
| 名前 | スプリッギナ(Spriggina/「スプリッグの生き物」の意。発見者レグ・スプリッグさんにちなむ) |
| 分類 | 所属不明(絶滅した門「プロアルティキュラータ」とする説など諸説あり) |
| 時代 | 先カンブリア時代・原生代末のエディアカラ紀(約5億5000万年前) |
| 発見地 | オーストラリア・南オーストラリア州フリンダース山脈(ここ以外からは見つかっていない) |
| 全長 | 約3〜5cm |
スプリッギナは、約5億5000万年前のエディアカラ紀の海底に生きていた、細長く節の連なった体を持つ生き物です。三日月形の「頭」らしき部分と、後ろに向かって細くなる胴を持ち、一見するとゴカイや三葉虫の親戚に見えます。ところが体の節をよく見ると左と右がきれいに向かい合っておらず、半歩ずつずれて並んでいます。この「半歩のずれ」のせいで、発見から半世紀以上たった今も、何のなかまなのかが決まっていません。
姿と暮らし
体は細長い楕円形で、大きさは3〜5cmほど。先端には馬蹄形の頭部らしき区画があり、そこから後ろへ、細い節が数十個連なって、しだいに細くなりながら終わります。節が斜め後ろに傾いてシェブロン模様(山形の連なり)になった標本もあれば、ほぼまっすぐな標本もあります。
化石はすべて、砂岩の層の底面に残された型として見つかります。殻や骨のような硬い部分はなかったものの、型がはっきり残る程度には丈夫な体だったことがうかがえます。一方で、脚は一本も見つかっていません。目があったのではないかとする見方もありますが、化石が刻まれた砂岩の粒が粗く、体の細部を読み取るのが難しいため、確認には至っていません。頭部の中央に丸い口らしき構造を残す標本もありますが、これも同じ理由で解釈が定まっていません。
当時の海底は、微生物が織りなすマット状の膜に一面覆われていました。スプリッギナはその上で暮らし、頭と尾の区別がある体つきから、自力で動けたと考える研究者が多くいます。捕食者だった可能性を指摘する声もありますが、口の確認すら難しい以上、何を食べていたかは推測の域を出ません。同じ地層からは、ディッキンソニアやトリブラキディウムなど、エディアカラ紀を代表する軟らかい体の生き物たちが一緒に見つかっています。
左右対称のようで、半歩ずれている
スプリッギナの分類は、記載された1958年から揺れ続けています。命名者のマーティン・グレスナーさんは、節の連なる体つきからゴカイのなかま(環形動物)と考えました。その後、馬蹄形の頭部が三葉虫の頭とよく似ていることから、三葉虫を含む節足動物の祖先に近いとする説が唱えられ、カンブリア紀に爆発する動物たちの先駆けとして注目を集めました。
この見方に待ったをかけたのが、体の節の並び方です。ゴカイでも三葉虫でも、体の節は左右が鏡写しに向かい合います。ところがスプリッギナの節は、左と右が半歩分ずれて互い違いに並んでいます。この並び方は「滑り対称」と呼ばれ、現在生きているどの動物の体制とも一致しません。ロシアの研究者たちはこのずれを本物の体のつくりとみなし、スプリッギナをディッキンソニアなどとともに、先カンブリア時代の終わりに滅んだ独自の門「プロアルティキュラータ」に分類しました。門はもっとも大きな分類の単位のひとつで、節足動物門や脊索動物門と並ぶ枠です。この説に立てば、スプリッギナは何かの祖先ではなく、子孫を残さず消えた系統の一員ということになります。
ただし、話はここで終わりません。このずれが本当に生きていたときの体のつくりなのか、それとも柔らかい体が砂に埋もれて化石になる過程でついた歪みなのかをめぐって、研究者の意見が割れています。オーストラリアの研究者には歪みとみる立場が多く、ロシアの研究者は本物のつくりとみる立場をとっており、2022年の総説論文でもこの対立は解消されていないと整理されています。体の節が半歩ずれているかどうか、というたった一点が、この生き物を三葉虫の親戚にも、絶滅した門の住人にもしてしまう分かれ道になっています。
発見者の名前を背負った化石
属名のスプリッギナは、地質学者のレグ・スプリッグさんに由来します。スプリッグさんは1946年、南オーストラリア州のエディアカラ丘陵で鉱山の調査中に、岩の表面に残る奇妙な生き物の痕を見つけました。これが後に「エディアカラ生物群」と呼ばれる大発見の始まりです。当初は著名な地質学者ダグラス・モーソンさんをはじめ周囲の理解を得られませんでしたが、スプリッグさんは価値を訴え続け、やがてこれらが当時知られていた中で最古級の大型生物の化石だと認められました。種小名のフロウンダーシは、化石探しに貢献したアマチュアのベン・フロウンダースさんにちなみます。
2017年には、南オーストラリア州の公式な「州の化石」に採用されました。州民投票ではディッキンソニアやトリブラキディウムなどを抑えて約半数の票を集めています。選定にあたってはデイビッド・アッテンボローさんも推薦の言葉を寄せ、頭部と節のある体から原始的な脳を持っていた可能性に触れました。世界でフリンダース山脈からしか見つかっていないこの化石は、発見者の名前とともに、州の象徴になっています。


出典
Ivantsov, A. Yu. Vendian Animals in the Phylum Proarticulata
Geological Magazine (2022) Following the logic behind biological interpretations of the Ediacaran biotas
南オーストラリア州総督府 Prehistoric Wonders: Fossils from South Australia’s Past
ABC News Reg Sprigg honoured with South Australia’s first fossil emblem, the Spriggina
南オーストラリア州政府 YourSAy Help choose a fossil emblem for South Australia


コメント