【原生代の生物】キンベレラ – 海底に食べ跡を刻んだ、軟体動物の祖先候補

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名前キンベレラ(Kimberella quadrata)。オーストラリアの化石収集家ジョン・キンバーにちなむ
分類左右相称動物。軟体動物に近いとする説が有力だが、確定はしていない
時代原生代 エディアカラ紀後期(約5億5800万〜5億5500万年前が中心。より新しい地層からの報告もある)
発見地オーストラリア南部エディアカラ丘陵、ロシア白海沿岸、イラン中部、中国など
全長最大約15センチ
幅・高さ幅5〜7センチ、高さ3〜4センチ。化石は押し跡だけで、体重の推定はない

キンベレラは、エディアカラ紀の浅い海底を這っていた、ナメクジに似た姿の動物です。楕円形の体の背中を柔らかい殻が覆い、腹側の筋肉質の足で海底を移動しながら、微生物のマットを削り取って食べていました。1966年にクラゲとして記載され、30年後にロシアの標本で解釈がひっくり返った経歴を持ち、現在は軟体動物の祖先に近い生物の候補として、カンブリア紀より前の動物進化を語るときに必ず名前が挙がります。

姿と暮らし

体は上から見ると楕円形で、大きな個体は全長15センチに達しました。背中側は鉱物化していない一枚の殻に覆われ、硬いものの曲げられる程度の柔らかさだったと考えられています。殻のふちには膜状のひだが取り巻き、腹側には現生の巻貝の足に当たる、筋肉質の平らな足がありました。ロシア白海沿岸から集まった800点を超える標本の研究(2007年)では、殻・足に加えて、伸び縮みする吻(ふん。口先の器官)や筋肉の配置まで読み取られています。硬い骨格を一切持たない生物としては、例外的に体のつくりが分かっている部類です。

暮らしぶりは、体の化石のまわりに残った跡から復元されています。当時の海底は細菌や藻類が層になったマットに覆われており、キンベレラの化石のそばには、対になった細い削り跡が扇形に広がる模様がしばしば見つかります。吻の先端にある2本の硬い歯のような器官でマットを手前にかき寄せ、後ずさりしながら食べ進んだ跡と解釈されています。パワーショベルのアームで地面を手前に削る動きに近い食べ方です。この削り跡にはキンベリクヌス(Kimberichnus)という生痕化石としての名前が付いており、地層面によっては本体の化石より跡のほうがずっと多く残っています。

食べていた中身も分かってきました。2022年には、白海沿岸の約5億5800万年前のキンベレラの化石から食事に由来する分子を取り出した研究が発表されています。化石に残っていたステロール類の組成は緑藻と細菌を食べたことを示し、しかも特定の分子だけを選んで取り込む、現生の無脊椎動物と同じような消化管の働きがあったと結論されました。同じ手法で調べたディッキンソニアには消化管の証拠がなく、体の表面から直接栄養を吸収していたとみられるため、同じ海底に、口と消化管で食べる動物と、体表で吸収する生物が並んで暮らしていたことになります。キンベレラの周りには、ほかにも三放射対称のトリブラキディウムや、葉のような形のチャルニアの仲間がいました。

クラゲから軟体動物の祖先候補へ

最初の化石は1959年、オーストラリア南部のエディアカラ丘陵で見つかりました。数が少なく保存も悪かったため、1966年の記載ではクラゲの仲間とされ、1972年にはハコクラゲ類と解釈されています。属名も最初はキンベリア(Kimberia)でしたが、この名前がすでに別の巻貝の学名に使われていたことが分かり、1972年にキンベレラへ改名されました。名前の由来は、1964年に中央オーストラリアの調査行で命を落とした化石収集家ジョン・キンバーです。皮肉なことに、巻貝の学名と重なって改名されたこの生物は、のちに巻貝を含む軟体動物の側の生物へと解釈が変わることになります。

転機は1990年代、ロシア白海沿岸の崖から保存のよい標本が次々に見つかったことでした。1997年、35点を超える新標本を調べた研究がネイチャーに発表され、キンベレラはクラゲのような放射相称の生物ではなく、前後と左右の区別を持ち、殻と足を備えた、軟体動物に似た左右相称動物だと結論されます。ふわふわ漂うクラゲから、海底を這う「ナメクジ」への転身です。2014年には、オーストラリアとロシアの両方に残る扇形の削り跡を体系的に調べた研究が、跡の主をキンベレラと特定し、節足動物では説明できない、軟体動物型の食べ方だと論じました。体の形だけでなく、何をしていたかという行動の記録が、本体の化石と同じ地層面にセットで残っていたことが、この生物の解釈を支えています。

この逆転劇には、1つの化石にとどまらない意味があります。カンブリア紀の爆発的な多様化より前に、殻や足や消化管を備えて動き回る左右相称動物がすでにいたのなら、動物の主要な系統が分かれ始めた時期はさらにさかのぼるはずです。キンベレラはその最有力の物証として扱われ、DNAの変化速度から進化の分岐年代を計算する分子時計の研究では、左右相称動物などの分岐の最低年齢を決める較正点に使われてきました。白海沿岸の地層の年代は、挟まれた火山灰の放射年代測定でおよそ5億5500万年前と求められており、キンベレラが生きた時代の物差しになっています。

ただし「軟体動物そのもの」と言い切れるかは、いまも決着していません。現生の軟体動物を特徴づける歯舌(しぜつ。おろし金のような歯の並んだ器官)は化石から見つかっておらず、削り跡から推定される2本の歯だけでは、軟体動物の系統に入るのか、その手前で分かれた近縁の系統なのかを区別できないためです。研究者の間でも、軟体動物の初期の仲間とする立場から、所属を特定できない左右相称動物にとどめる立場まで幅があります。一方で新しい産地の報告は続いており、2026年には中国の長江峡谷の約5億5000万〜5億4300万年前の石灰岩から標本が記載され、キンベレラがそれまで考えられていたより長く、エディアカラ紀の終わり近くまで生き延びていた可能性が示されました。

出典

Fedonkin & Waggoner (1997) Nature「The Late Precambrian fossil Kimberella is a mollusc-like bilaterian organism」
https://doi.org/10.1038/42242

Fedonkin, Simonetta & Ivantsov (2007) Geological Society, London, Special Publications「New data on Kimberella, the Vendian mollusc-like organism (White Sea region, Russia)」
https://doi.org/10.1144/SP286.12

Gehling, Runnegar & Droser (2014) Journal of Paleontology「Scratch Traces of Large Ediacara Bilaterian Animals」
https://doi.org/10.1666/13-054

Bobrovskiy et al. (2022) Current Biology「Guts, gut contents, and feeding strategies of Ediacaran animals」
https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.10.051

Wu et al. (2026) Precambrian Research「Kimberella from the terminal Ediacaran Shibantan limestone, South China」
https://doi.org/10.1016/j.precamres.2026.108164

オーストラリア国立大学によるプレスリリース(2022年、ScienceDaily掲載)
https://www.sciencedaily.com/releases/2022/11/221122111515.htm

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