2026年7月、オーストラリア・クイーンズランド州の浜辺で、金属の球がいくつか見つかりました。オーストラリア宇宙庁は、外国のロケット本体の破片と見て矛盾しないと発表しています。2024年5月には、アメリカのノースカロライナ州の山道のそばで、金具とボルトだらけの黒い繊維強化板が見つかりました。こちらはSpaceXのドラゴン宇宙船の一部が大気圏に落ちてきたものだと確認されています。
宇宙に上げたものは、いつか落ちてきます。ほとんどは大気との摩擦で燃え尽きますが、全部ではありません。そして、燃え残った破片が人に当たる確率が、この5年で倍になった——欧州宇宙機関(ESA)が2026年9月8日に公表した年次報告書『Space Environment Report 2026』に、そう読める数字が載りました。Space.comが9月30日に、専門家2人の談話を添えて報じています。
先に書いておくと、これは査読を受けた論文ではなく、ESAのスペースデブリ(宇宙ごみ)室が毎年出している機関の報告書です。数字の多くは推定で、報告書自身も「年ごとの版で値が変わりうる」と断っています。それを踏まえたうえで、中身を見ていきます。
「年に4%」という数字の意味
報告書のなかで今回新しく加わったのが、地上での死傷リスクの推移を示すグラフです。縦軸は「1年あたりに見込まれる死傷者数」。制御されずに落ちてくるロケットの上段(衛星を軌道に送り届けたあとの使用済み部分)と、衛星本体とに分けて、2000年から2025年までの推移が描かれています。
この数字を読み解いたのが、カナダのブリティッシュコロンビア大学で宇宙環境を研究するEwan Wright(ユアン・ライト)氏です。Space.comの取材に対して、ロケット上段だけで見た地上の死傷リスクは2024年に4%を超え、2020年から倍になった、と述べています。衛星のほうは2024年で1%に上がっています。
「4%」の意味を補っておきます。これは「破片が落ちてきたら4%の確率で当たる」という話ではなく、「1年のあいだに、世界のどこかで少なくとも1人が重傷を負うか死亡する」見込みが、ロケット上段ぶんだけで年に0.04人ぶんある、という集計です。報告書では、落ちてきた破片のうち人に重傷を負わせるだけのエネルギー(15ジュール以上)を持つものを数え、落ちる場所の分布と人口密度を掛け合わせて算出しています。
ひとりひとりにとっての危険はきわめて小さい、と報告書は繰り返し書いています。宇宙ごみに当たる確率は、日常のどんな事故と比べても桁違いに低い。それでも、この集計値は右肩上がりです。理由は単純で、落ちてくるものの数が増えているからです。

週に2回以上、制御なしで落ちてくる上段
Wright氏によると、2024年に制御されないまま大気圏に落ちてきたロケットの段は約124本。週に2本以上のペースです。
「制御されない」とはどういうことか。ロケットの上段は衛星を切り離したあと、軌道に残ります。きちんと手当てするなら、残った燃料でエンジンを吹かし、人のいない海の上を狙って落とします。これが制御された再突入です。手当てをしなければ、上段は何週間か何か月か軌道を回ったあと、大気の抵抗でだんだん高度を下げ、どこか分からない場所に落ちてきます。落ちる時刻も場所も、直前まで誰にも分かりません。
そして上段は大きい。衛星なら小さくて燃え尽きやすいものも多いのに対し、ロケットの段は数トンの金属のかたまりで、エンジンやタンクのような頑丈な部品は燃え残りやすいのです。落ちてくる数で言えば衛星のほうがずっと多いのに、ロケット上段のリスクが衛星の4倍あるのは、落ちてくるものの重さと頑丈さの差です。
落ちてくるものの総数も増えています。報告書によれば、2025年に大気圏に戻ってきた「まるごとの物体」(破片ではなく衛星やロケット本体)は1,200個。1日あたり3個以上です。その一方で、2025年の打ち上げは300回を超え、新たに軌道に加わった衛星などの搭載物は4,000個を超えました。1日あたり10個以上が上がり、3個以上が落ちてくる。この出入りの激しさが、いまの軌道の日常になっています。
Wright氏は、落ちてくるものが増えれば、航空機に破片が当たる確率や、再突入のために空域が閉鎖される確率も上がる、と付け加えています。
対策は進んでいるのに、確率は上がった
ここで、少し意外なデータを出します。報告書には、ロケット本体の再突入のうち制御されたものの割合も載っていて、この10年で10%から65%以上に増えています。制御された再突入が制御されないものを数で上回る状態は、2025年も続いています。
つまり、業界の振る舞いは良くなっているのです。10年前は10本のうち9本が野放しだったのが、いまは3本か4本まで減った。それなのに、野放しの上段による死傷リスクは5年で倍になった。
どういうことかというと、割合が下がった以上に、打ち上げの総数が増えたということです。野放しで落ちる割合が半分以下になっても、打ち上げの回数がそれ以上の勢いで増えれば、野放しで落ちてくる本数そのものは減らない。報告書が示しているのは、「対策を取る人が増えた」のと「落ちてくる本数が増えた」のが同時に起きている状態です。
この構図は、報告書全体のトーンにも表れています。軌道環境の長期的な健全さをひとつの指数で示す「環境指数」は、前年の版では持続可能な水準の4倍と評価されていました。今年の版では50倍です。1年で10倍以上悪化したことになりますが、その主な理由は、大規模な衛星コンステレーション(多数の小型衛星を組み合わせた通信網)の配備計画が、将来の物体数の見積もりを大きく押し上げたことにあります。
ESAのスペースデブリ室長に就いたばかりのStijn Lemmens(スティン・レメンス)氏は、Space.comに対して、この報告書は観測できるデータを体系的かつ中立に集めたもので、将来の見通しも「望ましい姿ではなく、いまの私たちの振る舞いを延長したもの」に基づいている、と述べています。数字が悪化したのは、予測が悲観的になったからではなく、いまの行動をそのまま続けた先を描いたらそうなった、という言い方です。

10年後の33%をどう受け取るか
Wright氏の試算では、いまの水準のまま次の10年が続けば、ロケットの破片だけで世界のどこかで誰かが命を落とす確率は33%に達します。これは報告書の本文に書かれた数字ではなく、年4%のリスクを10年分積み上げたWright氏の計算です。
Wright氏は、これは避けられるリスクだと言い切っています。すべてのロケットに、人や航空機から離れた海への制御された再突入を義務づければ、リスクはほぼなくせる、という主張です。技術的には新しい話ではなく、すでに65%の上段がそうしているやり方を、残りにも求めるという意味になります。
ESA自身は、2023年に自分たちの基準を厳しくしています。使い終わった衛星やロケットが軌道に残ってよい期間を、国際的な目安の25年から5年に短縮しました。ただしこれが拘束するのはESAの計画だけで、世界の打ち上げ全体に効くわけではありません。報告書は、宇宙ごみ対策への関心と遵守は高まりつつあるものの、もっと速く、一貫して、確実に進めないと、将来の世代に高いつけを回すことになる、と書いています。
最初の浜辺の金属球に戻ります。あれが人のいない砂浜に落ちたのは、確率の問題でした。地球の表面の7割は海で、陸地の大半にも人は住んでいません。だから落ちてきても、ほとんどは誰にも当たらない。報告書の数字は、その「ほとんど」がどのくらい確かなのかを、毎年測り直しているものだと言えます。今年の答えは、誰かに当たる見込みが5年前の倍、でした。
出典
この記事は、以下の報道と一次情報をもとに書いています。
Space.com「The risk of space debris falling to Earth and causing deaths is growing, experts say」(2026年9月30日、Leonard David)
ESA「ESA’s Annual Space Environment Report」(Issue 10.1、2026年9月8日公表、PDF)


コメント