【地球年表12-1】中生代 白亜紀 – 花が咲き、羽毛が広がった世界

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白亜紀は、およそ1億4300万年前から6600万年前まで。中生代の最後の紀にあたり、7700万年ほど続きました。恐竜の時代でいえば、その後半すべてがここに入ります。

名前は「白亜」——チョークの原料になる、あの白い岩から来ています。ヨーロッパの海岸に露出している真っ白な崖の正体で、この岩が世界じゅうで大量に積もったのが、ちょうどこの時代でした。そして終わりは、メキシコに落ちた小惑星によって区切られます。

散らばりはじめた大陸と、白亜という岩

かつてひとつの塊だった超大陸パンゲアは、白亜紀のあいだにほぼ現在の配置の原型まで分かれました。南の大陸ゴンドワナが割れて南アメリカとアフリカのあいだに南大西洋が開き、インドとマダガスカルが離れ、オーストラリアと南極も動きはじめます。

大陸が分かれるということは、そのあいだで新しい海底が作られ続けるということです。海底を生み出す海嶺は、周囲より高く盛り上がった熱い地形なので、これが長く伸びるほど海の底そのものが浅くなります。行き場を失った海水は陸へあふれました。白亜紀の海面は現在よりずっと高く、大陸の内側にまで浅い海が入り込んでいます。北アメリカを南北に貫いた西部内陸海路はその代表で、いまのカンザス州のあたりは海の底でした。極域に氷はなく、南極にもアラスカにも森が広がっていました。

その浅く暖かい海で、円石藻(えんせきそう)という植物プランクトンが大繁栄しました。炭酸カルシウムの小さな円盤を鎧のようにまとった生き物で、死ぬと円盤がばらばらになって海の底へ降り積もります。これが押し固められたものがチョーク、つまり白亜です。地層に記録された長い歴史のなかで、白亜紀ほどチョークが作られた時代はありません。時代の名前は、この岩から付きました。

羽毛におおわれた恐竜たち

陸では恐竜が引き続き主役でした。ティラノサウルスやトリケラトプス、ハドロサウルス類の群れ、装甲を持つアンキロサウルス類。南の大陸ではアルゼンチノサウルスのような巨大な竜脚類が生き残っています。空には翼竜、海にはモササウルス類と首長竜がいました。

この時代の恐竜像を大きく書き換えたのが、中国遼寧省の熱河(ねっか)層群です。およそ1億2500万年前の湖の底にたまった、火山灰まじりの細かい地層で、生き物が死んだあと急速に埋もれたおかげで、骨だけでなくやわらかい組織の痕跡まで残りました。1990年代半ば以降、ここから羽毛をまとった恐竜が次々に見つかっています。体を細い糸のような構造でおおわれたシノサウロプテリクス、腕と脚の両方に長い羽根を生やしたミクロラプトル、そして原始的な鳥たち。同じ地層群からは、体長9メートル級の大型のティラノサウルス類までが、羽毛の痕跡とともに見つかっています。

大事なのは、羽毛が飛ぶために生まれたものではないという点です。飛ばない恐竜が先に羽毛を持ち、断熱や見せびらかしに使っていたところへ、あとから一部の系統が「これは空気を押せる」と気づいた——化石の順番はそういう筋書きを示しています。白亜紀の陸は、うろこにおおわれた爬虫類の世界というより、毛羽立った生き物がそこかしこにいる世界でした。

地味な水草だった最初の花

いっぽう、植物のほうはまだ静かです。白亜紀が始まったころ、陸を覆っていたのは針葉樹、ソテツ、イチョウ、シダ、そしてベネチテス類という絶滅した裸子植物のグループでした。花はまだありません。

被子植物——花を咲かせ、種を果実に包む植物——の花粉がはっきり地層に現れるのは、およそ1億3400万年前からです。体そのものの化石として最古級とされるのは、スペインで見つかったモンセキアという水草で、約1億3000万年前。中国の熱河からもアルカエフルクツスという水草が出ていて、こちらは約1億2500万年前です。どちらも湖や池に沈んで暮らす、花びらもがくもない、目立たない植物でした。誰かがそばを歩いても「花が咲いている」とは思わなかったでしょう。

ところがその同じ系統が、白亜紀が終わるころには世界の植生の主役になっています。数千万年というのは地質の時間では短く、これが問題でした。ダーウィンは1879年、植物学者フッカーへの手紙のなかで、被子植物の急な出現と広がりを「忌まわしい謎」と書いています。段階を踏んで少しずつ変わっていくはずの進化が、ここでは説明のつかない速さで起きているように見えたからです。

この謎に対する答えとして長く挙げられてきたのは、虫との関係でした。花で虫を呼び、花粉を運んでもらう。果実で動物を呼び、種を運んでもらう。たしかにそれは被子植物が細かく枝分かれしていった理由の説明になります。ただし、別の問いには答えていません。すでに何億年も陸を占めていたシダと裸子植物を、どうやって押しのけたのか。先に場所を取っている側は、そう簡単に譲らないはずです。

小さくなったゲノムと、詰め込まれた気孔

2018年、サンフランシスコ州立大学のケビン・シモニンと、当時イェール大学にいたアダム・ロディが、この問いに対する答えの候補を出しました。押しのけた理由は、花でも虫でもなく、葉のつくりだったというのです。

葉が速く光合成するには、二酸化炭素を取り込む穴(気孔)をたくさん開け、水を届ける葉脈を細かく張りめぐらせる必要があります。ところが葉の面積には限りがあるので、気孔と葉脈を増やすと、肝心の光合成をする細胞の場所がなくなってしまう。だから増やすには、気孔や葉脈を作る細胞そのものを小さくするしかありません。

そこでゲノムの大きさが効いてきます。細胞の核はDNAを収める容れ物なので、DNAの量が多いほど核は大きくなり、核より小さい細胞は作れません。つまりゲノムの大きさが、その生き物の細胞の下限を決めているわけです。

2人は、シダ・裸子植物・被子植物あわせておよそ400種について、ゲノムの大きさ、気孔をつくる細胞の長さ、気孔の密度、葉脈の密度を集めて並べます。すると、ゲノムの大きさと細胞の大きさは、系統をまたいで一本の関係で結ばれていました。そのうえで系統樹に年代を入れて過去をたどったところ、白亜紀の前期に、被子植物の系統だけがゲノムを急速に縮めていたのです。同じ時期、シダも裸子植物もゲノムの大きさを変えていません。気孔の大きさも葉脈の密度も、動いていませんでした。

つまり、花が世界を覆えた理由をたどっていくと、花にも虫にもたどりつきません。行き着くのは、細胞をどこまで小さく作れるかという、葉を透かして見ても分からない制約のほうでした。ゲノムを縮めた系統だけが細胞を小さくでき、細胞を小さくできた系統だけが葉に気孔と葉脈を詰め込めて、その結果として、水を吸い上げて光合成する速さが跳ね上がった。速く育つ植物は、荒れ地に先に入り、先に背を伸ばし、先に種を落とします。同じ場所で同じ光を分け合ったとき、その差が効きました。

入れ替わった植生と、まだなかった草原

白亜紀の後半、被子植物は水辺や荒れ地といった端の環境から森の内側へ入っていきます。白亜紀の終わりごろには、北アメリカやヨーロッパの植生で数のうえの主役になりました。

ただし、そこにいま見るような風景を重ねると少しずれます。針葉樹はまだ広く残っていましたし、何より草原がありません。イネ科の植物そのものは白亜紀の終わりには存在していて、インドで見つかった竜脚類の糞の化石からイネ科特有のガラス質の粒が出ています。それでも、地面いちめんを草が覆う生態系ができあがるのは、ずっとあとの新生代の半ばです。白亜紀の地面は、シダと落ち葉と裸の土でした。

では、花の広がりは恐竜の顔ぶれを変えたのでしょうか。直感的には結びつけたくなる話ですが、検証の結果は素っ気ないものでした。草食恐竜のグループごとの種数と、植物のグループごとの種数を、時間と場所の両方をそろえて突き合わせた分析では、共進化を支える明確な対応はほとんど見つかっていません。多くの草食恐竜が枝分かれした時期は、被子植物が広がった時期の前か後にずれていました。足もとで植物の顔ぶれが入れ替わっていくあいだも、恐竜の側にはこれといった反応が見えない、というのが数字から読める姿でした。被子植物の広がりに大きく関わったのは、恐竜よりも虫や小さな哺乳類のほうだったと考えられています。

解釈上の留意点

ゲノムの縮小という説明は、有力な仮説のひとつであって、確定した答えではありません。示されたのはゲノムの大きさ・細胞の大きさ・気孔と葉脈の密度が強く結びついているという関係と、その値が白亜紀に動いたという復元であって、実験で因果を確かめたわけではないからです。速く光合成できることが、実際の生存競争でどれだけ効いたのかも、化石から直接測れるものではありません。

そして、そもそもなぜ被子植物だけがゲノムを縮められたのかについては、まだ答えが出ていません。ゲノム全体が倍になる出来事と、そのあとの整理が繰り返された結果ではないかと言われていますが、確かめられてはいない段階です。

被子植物が生まれた時期についても食い違いが残っています。DNAの変化の速さから逆算する方法では、被子植物の起源は化石が示すよりずっと古く、ジュラ紀かそれ以前まで遡ります。ところが、それに対応する化石はまだ出ていません。忌まわしい謎は、形を変えていまも残っています。

なお「最初の花」という言い方も、厳密には成り立たないものです。モンセキアもアルカエフルクツスも、いま知られているなかで最も古い部類というだけで、最初だったという保証はどこにもありません。

出典

ゲノムの縮小と被子植物の台頭については、Kevin A. Simonin, Adam B. Roddy「Genome downsizing, physiological novelty, and the global dominance of flowering plants」(PLOS Biology 16(1): e2003706, 2018)を参照しました。全文が無料で読めます:PLOS Biology の論文ページ。一般向けの解説としては Quanta Magazine の記事が読みやすいです。

被子植物の系統樹と分岐年代については、A. R. Zuntini ほか「Phylogenomics and the rise of the angiosperms」(Nature 629, 843–850, 2024):Nature の論文ページ

最古級の被子植物モンセキアについては、インディアナ大学などによる研究発表の紹介記事(Phys.org)を参照しました。

白亜紀末のイネ科の存在については、Vandana Prasad ほか「Dinosaur Coprolites and the Early Evolution of Grasses and Grazers」(Science 310(5751), 1177–1180, 2005):PubMed の抄録ページ

恐竜と被子植物の共進化の検証は、Richard J. Butler ほか「Testing coevolutionary hypotheses over geological timescales: interactions between Cretaceous dinosaurs and plants」(Biological Journal of the Linnean Society 100(1): 1–15, 2010):Oxford Academic の論文ページ

本文中の年代は、国際層序委員会(ICS)の国際年代層序表に基づいています:stratigraphy.org/chart

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