パンツを2,000枚埋めて土の元気を測る——スイスの市民科学「Proof by Underpants」

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土のなかに綿のパンツを埋めて、2か月後に掘り出す——それだけで、その土がどれくらい「働いているか」が分かる。そんな調査の結果が、2026年8月25日付で学術誌 Plants, People, Planet に掲載されました。舞台はスイス。チューリッヒ大学(UZH)とAgroscope(スイス連邦の農業研究機関)が共同で立ち上げた市民科学プロジェクトで、その名も「Proof by Underpants(証拠品はパンツ)」。参加した市民はおよそ1,000人、埋められた綿の下着は2,000枚を超えます。

掘り出されたパンツは、縫い目だけを残してほとんど骨組みになっていたものもあれば、穴が1つ2つ空いただけのものもありました。このぼろぼろ具合の差こそが、調査の中身そのものです。

足元で進む土壌の劣化

土は、私たちの食料のほとんどを支える土台です。水や炭素、養分をたくわえ、地球の生物多様性の半分以上は地面の下にいると見積もられています。ところがその土壌の生き物たちは世界的に減り続けていて、農業や食料の安定供給、生態系のはたらきそのものに影響が及びかねない状況にあります。

問題は、この劣化がほとんど気づかれないまま進むことです。土のなかの微生物やミミズの数は、目で見ても分かりません。専門的な土壌分析は手間もお金もかかり、結果の数字を見ても一般の人にはピンとこない。「土が弱っている」という話が社会に届きにくいのは、測って伝える手段が身近になかったから、という面があります。研究チームがパンツを持ち出したのは、まさにこの「届きにくさ」を崩すためでした。

下着が土のセンサーになる仕組み

仕組みは単純です。綿はセルロース、つまり植物由来の繊維でできています。土のなかの微生物や菌類、ミミズなどの生き物にとって、セルロースは分解できる「食べもの」です。だから、土の生き物が活発な場所に埋めた綿ほど、速くぼろぼろになる。掘り出したときの残り具合が、そのままその土の生物活動の目安になるわけです。

綿を土に埋めて分解を測る手法自体は、以前からありました。綿の布切れを使う方法や、規格をそろえたティーバッグを埋める「ティーバッグ指数」は、研究の世界で使われてきた確立された測り方です。研究チームも当初は綿の四角い布や靴下を検討したそうですが、それで一般の人が面白がって参加してくれるだろうか、と考えた末にパンツを選んだと、チーム自身が科学誌 Science への寄稿でふりかえっています。狙いどおり、「パンツを埋める」という一点でこのプロジェクトは国内外の注目を集めることになりました。

市民1,000人と歩いた調査の手順

調査は2021年に始まりました。参加した約1,000人の市民には、綿100%の下着2枚とティーバッグ12個、土壌サンプル用の袋がセットで配られます。参加者は自分の庭や畑、牧草地、芝生などを選んでそれらを埋め、2か月後に掘り出して写真を撮り、土のサンプルと一緒に研究室へ郵送する。この手順を全国およそ1,000地点でそろえて行いました。合計すると、下着2,000枚超とティーバッグ12,000個。スイス全土の土壌の生物活動を示す、同国でもっとも網羅的な部類のデータセットができあがりました。

ティーバッグを併せて埋めたのには意味があります。前述のとおりティーバッグ指数は国際的に使われている標準の測り方なので、パンツの結果とティーバッグの結果を突き合わせれば、「パンツはちゃんと測れているのか」を検証できるからです。結果として両者は同じ傾向を示し、下着は測定ツールとしても使い物になることが確かめられました。

最下位は刈り込まれた芝生

分解のスピードは、場所によって大きく違いました。そして、その違いをいちばんよく説明したのは、土の性質そのものよりも「その土地がどう使われているか」でした。

いちばん分解が進んだのは、個人の庭。2か月で綿のおよそ58%が分解されていました。個人の庭は、調べた土地利用のなかで有機炭素と養分がもっとも多く、ミミズや菌類、細菌といった分解者がもっとも活発に働いていた場所です。持ち主が植え付けをし、肥料をやり、土を耕す——そうした手入れの積み重ねが、土の生き物を養っていたと考えられます。

反対に最下位は、建物のまわりによくある刈り込まれた芝生で、分解率は40%前後にとどまりました。芝という単一の植物で覆われた土は、調べたなかでもっとも生物活動が乏しかったのです。畑と牧草地はその中間でした。見た目には整った緑の芝生の下で、土がいちばん静かだった——これはこの調査の分かりやすい発見のひとつです。

最速だった庭に潜む栄養過多のサイン

ここまでを読むと、「分解が速い=生き物が元気=良い土」という式が頭に浮かびます。ところが、論文はそこにはっきり待ったをかけています。分解が最大であることは、土が健康であることを意味しない——ここがこの研究のいちばん大事な注意書きです。

優勝した個人の庭の土を分析すると、リン・窒素・カリウムの濃度が高く、これは肥料がたっぷり使われてきたことのあらわれでした。とくにリンは、土壌管理や作物生産の基準値を大きく超えている庭が少なくなかったといいます。養分が多すぎる土は、雨で流れ出せば周辺の川や湖の水質を悪化させ、地域の生物多様性を脅かしかねません。つまり、パンツを最速でぼろぼろにした土は、裏を返せば「肥料のやりすぎ」のサインを抱えていた可能性があるのです。

プロジェクトを率いた一人であるAgroscopeの農業生態学者フランツ・ベンダー氏は、森林のような自然に近い環境では、養分の濃度が非常に高いことはむしろ自然の均衡が乱れているサインになりうるし、庭でも下着の分解が速すぎる場合は養分の供給過剰を示しているかもしれない、と説明しています。そういう場所では、肥料を減らすことを検討する価値があるというわけです。

研究チームは、この測り方を「パンツ指数(Underpants Index)」として提案しています。ただしこの指数が教えてくれるのは、どの土が「肥えて活発か」であって、どの土が「健康か」そのものではない。健康かどうかを判断するには、養分の量や周囲の環境まで含めた、その先の分析が必要になります。分解の速さは万能の成績表ではなく、土の状態をのぞく最初の窓——それがチーム自身の位置づけです。

自宅で埋めるときの注意点

この調査の魅力は、原理的には誰でも同じことを試せるところにあります。実際、スイスの参加者たちは埋めて、待って、掘るだけで自分の土地のデータを取り、研究チームからは土壌分析の結果や管理のアドバイスといった個別のフィードバックを受け取っています。

もし自分の庭で試してみるなら、押さえておきたい点が2つあります。まず、埋めるのは綿100%のものにすること。化学繊維が混ざっていると分解されずに残り、測定にならないうえ、土にごみを埋めただけになってしまいます。そしてもうひとつ、埋めたものは必ず掘り出して回収すること。ゴムひもの部分など分解されにくい部品は土に残るので、置きっぱなしにしない前提で始めるのが大切です。

また、今回の数字はあくまでスイスの気候と土壌で出たものです。気温や湿度、土質が違えば分解のスピードは変わるので、日本の庭で2か月埋めて58%になるわけではありません。比べるなら「よその基準値と」ではなく、「自分の庭の場所どうし」や「季節どうし」で比べるのが現実的な使い方でしょう。

解釈上の留意点

この研究を読むうえで、頭に置いておきたい点をまとめます。分解の速さは土壌の生物活動の目安にはなりますが、上で見たとおり「速いほど健康」ではありません。庭・畑・芝生といった土地利用ごとの傾向は約1,000地点の平均的な姿であって、個々の場所には当てはまらないこともあります。調査の実施は2021年で、結果が論文としてまとまったのが今回、という時間差がある点にも注意してください。そして、これはスイス国内の調査であり、別の気候・土壌条件の地域にそのまま数字を持ち込むことはできません。

それでも、専門機器なしで土のなかの生き物の働きを「見える化」し、1,000人の市民と一緒に国土規模のデータセットを作り上げたことは、この手法の確かな成果です。研究チームは、いずれ世界のほかの場所でも汚れたパンツが掘り出される日が来るかもしれない、と展望を述べています。

出典

この研究は、2026年8月25日付で学術誌 Plants, People, Planet に掲載されています(査読済み)。

原論文:Bender, S.F. et al. “Soil health assessment using buried cotton underpants with the help of 1000 citizen scientists.” Plants, People, Planet (2026)

プレスリリース:Buried Underwear Shows Land Use Is Key to Soil Health(チューリッヒ大学、2026年8月)

紹介記事:Soil Scientists Buried 2,000 Pairs of Underwear to Prove a Point(ScienceAlert、2026年8月31日)

研究チームによる寄稿:Assessing soil health with underpants(Science)

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