冷凍庫に24年眠っていたDNAが、地味なナマコの寿命を「10年」から「100年超」に書き換えた

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オーストラリアのグレートバリアリーフの海底に、黒くてごろんとした、見た目はあまりぱっとしないナマコがいます。英語ではブラック・ティートフィッシュ、学名は Holothuria whitmaei。乾燥させた干しナマコは香港で1kgあたり400豪ドル(約4万円)を超える値で売られ、オーストラリア・太平洋の島々・東南アジアで漁の対象になってきました。獲りすぎでアジアの市場からはめっきり姿を消し、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧種、ワシントン条約の附属書IIにも載っています。

この地味な動物の寿命が、100年を超えるかもしれない。オーストラリア海洋科学研究所(AIMS)のスヴェン・ウティッケらが2026年9月の iScience に発表した研究です。手法は「DNAを目印にして、24年後にもう一度同じ場所を探す」というもので、ナマコでこの方法が使われたのは初めてです。

標識が付かない動物を、どう数えるか

動物の寿命を知る定番の方法は、個体に標識を付けて放し、あとで戻って誰が生きているかを確かめる「標識再捕獲」です。ところがナマコには、この方法が使えません。体が柔らかく、付けた標識は数週間から数か月で抜け落ちてしまいます。

話は2000年にさかのぼります。1999年、グレートバリアリーフ周辺でブラック・ティートフィッシュの数が減ったため漁が止められ、ウティッケと同僚のジョン・ベンジーは個体数を調べ直すことになりました。そこで思いついたのが、標識の代わりにDNAを使うことです。リーフの何か所かで個体から小さな組織片を採り、遺伝子の型を記録しておけば、海の中で外れることのない「名札」になります。

半年後と1年後に同じ場所へ戻ると、前に採った個体を見つけ直すことができ、個体数が獲りすぎから回復していないことも確かめられました。このときの結果は、ナマコが数十年生きる可能性もほのめかしていました。ただ、調査の期間が短すぎて自信を持って言えることではなく、採った試料は冷凍保存に回され、研究者たちは別の仕事に移っていきました。

24年後、同じ場所へ

2024年9月、チームは最初の調査地のひとつ、リザード島のバード小島に戻りました。ここはグレートバリアリーフ海洋公園の採捕禁止区域です。ウティッケは「55個体を採って、そのうち3個体でも24年前と同じ個体が見つかれば驚きだ」と考えていたといいます。

見つかった個体は1つずつ重さと長さを測り、小さな組織片を採って、もとの場所に戻しました。そして冷凍庫から24年前のDNA試料を出して照合すると、2024年に採った個体の6割が、2000年に記録した個体と遺伝的に同一でした。論文によれば2024年に採った個体の60%、ScienceAlert の記事では解析できた52個体のうち31個体です。少なく見ても、調べた個体の6割が24歳以上だったことになります。

2000年に遺伝子型を取れた76個体のうち31個体が24年後に再び見つかったので、生存率は少なくとも41%。成体の死亡率が一生を通じて変わらないと仮定すると、年に0.037(およそ4%)です。ナマコの死亡率としては極端に低く、そこから計算した平均寿命は24〜27年、集団の1%が生き残るのは123年あたりという結果になりました。

これでも控えめな数字だと著者らは書いています。2000年の個体をすべて見つけ直せたとは考えにくく、調査区域の外へ移動した個体や、見落とした個体がいた可能性が高いからです。いなくなった個体と死んだ個体は区別がつかないので、見落としがあるぶん死亡率は高めに出ます。

成長していない。むしろ縮んでいた

再び見つかった31個体は、2000年の時点ですでに体長26〜42cmと、この種のほぼ最大サイズの成体でした。24年後、彼らは大きくなっていませんでした。それどころか、大半が縮んでいたのです。平均で体重は21%軽く、体長は14%短くなっていました。

理由ははっきりしません。ナマコは体の質量を失ったり取り戻したりすることが知られているので、環境の変化が関わっているのではないかと著者らは見ています。重要なのは、「成長している個体は若い」という、魚などで寿命を見積もるときの前提が、この動物では成り立たないことです。

もうひとつ気になる点があります。2024年にも2000年にも、幼いナマコが1個体も見つかりませんでした。採れたのはどちらの年も大きな成体ばかりです。幼体が少ないことは、この種や近縁種のほかの集団でも報告されていて、新しい世代が集団に加わる速さがとても遅いことを示しているとみられます。

「10年」で組まれていた漁の計算

ここで話は漁業に戻ります。熱帯のナマコの漁獲枠は、「獲ったぶんは比較的早く補充される」という前提で決められてきました。ブラック・ティートフィッシュの寿命は、10年ほどと考えられていたのです。

実際には成体はほとんど死なず、成長もせず、幼体はめったに加わらない。ゆっくり生き、ゆっくりしか補充されない動物を、10年で入れ替わる前提の計算で獲れば、持続可能だと見積もった量でも集団は減っていきます。1999年に漁を止めたあとも個体数が回復していなかったことも、この見立てと合います。著者らは、現在の漁獲モデルはこの種の持続可能な漁獲量を過大に見積もっている可能性が高く、今の漁獲圧と環境ストレスのもとでは、寿命の長いサンゴ礁の無脊椎動物を獲ることは持続可能ではないと結論しています。

この指摘は、ブラック・ティートフィッシュ1種にとどまりません。ほかのナマコにも、獲りすぎに弱くなる同じような性質を持つ種がいるのに、寿命・死亡率・補充についての基本的な情報が驚くほど乏しいままです。著者らは、多くのナマコ類の保全と管理を見直す根拠になると書き、とくに3種のティートフィッシュについては急を要するとしています。

ナマコが減ると、サンゴ礁が困る

ナマコは海底の砂を食べて栄養を回し、砂をかき混ぜる掃除屋です。最近の研究では、健全なナマコの集団がサンゴの健康を支えているという報告もあります。サンゴ礁は温暖化による圧力をすでに受けていて、個々のストレスは積み重なって効いてきます。そこから生態系の働きを担う種を取り除いて、さらにストレスを足すことは、サンゴ礁の持続的な管理と両立しない。論文はそう締めくくっています。

冷凍庫で24年眠っていた組織片が、見た目が地味な動物の寿命を10倍書き換えました。長い時間をかけて確かめる調査が、どこでどう効くかを示した例でもあります。

出典

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