重力波の検出器といえば、腕の長さ4kmのレーザー装置や、何十年もかけてパルサーを見張る観測網のような、とにかく大がかりな仕掛けが定番です。そこに、まったく毛色の違う構想が現れました。NASAの先進構想プログラム「NIAC」に採択された、ブルックヘブン国立研究所のPaul Stankus氏らのチームによるもので、量子力学の性質を使って、これまで観測手段がほぼ存在しなかった周波数帯の重力波を捉えようという計画です。

重力波観測に残る空白の周波数帯
重力波は、ブラックホール同士の合体などで生まれる時空のさざ波です。2015年に初めて直接検出されて以来、観測の数は着実に増えてきましたが、実は「どの高さの波を捉えられるか」には偏りがあります。
地上の検出器LIGOが得意なのは、10〜10,000ヘルツという比較的高い周波数の波。恒星くらいの質量のブラックホールや中性子星の衝突で生まれるものです。一方、パルサータイミングアレイ(PTA)という手法は、規則正しく電波を発する天体・パルサーを何十年も見張り続けることで、ナノヘルツ級のごく低い周波数の「うなり」を拾います。さらに、この間を埋める存在として、ミリヘルツ帯を狙う宇宙干渉計LISAの打ち上げが控えています。
それでもまだ、LISAとPTAの間には大きな穴が残ります。マイクロヘルツ前後の帯域です。NASAの資料によれば、この帯域には現在、実質的に代替となる観測手段が存在しません。
宇宙干渉計の工学的な壁
理屈の上では、LISAのような宇宙干渉計を発展させればマイクロヘルツ帯にも手が届きます。ところが、実際に作るとなると話は別です。
干渉計というのは、複数の地点をレーザーの光で結び、その間の距離のごくわずかな変化を測る装置です。宇宙版では、数百万km離れて浮かぶ探査機の鏡にレーザーを正確に当て続ける必要があります。それも一瞬ではなく、途切れなくずっとです。この「レーザーの糸」を宇宙空間で完璧に張り続けることが、工学的にとてつもなく難しいのです。
レーザーの糸を捨てた構想
Stankus氏らの構想は、この最大の難所を正面から攻めません。レーザーリンクそのものを捨ててしまいます。
計画はこうです。まず、中くらいのサイズの探査機を2機、自由落下の軌道に打ち上げます。2機の間には何のつながりもありません。レーザーも張らず、それぞれが完全に独立して飛びます。両方の探査機は同じ星々を同時に観測し、超高速の単一光子検出器で「いつ、どの光子が届いたか」を精密な時刻付きで記録し続けます。やることはそれだけです。
記録は地球に送られ、スーパーコンピュータが2機ぶんの光子の到着時刻を突き合わせます。すると量子力学の効果によって、別々の探査機に届いた光子の間に「量子バンチング」と呼ばれるごく小さな相関が現れます。この相関を解析すると、2つの光子が一度も出会っていないのに、星の光の干渉——位相のずれ——を計算で取り出せるのです。チームはこの手法を「2光子振幅干渉計」と呼んでいます。土台にあるのはハンブリー・ブラウン=トゥイス効果という、1950年代から知られる量子的な現象です。
では、その位相のずれから何が分かるのか。ここで重力波が登場します。重力波が太陽系を通り過ぎるとき、時空が一瞬ゆがみ、空の星々の見かけの位置がそろって、ほんのわずかに揺れます。位相がずれれば星の見かけの位置が動いたということであり、たくさんの星が特定のパターンでいっせいに揺れれば、それは重力波が通った印になります。つまりこの構想は、探査機の間の距離を測るのではなく、星空全体のかすかなダンスを量子相関で読み取る検出器なのです。
構想段階という現在地
量子力学に単一光子検出器と、SFめいた響きの計画ですが、机上の空論ではありません。この手法の卓上サイズの実験装置はすでに研究室で動いており、2023年の論文で報告されています。今回のNIAC採択で得た約9か月の研究期間で、チームはこの仕組みを宇宙に浮かぶ衛星の規模まで拡張できるかを検証します。
とはいえ、NIACのフェーズ1はあくまで初期構想の実現可能性を調べる段階で、探査機の打ち上げが決まったわけではありません。この先には設計・資金・技術実証と、いくつもの関門が待っています。
それでも、もしマイクロヘルツ帯の窓が開けば、見えてくるのは銀河の形成史や、銀河の中心に潜む超大質量ブラックホールの物理です。大がかりなレーザーの糸を張らずに、独立した2機の探査機と計算だけでそこへ届くかもしれない——検証の行方を見守りたい構想です。
出典
A Quantum Trick for Spotting Gravitational Waves(Universe Today)


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