【カンブリア紀の生物】ハルキゲニア – 上下も前後も逆さまに復元された40年

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名前ハルキゲニア(Hallucigenia)。ラテン語の hallucinatus「幻覚、心のさまよい」に由来
分類汎節足動物・葉足動物(ハルキゲニア科)
時代カンブリア紀(約5億800万年前のバージェス頁岩、約5億1800万年前の澄江の種を含む)
発見地カナダ・ブリティッシュコロンビア州(バージェス頁岩)、中国・雲南省(澄江・関山)
全長1〜5cm(バージェス頁岩の標本は多くが3cm以下)
脚10対(前の3対は細く爪がない。後ろの7対は先端に爪をもつ)
背中の棘7対

ハルキゲニアは、カンブリア紀の海底で暮らしていた葉足動物のなかまです。細長い体の下側に爪つきの脚を10対、上側に硬い棘を7対そなえていました。1977年の復元図では、この動物は上下も前後も逆さまに描かれていました。棘を脚として歩き、背中には触手を並べ、尾のほうを頭とした姿です。正しい向きに戻るまでに、ほぼ40年かかりました。

姿と暮らし

体は細い管のような形で、片方の端が長く伸びて首と頭になります。頭には1対の単眼と口があり、口のまわりには小さな板が輪になって並び、のどの内側は無数の細かい歯でおおわれていました。首のあたりには細く柔らかい脚が3対並び、そこから後ろの胴体には7対の長い脚が続きます。この7対の脚は先端に1〜2本の爪をもち、背中側には脚の位置に対応するように7対の棘が立っていました。棘は皮膚の鞘に埋め込まれるように生えていて、最後の1対の脚の上には棘がありません。

爪の構造は、2014年の研究で詳しく調べられました。爪は1本の芯ではなく、円錐を何層も重ねたような入れ子の構造をもっていて、現生のカギムシ(有爪動物)の爪や顎がまったく同じ作りをしています。この共通点から、ハルキゲニアはカギムシの祖先につながる系統に置かれるようになりました。ただし2017年以降には、ハルキゲニアの仲間を汎節足動物のもっと根元に置く分析も出ていて、系統上の位置は今も一つに定まっていません。

暮らしぶりは、化石の産状と体のつくりから推定されています。バージェス頁岩のハルキゲニアは、海綿のバウキシアやほかの生物の破片といっしょに見つかることが多く、爪で海綿につかまり、棘で身を守りながら海綿を食べていたという解釈が古くからあります。近年は、前の3対の細い脚を濾過に使い、海綿につかまって体を立て、水中の有機物をこしとっていたとする見方も出ています。バージェス頁岩の中では珍しい生物で、代表的な産地であるウォルコット採石場では、数えられた標本全体の0.2%ほどにすぎません。

同じ時代の海には、アノマロカリス、オパビニア、三葉虫、ウィワクシアなどがいました。ハルキゲニアと同じ葉足動物では、アユシェアイアが同じ地層から見つかっています。中国の澄江からはハルキゲニア・フォルティス、関山からはハルキゲニア・ホンメイアという別の種も報告されていて、この仲間がカンブリア紀の海に広く分布していたことが分かっています。

棘で歩く動物、として生まれた

最初の記載は1911年です。バージェス頁岩を発見したチャールズ・ウォルコットは、この化石を多毛類のゴカイの一種「カナディア・スパルサ」として発表しました。棘だけが目立つ化石で、当時はそれ以上の検討はされていません。

1977年、サイモン・コンウェイ・モリスがこの化石を再検討し、ゴカイでも、カナディア属でもないことを示して、新しい属名ハルキゲニアをつけました。硬い棘が7対、体の下に向かって生えているように見えたため、コンウェイ・モリスはこれを脚と解釈しました。動物は竹馬のような棘で海底に立ち、体の上には1列の柔らかい触手が並んでいて、その先端で餌をとる。体の片方の端にはふくらんだ塊があり、これが頭とされました。「幻覚」を意味する属名は、この姿の奇妙さからつけられています。

この復元には、化石の側から見ると無理がありました。棘は硬くて曲がらず、先端はとがっているだけで、海底をつかむ構造がありません。触手は1列しかなく、左右対称の動物の体としては説明がつきにくいものでした。それでも別の解釈を支える証拠がなく、この姿が10年以上にわたって図鑑や展示に使われました。

二度ひっくり返った復元図

最初の逆転は、中国の化石から起こりました。1991年、ラース・ラムシェルドと侯先光は、雲南省の澄江動物群から見つかった葉足動物ミクロディクティオンを記載しました。この動物は柔らかい脚を左右1対ずつ並べ、その脚の位置に対応して背中に硬い板をもっていました。二人はここから、ハルキゲニアも同じ体の設計をしていたと考えました。つまり、脚とされていた棘は背中の防御用で、触手とされていたものは脚であり、しかも脚は本来2列あったはずだ、という主張です。もう1列の脚は、化石が押しつぶされた時に岩の中に埋まっていて見えていない、というのが説明でした。

翌1992年、ラムシェルドはバージェス頁岩の標本を実際に調べ、岩を削って埋もれていた2列目の脚を露出させました。これで上下の向きは確定します。同じ年の論文で、ラムシェルドはもう一つの逆転も提案しました。頭とされていたふくらんだ塊は、体の一部ではなく、死んだ後に体から漏れ出した腐敗液のあとではないか。そうであれば、頭は反対側の、細長く伸びた端にあることになります。

この前後の逆転が証拠つきで確かめられたのは、2015年です。マーティン・スミスとジャン=ベルナール・カロンは、バージェス頁岩の132点の標本を電子顕微鏡で調べ、細長く伸びた端に1対の単眼と、板が輪になって並んだ口、歯のあるのどを見つけました。ふくらんだ塊のある側からは、腐敗液が肛門から出た痕跡が確認されました。1911年に記載された動物の頭がどちらにあり、脚が何本あるのかが、この時点でようやく決まったことになります。

名前だけが残った

復元図の逆転にともなって、ハルキゲニアの分類上の位置も変わりました。1977年の復元では、既存のどの動物群にもあてはまらない生物とされ、カンブリア紀に現れて消えた独自の体制の代表例として扱われました。1991年以降は葉足動物としてカギムシやクマムシ、節足動物につながる系統に置かれ、2014年の爪の研究でカギムシとの関係がさらに絞り込まれています。

正しい向きに戻ったハルキゲニアは、背中に棘の列を立て、細い脚で海綿につかまる、防御に寄った小さな動物です。「幻覚」という属名は最初の復元図の奇妙さに由来しますが、その復元図はもう使われていません。名前だけが、逆さまだった頃の記録として残っています。

出典

Royal Ontario Museum. The Burgess Shale: Hallucigenia sparsa.
https://burgess-shale.rom.on.ca/fossils/hallucigenia-sparsa/

Ramsköld, L. & Hou, X. (1991). New early Cambrian animal and onychophoran affinities of enigmatic metazoans. Nature, 351, 225–228.
https://doi.org/10.1038/351225a0

Ramsköld, L. (1992). Homologies in Cambrian Onychophora. Lethaia, 25, 443–460.
https://doi.org/10.1111/j.1502-3931.1992.tb01650.x

Smith, M. R. & Ortega-Hernández, J. (2014). Hallucigenia‘s onychophoran-like claws and the case for Tactopoda. Nature, 514, 363–366.
https://doi.org/10.1038/nature13576

Smith, M. R. & Caron, J.-B. (2015). Hallucigenia‘s head and the pharyngeal armature of early ecdysozoans. Nature, 523, 75–78.
https://doi.org/10.1038/nature14573

Caron, J.-B. & Aria, C. (2017). Cambrian suspension-feeding lobopodians and the early radiation of panarthropods. BMC Evolutionary Biology, 17, 29.
https://doi.org/10.1186/s12862-016-0858-y

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