に何も起きなかったこと。この石は、その条件を偶然クリアしていたのです。
最初の20万年に刻まれた記録
チームが注目したのは、隕石のなかに散らばるCAI(カルシウム・アルミニウムに富む包有物)と呼ばれる、ミリに満たない小さな粒です。CAIは太陽系で見つかっている物質のなかで最古のもので、太陽系が形づくられ始めてから最初の20万年のあいだにできたとされています。太陽そのものが、まだ組み上がっている途中だった可能性のある時期です。
チームは隕石から粒を取り出し、鉄を含む磁性鉱物を持つCAIを慎重に選び分けて、そこに残る磁化を高感度の装置で測定しました。
結果、粒には磁場の痕跡がはっきり残っていました。読み出された強さは150〜600マイクロテスラ。いまの地球の磁場(場所によりますがおよそ25〜65マイクロテスラ)と比べると、約3〜12倍にあたります。もっとも、これは星のまわりの円盤全体に広がる磁場と、惑星の表面の磁場という、規模も性質もまったく違うものの比較です。あくまで強さの目安として受け取ってください。
ここで効いてくるのが、時期の早さです。原始惑星系円盤の磁場は、これまでにも隕石から検出されていました。ただしそれは、太陽系が形づくられ始めてから約200万年後の記録。その時点では太陽はすでに存在し、惑星づくりが始まっていたと考えられています。今回の記録は最初の20万年、つまりこれまでの10分の1の時期のものです。惑星の材料が集まるより前、太陽が生まれつつあるまさにその段階で、強い磁場が働いていた——その可能性が実測にもとづいて示されたのは、今回が初めてです。
筆頭著者のカウエ・ボルリナ氏(MIT大学院時代にこの研究を主導し、現在はパデュー大学助教)は、この磁場がガスを円盤から中心の星、つまり太陽へと送り込む手助けをしていたと考えています。重力ももちろん働いていた。ただ、太陽と惑星がどうできたかを本当に理解したいなら、材料のリストに磁場を加えるべきだ——それがチームの主張です。
残された議論と日本との接点
誤解のないように書いておくと、これで太陽系形成の謎が解けたわけではありません。今回示されたのは「最初の20万年の時点で、強い磁場が存在した」という事実です。その磁場が、丸い雲から円盤への変化をどこまで駆動したのかは、まだ議論の途中です。ボルリナ氏自身、惑星ができる段階に磁場が関わることはもう争点ではないが、それより前の、円盤しかない時期については議論が続いており、自分たちが取り組んでいるのはまさにそこだと述べています。
最後に、この話は日本と無縁ではありません。DOM 08006が拾われた南極は、地球上でもっとも隕石が集まりやすい場所として知られていて、日本はその南極隕石の収集で世界をリードしてきた国のひとつです。国立極地研究所には約17,000個の南極隕石が保管されていて、世界最大級の地球外物質コレクションとされています。2024年には、このコレクションが国際地質科学連合(IUGS)の重要地質コレクションに、アジアで唯一選ばれました。変質の少ない物質から太陽系の最初を読むという発想は、リュウグウの試料を持ち帰った「はやぶさ2」にも通じるものです。南極の氷の上で黒い石を拾う地道な営みが、46億年前の太陽の産声に届く。そういう研究が、これからも続いていきます。
出典
Borlina et al., “Paleomagnetic Evidence for a Nebular Magnetic Field from Calcium-Aluminum-rich Inclusions”, PNAS (2026):https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2521660123
MIT News(2026年8月24日):”Meteorite dust holds records of magnetism that may have helped form the sun”:https://news.mit.edu/2026/meteorite-dust-holds-records-magnetism-may-have-helped-form-sun-0824
Universe Today(2026年8月30日):”Ancient Dust Grains Hold Magnetic Clues to the Sun’s Birth”:https://www.universetoday.com/articles/ancient-dust-grains-hold-magnetic-clues-to-the-suns-birth


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