
| 名前 | 三葉虫(さんようちゅう) 学名 Trilobita「三つの葉」の意味 |
| 分類 | 節足動物門・三葉虫綱(絶滅) |
| 時代 | カンブリア紀前期(約5億2100万年前)〜ペルム紀末(約2億5200万年前) |
| 発見地 | 世界各地。モロッコ、北米、チェコ、中国などが有名で、日本では岩手県などの古生代の地層から見つかっている |
| 全長 | 多くの種で3〜10cm。最小は1mmほど、最大は72cm(イソテルス・レックス) |
| 体重 | 小型種で数グラム程度、最大種で数キロ級と考えられる(同程度の大きさの現生カブトガニからの概算) |
| 種数 | 記載された種は2万を超える |
三葉虫は、古生代の海に栄えた節足動物のなかまである。約5億2100万年前のカンブリア紀に化石記録に現れ、ペルム紀末の大量絶滅で姿を消すまで、2億7000万年近く海に生き続けた。記載された種は2万を超え、絶滅した動物のグループとしては群を抜いて多様である。その目は方解石の結晶でできており、動物の目として知られるかぎり最も古く、しかも化石にそのまま残る。
姿と暮らし
三葉虫の名は、体を縦に走る3本の隆起に由来する。背中の中央に軸となる部分があり、その左右に平らな部分が広がることで、体が「三つの葉」に見える。体は前から頭部・胸部・尾部の3つの区画に分かれ、胸部は多数の節が連なってできている。この節のつなぎ目が動くため、多くの種は危険を感じるとダンゴムシのように丸まることができた。丸まった姿勢のままの化石も少なくない。
背中を覆う外骨格は、炭酸カルシウムの結晶である方解石でできていた。ほかの節足動物の殻がタンパク質と多糖類を主体とするのに対し、三葉虫の殻は最初から石に近い素材で作られていたため、きわめて化石になりやすい。三葉虫の化石が世界中から膨大に見つかり、古生代の地層の年代を決める「示準化石」の代表になったのは、この殻のためである。三葉虫はほかの節足動物と同じく脱皮して成長したため、見つかる化石の多くは死骸ではなく脱ぎ捨てた殻である。
殻の下にあった脚や触角は柔らかく、ふつうは化石に残らない。まれに残った標本から、頭部に1対の長い触角があり、体の節ごとに1対ずつ脚が並んでいたことが分かっている。脚は二叉に分かれ、下側が歩くための脚、上側がえらを兼ねた板状の枝になっていた。2024年には、モロッコのカンブリア紀の地層から、火山灰に瞬時に埋まって立体のまま残った三葉虫が報告された。X線で内部を調べたところ、触角、脚、脚に生えた0.1mmに満たない剛毛、口のまわりの構造、消化管までが変形せずに保存されていた。口の脇の付属肢の付け根がスプーンのように湾曲していることも、この標本で初めて分かった。
何を食べていたかは長く間接的な推定しかなかったが、2023年に、チェコのオルドビス紀の地層から見つかった三葉虫ボヘモリカスの消化管の中身が調べられた。放射光施設で内部を撮影すると、腸の全長にわたって貝形虫、ヒオリテス、二枚貝、ウミユリの親戚の殻が詰まっていた。殻を選り分けずに、砕けるものは砕き、小さいものは丸ごと飲み込む、海底の掃除屋のような食べ方だったと考えられている。三葉虫の全体としては、海底の泥を漉して食べる種、小動物を捕らえる種、水中を泳いで浮遊生活を送る種まで、暮らし方は幅広かった。
カンブリア紀の海では、三葉虫はアノマロカリス、オパビニア、ハルキゲニアなどと同じ海底で暮らしていた。オルドビス紀には体の大きな種が現れ、カナダ北部のマニトバ州で見つかったイソテルス・レックスは、頭から尾まで72cmに達する完全な標本として知られている。当時この場所は赤道近くの浅い海だった。デボン紀に入るとグループの多くが絶えてプロエトゥス目だけが残り、ペルム紀末の大量絶滅ですべての系統が途絶えた。
目のレンズが方解石の結晶でできていた
三葉虫の目は、殻と同じ方解石でできていた。頭部の左右にある複眼は、外骨格の一部がレンズとして特殊化したもので、殻ごと化石になる。そのため三葉虫の目は、動物の視覚器官として最も古い時代から実物が残っている唯一の例である。ただし残るのはレンズの並んだ表面だけで、その下にあった光を受け取る細胞は死後に分解し、ほとんど何も分かっていない。
方解石をレンズに使うには、ひとつ問題がある。方解石は複屈折という性質をもち、入った光が2つに分かれるため、ふつうに使えば像が二重に見える。三葉虫のレンズでは、結晶の光軸(c軸)が目の表面に垂直にそろえられていた。方解石はこの軸に沿って進む光に対してだけ複屈折を起こさないため、この向きに結晶を並べることで、二重像を避けていたと考えられている。
三葉虫の目には大きく2つの型がある。ひとつはホロクロアル眼で、小さなレンズが数百から数千個ぎっしり並び、全体をひとつの角膜が覆う。もうひとつはシゾクロアル眼で、デボン紀のファコプス類などに見られ、レンズが大きく、それぞれが離れて独立に配置される。1975年、イギリスの古生物学者ユアン・クラークソンとシカゴ大学の物理学者リッカルド・レビ゠セッティは、シゾクロアル眼のレンズの断面を調べ、その形が17世紀の数学者デカルトとホイヘンスが球面収差のない理想のレンズとして導いた曲線と一致することをネイチャー誌に報告した。レンズは上下2層からなり、上の層と下の「レンズ内ボウル」の境界面が、光を1点に集めるための曲面になっていた。デカルトとホイヘンスが図面の上で設計した形を、三葉虫はその3億年以上前に体の一部として作っていたことになる。
この「2層レンズ」の解釈には、境界面の上下で光の屈折率が違わなければ意味がないという指摘が長くあった。2007年、グラスゴー大学のマーティン・リーらは、クラークソンとレビ゠セッティが調べたのと同じダルマニテスの標本を高解像度の電子顕微鏡で分析し、下の層に上の層より多くのマグネシウムが含まれていたことを示した。マグネシウムを取り込んだ方解石は屈折率が下がるため、境界面で光が曲がる条件が実際に満たされていたことになり、2層レンズの説は化学的な裏づけを得た。
三葉虫の目の使い方についても、化石が具体的な答えを出している。2003年、リチャード・フォーティとブライアン・チャタートンは、モロッコのデボン紀の地層から見つかった三葉虫エルベノキレをサイエンス誌に報告した。この種の目は頭の左右から塔のように立ち上がり、各列に最大18個のレンズが縦に並んで、真後ろを含む水平方向の全周を見渡せる。塔の頂上にはひさしのような張り出しがあり、真上から差す光をさえぎる構造になっていた。日光がなければひさしは役に立たないため、この三葉虫が昼に活動していたことが分かる。三葉虫が夜行性だったのか昼行性だったのかは、それまで決め手を欠いていた。
一方で、すべての三葉虫が目をもっていたわけではない。深海や泥の中で暮らした種の中には、目を退化させてなくしたものが複数の系統で知られている。方解石の精巧なレンズは、光の届く浅い海で暮らす三葉虫にとっての道具だった。




出典
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Lee, M. R. et al. (2007) Magnesium-rich intralensar structures in schizochroal trilobite eyes. Palaeontology 50(5): 1031–1037. The Palaeontological Association
Clarkson, E., Levi-Setti, R. & Horváth, G. (2006) The eyes of trilobites: The oldest preserved visual system. Arthropod Structure & Development 35: 247–259. ScienceDirect
Fortey, R. & Chatterton, B. (2003) A Devonian trilobite with an eyeshade. Science 301: 1689. https://doi.org/10.1126/science.1088713
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Rudkin, D. M. et al. (2003) The world’s biggest trilobite — Isotelus rex new species from the Upper Ordovician of northern Manitoba, Canada. Journal of Paleontology 77(1): 99–112. Cambridge University Press
American Museum of Natural History, Trilobite Website(分類・種数・生存期間の概要)


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