2018年10月に打ち上げられた日欧共同の水星探査機ベピコロンボが、2026年9月3日の夜、水星への「到着フェーズ」に入ります。日本時間21時00分、これまで2機の探査機を運んできた電気推進モジュール(MTM)を切り離す予定です。打ち上げから8年。太陽系でいちばん内側の惑星の玄関口に、ようやくたどり着きました。
この分離の様子は、ESA(欧州宇宙機関)がドイツの管制センターからライブ配信します。配信開始は日本時間20時45分。分離後はいったん休憩を挟み、22時30分ごろから配信を再開して、切り離された探査機からの信号受信(最短で22時53分)を見守る流れです。JAXA相模原チャンネルでも、20時00分から配信が予定されています。

日欧2機による水星探査計画
ベピコロンボは、ESAとJAXA(宇宙航空研究開発機構)が共同で進める水星探査計画です。名前は、水星の自転と公転の不思議な関係(公転2回のあいだに3回自転する)を解き明かしたイタリアの数学者、ジュゼッペ・”ベピ”・コロンボにちなんでいます。
探査機は2機。ESAの水星表面探査機MPOと、JAXAの水星磁気圏探査機「みお」です。役割ははっきり分かれていて、MPOが水星の表面と内部を、みおが水星をとりまく磁場の領域(磁気圏)を調べます。この2機を水星まで運ぶ輸送役が、今回切り離される電気推進モジュールMTMでした。打ち上げからずっと、3つがひとつに連結した状態で飛んできたわけです。
欧州にとっても日本にとっても、水星に探査機を送るのはこれが初めてです。そして水星の周回軌道に入る探査機としては、NASAのメッセンジャー(2011〜2015年に周回)に続く史上2例目。2機同時に周回するのは初めてになります。
8年と9回のスイングバイを要した行程
水星は地球のすぐ内側の隣の隣、距離だけ見れば近い惑星です。それなのに、行くのに8年かかりました。木星より遠くへ行った探査機でも、ここまでかかっていないものがあります。
理由は、太陽に近づくほど探査機が「加速してしまう」ことにあります。太陽の重力に引かれて内側へ向かうのは、坂道を転がり落ちるようなもので、放っておくとどんどん速くなる。ところが水星は小さくて重力が弱く、速度を落とさずに近づいても、素通りするか衝突するかしかありません。だから水星に行く旅は、実は「ずっとブレーキを踏み続ける旅」なのです。
ベピコロンボはこの減速のために、地球で1回、金星で2回、水星で6回、合計9回のスイングバイ(惑星の重力を使った軌道変更)を重ね、あわせてMTMのイオンエンジンを長時間噴かし続けてきました。何度も水星をかすめては離れる、遠回りに見える航路は、すべて速度合わせのためです。途中、MTMの電力系の不具合でエンジンを全開にできなくなり、到着が当初予定の2025年末から約1年延びるという場面もありました。それでも2026年6月に最後の電気推進の噴射を終え、役目をほぼ果たし終えたところまで来ています。
分離から始まる7か月の到着シーケンス
ただ、ここまで読んで「9月3日に到着」と思うと、少し違います。水星は、行くのも大変ですが、着くのはもっと大変な惑星です。ESA自身が今回の一連の運用を「これまで実施した中で最も困難な惑星到着シーケンスのひとつ」と呼んでいて、9月3日の分離は、その長い到着プロセスの最初の一歩にすぎません。
スケジュールを並べると、こうなります。まず9月3日にMTMを分離。この時点ではまだ水星の重力に捕まっておらず、2機の探査機(みおとMPO、まだ連結したまま)は自力で飛行を続けます。水星の重力に捕獲されるのは11月21日。そこから軌道を整えていき、12月9日か10日に、MPOがみおを最終軌道へと放します。みおの軌道は、水星に高度590kmまで近づき、11,640kmまで離れる細長い楕円です。磁気圏は水星のまわりに大きく広がっているので、遠くまで往復するこの軌道が観測に向いています。
みおを放したMPOは、その約1週間後から自分の軌道へ移る操作を始め、最終軌道(高度480km×1,500km)に落ち着くのは2027年3月10日の予定です。表面を細かく観測するMPOは、水星にぐっと近い軌道を回ります。そして2機そろっての科学観測の開始が、2027年4月6日。つまり今夜の分離から観測開始まで、まだ7か月あります。「到着」は一瞬のイベントではなく、秋から春まで続く長い工程なのです。
そして今夜の分離には、もうひとつ意味があります。輸送役のMTMを手放すということは、ここから先の減速や軌道変更は、すべて探査機自身の小さなスラスタでやり切るということです。そのやり直しのきかない道の入り口が、今夜の分離です。

周回軌道で待つ観測テーマ
水星は、内側の太陽系で最も探査が進んでいない惑星です。表面の組成、内部が溶けているのかどうか、そして小さな惑星なのに磁場を持っているのはなぜか。メッセンジャーが残した宿題が、まだたくさんあります。
たとえば2026年夏には、メッセンジャーの古いデータの再解析から「水星には現れたり消えたりする放射線帯があるらしい」という研究が発表されました。ただしこれは間接的な測定にもとづくもので、放射線の強さまでは分かっていません。研究チーム自身が「ベピコロンボなら直接確かめられる」と述べていた、まさにその観測が、2027年4月から始まることになります。磁気圏が専門のみおにとっては、うってつけのテーマです。
観測期間は最低でも地球の1年間。水星の地図づくりから磁場の起源まで、2機の分担で進みます。まずは今夜、8年間連れ添った推進モジュールとの別れがうまくいくかどうか。配信でその瞬間を見届けられます。
出典
ESA「Watch live: BepiColombo begins its arrival at Mercury」(2026年8月27日)
https://www.esa.int/Enabling_Support/Operations/Watch_live_BepiColombo_begins_its_arrival_at_Mercury
JAXA 水星磁気圏探査機「みお」公式サイト
https://mio.isas.jaxa.jp/
Space.com「2 spacecraft headed to Mercury are about to begin their long-awaited arrival for Europe and Japan — watch it live on Sept. 3」(2026年9月2日・Mike Wall)
https://www.space.com/space-exploration/launches-spacecraft/bepicolombo-mission-begins-mercury-arrival-phase-esa-jaxa
アストロピクス「【ライブ配信予定を紹介】水星到着への第一歩 ベピコロンボの電気推進モジュールから「みお」とMPO分離」(2026年9月1日)
https://astropics.bookbright.co.jp/mtm-separate


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