2026年9月2日、性格と遺伝子の関係を調べた過去最大の研究がNature誌に掲載されました。ミシガン州立大学のTed Schwaba氏らによる国際チームが、46の研究グループのデータを束ね、最大114万人分のゲノムを解析したものです。
この論文、同じ日に出たニュースの見出しがきれいに割れました。Nature自身のニュースは「巨大研究が性格と1,200超の遺伝子変異を結びつけた」。一方、科学ニュースサイトのScienceAlertは「みんなDNAが性格を形づくると思っている。実は別のものが大部分を担っていた」。同じ論文を紹介しているのに、片方は「遺伝子が見つかった」、もう片方は「遺伝子じゃなかった」と読めます。
どちらかが間違えたわけではありません。この記事では、研究の中身を追いながら、なぜこんなことが起きるのかを見ていきます。
ビッグファイブと遺伝子研究のこれまで
ビッグファイブは、人の性格を5つの軸でとらえる心理学の枠組みです。外向性(社交的でエネルギッシュか)、協調性(思いやりがあり人を信頼するか)、誠実性(計画的で責任感があるか)、神経症傾向(不安や落ち込みを感じやすいか)、開放性(想像力や好奇心が豊かか)。数十年の研究の積み重ねで、性格の個人差はこの5軸でおおむね整理できるとされています。
性格に遺伝が関わること自体は、以前から分かっていました。一卵性双生児と二卵性双生児を比べる双子研究では、性格の個人差の40〜60%ほどが遺伝で説明できると推定されてきました。ただし双子研究で分かるのは「遺伝の影響がどのくらいあるか」という総量だけで、「どの遺伝子が」という具体的な場所までは分かりません。
そこで使われるのがGWAS(ゲノムワイド関連解析)です。大勢のゲノムを比べて、性格の点数と一緒に動く遺伝子変異を探す手法です。ところが性格のGWASは、身長や学歴といった他の形質の研究に比べて大きく出遅れていました。大規模なゲノムデータベースの多くが、心理学で使う性格の質問票をきちんと取っていなかったからです。実際、これまでに見つかっていた変異の数は、誠実性でわずか3個、協調性で4個。いちばん研究が進んでいた神経症傾向でも224個でした。
114万人で見つかった1,260個の変異
今回の研究チームは、この足りなかったデータを46のコホート(追跡調査グループ)から集めました。参加者は性格の項目によって61万〜114万人。全員がビッグファイブを測る質問票に答えており、そのゲノムと性格の点数を突き合わせています。
結果、5つの性格特性のどれかと結びつく遺伝子変異が1,260個見つかりました。うち824個、65%は今回初めて性格と結びついた新発見です。誠実性は3個から131個へ、協調性は4個から39個へ、開放性は8個から126個へ、外向性は14個から258個へ、神経症傾向は224個から706個へ。どの特性でも、見つかった変異の数は一気に数倍から数十倍に増えました。

見つかった変異の中身も面白いところです。性格に関わる変異は前頭前野(計画や自制に関わる脳の領域)で働く遺伝子に多く集まっていました。一方で、昔から言われてきた「ドーパミンが外向性を、セロトニンが神経症傾向を決める」という説を裏づける証拠は、今回のデータからはほとんど出てきませんでした。教科書的な図式のほうが、疑わしくなった格好です。
ここまでが「1,200個以上の遺伝子変異が見つかった」という見出しの中身です。数だけ見れば、性格の遺伝子研究がひとつ上の段階に進んだのは間違いありません。
同じ論文から生まれた正反対の見出し
ところが、同じ論文には別の数字も書いてあります。見つかったような「よくある遺伝子変異」を全部合わせても、性格の個人差のうち説明できるのは4.8〜9.3%。測り方の誤差を考慮したモデルでも最大16.2%にとどまる、という推定です。別の方法で計算し直した見積もりでは7.4〜10.6%でした。数字の幅はモデルの違いで、どれも論文に載っています。
つまり、変異は1,260個も見つかったのに、それらを束ねても性格の1〜2割弱しか説明できない。残りの大部分は、環境をはじめとする遺伝子以外の要因、そして今回の手法では拾えないまれな変異や遺伝子どうしの相互作用が担っている、ということになります。ScienceAlertの「DNAじゃなくて別のものが大部分を担っていた」という見出しは、こちらの数字を切り取ったものです。
1個1個の変異の効果は、拍子抜けするほど小さいものでした。たとえば外向性に結びつく変異の場合、1個の効果の中央値は「100人中50番目の外向性が、50.35番目になる」程度。持っているかどうかで人生が変わるような変異は、性格に関しては1つも見つかっていません。研究チームの試算では、性格の1つの特性に効いている変異は平均で約16,000個。ごく小さな効果が膨大に積み重なる構図です。
共著者でブリストル大学のMichel Nivard氏は、遺伝子から個人の性格を予測することについて、はっきり否定的です。実際、今回の結果を使って別の集団で性格を予測しても、説明できたのは個人差の4%未満でした。Nivard氏いわく、誰かの性格を知りたいなら測ればいいだけで、遺伝子は何も足してくれない。自分の性格が知りたければ、ネットの無料性格診断を受けたほうがずっと多くのことが分かる、とまで言っています。
ここで最初の話に戻ります。「1,260個見つかった」も「DNAは主役ではなかった」も、同じ論文に書いてある正しい数字です。矛盾もしていません。変異はたくさん見つかったが、合わせても説明力は小さい——この1つの結果のどちら側を見出しに置くかで、ニュースの印象は正反対になります。論文が割れたのではなく、切り取る場所が違っただけでした。
数としては小さく、質としては珍しい結果
では、説明できるのが1割前後なら、この研究は空振りだったのかというと、そうでもありません。この論文の本当の売りは、数の多さより「結果の質」にあります。
遺伝子と行動の研究には、昔からやっかいな問題がつきまといます。たとえば学歴のGWASでは、見つかった「学歴に効く変異」の中に、本人の遺伝子の直接の効果ではないものがかなり混ざります。教育熱心な家庭の親は、遺伝子を子に渡すと同時に、本棚のある家庭環境も用意するからです。家族で比べ直すと、学歴への遺伝子の見かけの効果は4分の3ほどに縮みます。
ところが性格では、この混ざりがほとんどありませんでした。同じ家庭で育った双子やきょうだいの中で比べても、遺伝子変異の効果は集団全体で見たときとほぼ同じ大きさのまま残ったのです。親から受け継がれなかった側の遺伝子(家庭環境の影響を映す指標になります)が子の性格に効いた形跡も、誠実性でわずかに見られた以外はありませんでした。性格が似た者どうしが結婚する傾向も、遺伝子レベルではほぼゼロ。学歴では夫婦の遺伝的類似がはっきり出るのと対照的です。
また、見つかった遺伝子と性格の結びつきは、米国・英国・欧州大陸・北欧の間で、若者と高齢者の間で、自己評価と身近な人による他者評価の間で、おおむね共通していました。小さいけれど、頑丈で偏りの少ないシグナルが取れた——これがこの論文の核心で、実は珍しい結果です。ただし協調性だけは地域や質問票の間でばらつきが大きく、「思いやり」が文化によって違うものを指している可能性が残されています。
数字の読み方と残された問い
今回の話は、健康や遺伝のニュースを読むときの教訓としてそのまま使えます。「〜と関連する遺伝子が見つかった」という見出しを見たら、確認したいのは「いくつ見つかったか」ではなく「合わせてどれだけ説明できるのか」。逆に「遺伝子では決まらない」という見出しを見たら、「では何%は決まるのか」。同じ研究でも、この2つの数字のどちらを前に出すかで、記事の顔つきは正反対になります。今回のように両方の見出しが同じ日に並ぶのは、それがよく見える珍しい機会でした。
研究としての宿題も残っています。双子研究が示す40〜60%と、今回の1割前後との間には大きな開きがあります。この差は、今回の手法では捉えられないまれな変異や、遺伝子どうし・遺伝子と環境の相互作用が埋めていると考えられていますが、その中身はまだ分かっていません。そして、どの推定方法でも一致しているのは、性格の個人差の大部分は遺伝子だけでは説明できないという点です。何がその「大部分」を形づくっているのかは、この巨大研究をもってしても、まだ答えの出ていない問いのままです。
出典
- 論文:Schwaba, T. et al. “Robust inference and correlates from genetic associations with personality” Nature(2026年9月2日、オープンアクセス)https://doi.org/10.1038/s41586-026-10992-9
- Nature News:Anxious or outgoing? Huge study links ‘Big Five’ personality traits to genetic variants(2026年9月2日)
- ScienceAlert:Everyone Assumes DNA Shapes Your Personality. It Turns Out Something Else Is Doing Most of The Work(2026年9月3日)


コメント