米国の核のごみ9万4,000トン、捨てるはずだった同位体まで回収へ

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アメリカには、使用済みの核燃料がおよそ9万4,000トン保管されています。行き先の決まらない「高レベル放射性廃棄物」として、原発の敷地などに積み上がり続けているものです。この山から価値ある物質を取り出そうという共同研究を、2026年8月18日に米SHINE Technologiesが発表しました。相手は米エネルギー省のアルゴンヌ国立研究所と、ケース・ウェスタン・リザーブ大学。アルゴンヌが開発中の高速分離装置「PaCERS」を、SHINEが進める核燃料リサイクルのプロセスに組み込むための取り組みで、科学メディアのNew Atlasが8月22日に報じています。

「使用済み」でも9割は燃料のまま

意外に思うかもしれませんが、使用済み核燃料は燃え尽きたカスではありません。原子炉から取り出した時点で、もとのウランとプルトニウムのおよそ90%がまだ残っています。エネルギー源としてのポテンシャルの大部分を持ったまま、「廃棄物」と呼ばれて保管されているわけです。

しかも中身は燃料だけではありません。使用済み燃料の中には、核分裂の過程で生まれたさまざまな同位体(陽子の数は同じで中性子の数がちがう原子の仲間)が混ざっています。ストロンチウム90、ロジウム103、パラジウム、アメリシウム241——これらは医療や産業、宇宙機の電源などに使い道のある物質です。New Atlasによれば、アメリカの保管在庫に含まれるこうした同位体だけで推定240億ドル(およそ3.5兆円)、ウランとプルトニウムまで含めれば兆ドル単位の価値があるとされています。ただしこれはあくまで推定で、放射性物質ですから、市場でそのまま売り買いできるものでもありません。

では、価値があると分かっているのに、なぜ取り出されてこなかったのか。理由のひとつは、分離に時間がかかりすぎることでした。

従来の再処理が抱えていた「時間」の壁

使用済み燃料から特定の元素を取り出す処理は「再処理」と呼ばれ、代表的な方法にPUREX法があります。燃料を硝酸に溶かし、背の高い塔の中で水系と有機系の溶媒をすれちがわせながら、元素を化学的により分けていく方法です。この流れを支えているのは重力で、液が塔の中を落ちていくのを待つしかありません。分離が終わるまでに数時間かかります。

この「数時間」が、思った以上に高くつきます。まず、有機溶媒が放射線で劣化していくため、処理のたびにコストがかさみます。さらに深刻なのは、半減期(放射性物質が半分に減るまでの時間)の短い同位体です。分離を待っている数時間のあいだにどんどん減ってしまうので、従来のプロセスでは回収をあきらめ、捨てる側に回されてきました。加えて、分離の途中でプルトニウムが一か所に濃縮しないよう、常に管理し続ける必要もあります。遅さそのものが、取れるものの範囲を狭めていたのです。

重力をやめて、1,000Gで回す

今回のPaCERS(Packed Centrifugal Equipment for Radiochemical Separation)が変えたのは、まさにこの部分です。化学的な分離の仕組みはそのままに、重力で液を落とすかわりに、遠心分離機で溶液を高速回転させます。New Atlasによれば、かかる遠心力は1,000G超。液が「落ちる」のを待っていた工程が力ずくで押し進められ、数時間かかっていた分離が数秒で終わるといいます。

速くなって得をするのは、時間だけではありません。まず、これまで待ち時間のあいだに失われていた短寿命の同位体が、減る前に回収できるようになります。捨てるしかなかったものが、取り出せる側に移るわけです。使う溶媒の量も減り、装置も小さくできるため、プラント全体を小型化できます。プルトニウムが望まない形で濃縮するのを避けやすくなる点も、研究チームは利点に挙げています。分離の化学を変えたのではなく、待ち時間という物理的な制約を遠心力で潰した——今回の話の核心は、この一点にあります。

SHINEはこの技術を、自社が開発中の「REDUCE」(Recover Elements – Destroy Undesirables – Create Energy)と名付けた核燃料リサイクルのプロセスに組み込むことを狙っています。同社のRoss Radel最高技術責任者は「使用済み核燃料は、保管や廃棄ではなく回収すべき価値ある物質を多く含む、途方もない資源だ」と述べ、医療用アイソトープの製造で培った分離の知見をPaCERSの実用化に活かすとしています。

発表段階の構想として読む

期待の大きい話ですが、距離感は保っておく必要があります。今回の情報源は企業と研究機関の発表で、査読を経た論文は示されていません。実用化の時期も明らかにされていません。SHINEは商業パイロットを目指すとしていますが、それがいつ、どの規模で実現するのかは、現時点では分からないというのが正直なところです。

構想の先には、さらに大きな絵も描かれています。リサイクルに回せない長寿命の放射性物質に中性子を当てて、寿命の短い物質に変えてしまう「核変換」です。これが実現すれば、数万年単位で隔離し続けるはずだった廃棄物の管理期間を、数十年にまで縮められるかもしれないと研究チームはしています。ただしこちらも検証はこれからです。

もうひとつ、再処理という技術そのものが、国際的に慎重な扱いを求められてきた分野であることにも触れておきます。プルトニウムの分離を伴うため、核兵器への転用リスクと切り離せないからです。SHINE側もこの点は意識しており、発表の中で「効率的で、核拡散に強い(proliferation-resistant)抽出」を目指すと明記しています。速く分離できる技術がその約束をどう担保していくのかも、今後を見るうえでのポイントになりそうです。

9万4,000トンの「ごみ」の9割が燃料のまま眠っている、という事実は変わりません。それを掘り起こす鍵が、新しい化学ではなく「速く回す」という素朴な物理だったとしたら、なかなか痛快な話です。続報を待ちたいと思います。

参考:New Atlas/SHINE Technologiesのプレスリリース

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