絶滅危惧種の違法取引は、いつものSNSと通販サイトで起きている

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絶滅の危機にある生き物の違法な売り買いが、闇市場ではなく、FacebookやInstagram、TikTok、eBayといった「誰もが毎日使うサービス」の上で広がっている——そんな全体像をまとめた総説(レビュー論文)が、2026年8月24日付で科学誌Nature Reviews Biodiversityに掲載されました。まとめたのは、フィンランド・ヘルシンキ大学のエンリコ・ディ・ミニン教授を筆頭とする9名の国際チームです。

ディ・ミニン教授は「オンラインの違法な野生生物取引は、人気のSNSを含む多くのプラットフォームにまたがって広がっており、生物多様性の保全にとって増大し続ける脅威になっている」と述べています。名前が挙がっているプラットフォームは、Facebook、Instagram、TikTok、eBay、Google、Alibaba、Shopee、Tokopedia。どれも特別なサイトではなく、ふつうの検索やSNS、通販の世界です。

違法な野生生物取引の現在地

野生生物の違法取引というと、密猟者と密輸船、そして裏路地の闇市場、というイメージが浮かびます。実際、それは長いあいだ現実の姿でした。国際的には、ワシントン条約(CITES=絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制する条約)が取引を管理していて、条約の付属書に載っている種は、輸出入が禁止されたり、許可制になったりしています。

ここで押さえておきたいのは、野生生物の取引がすべて違法なわけではない、という点です。合法的に繁殖された個体の売買や、許可を得た取引は世界中で行われています。問題になっているのは、その枠の外で行われる取引——密猟された個体や、許可なく国境を越えた個体・製品の売り買いです。

そして、この違法な取引の「場所」が、インターネットに移っていることは、実は10年以上前から指摘されていました。象徴的なのが、国際動物福祉基金(IFAW)が2014年に行った調査です。16カ国・280のオンラインマーケットプレイスを6週間監視したところ、ワシントン条約の付属書I・IIに掲載された種の生体や部位・製品が、9,482件の広告で計3万3,006点も見つかりました。広告の54%は生きた動物、46%は体の部位や加工品だったといいます。6週間という短い期間で、しかも公開の場でこれだけ見つかったわけです。

それから10年あまり。今回の総説は、この間に積み上がった各国の調査や報告を横断的に整理し、オンラインの違法取引がいまどうなっているのかを描き出しました。対象は動物だけではありません。哺乳類、鳥、爬虫類、両生類、魚、昆虫、そしてランや食虫植物などの植物、キノコの仲間まで、数千種におよびます。ヘルシンキ大学の発表によると、チームが2025年半ばに6週間オンラインをモニタリングしただけでも、FacebookやInstagram、TikTok、YouTube上で1,600頭を超える霊長類(サルの仲間)が売りに出されているのが確認されたそうです。

変わったのは中身ではなく規模と速度

では、取引がネットに移って、何が変わったのでしょうか。今回の総説が示した答えは、少し意外なものです。共著者でマンチェスター・メトロポリタン大学のニール・ドゥクルーズ氏はこう説明しています——「動物福祉と生物多様性への悪影響は、従来のオフラインの違法取引と同じです。しかし、オンラインプラットフォームの射程と速度が、その害を増幅しています」。

つまり、犯罪の中身そのものが新しくなったわけではなく、規模と速度が桁違いになった、ということです。総説は、オンラインの市場を支えている要因として、捕まるリスクが低いと思われていること、匿名で売り買いできること、プラットフォーム側の管理が追いついていないこと、そして消費者の需要が根強く続いていることを挙げています。買い手と売り手は、国境をまたいで数回のタップでつながります。取引のネットワークは細かく分散して国をまたぎ、従来の密輸ルートを拡大させたり、場合によっては置き換えたりしているといいます。

もうひとつ、見過ごせない指摘があります。ディ・ミニン教授は「オンラインで違法に取引されていると分かった種の多くが、すでに絶滅の危機にあるか、あるいはこれまで違法取引の危険にさらされているとは考えられていなかった種だった」と述べています。保全の世界では、どの種が取引の標的になっているかを把握したうえで守る手を打ちます。ところがオンラインでは、監視の網にかかっていなかった種まで商品として並んでしまう。守る側のリストが、売る側のスピードに追いついていないのです。

買った人の手元では終わらない危険

この問題は、売られる動植物がかわいそう、という話だけでは終わりません。総説と関連研究は、違法取引が人間の側にもたらす2つの危険を指摘しています。

ひとつは外来種の問題です。生き物が本来の生息地から高速で運ばれ、世界中の家庭に届くということは、逃げ出したり捨てられたりした個体が、その土地の生態系に入り込む入り口が無数にできる、ということでもあります。もうひとつは人獣共通感染症——動物から人にうつる病気です。野生から捕られた動物は、どんな病原体を持っているか分かりません。検疫を通らない違法な輸送は、病気が国境を越える近道にもなります。

珍しい生き物を1匹買う行為が、生態系と公衆衛生の両方につながっている。総説が「多層的で協調した戦略が急務」と訴えるのは、この広がりがあるためです。共著者でケープタウン大学のアネット・ヒュブシュレ氏は、種の保護を強めるだけでなく、規制と技術の両面での対応力を高め、地域コミュニティを巻き込んだ社会全体での取り組みが必要だと述べています。

日本の市場との接点

この話は、日本と無関係ではありません。日本は昔からエキゾチックペット(犬猫以外の珍しいペット)の一大消費国として知られていて、WWFジャパンとTRAFFICが2020年にまとめた報告書によると、税関でのワシントン条約対象種の輸入差止は2007〜2018年で78件・1,161匹にのぼります。摘発されたのはごく一部で、実際にはもっと多くの個体が持ち込まれている可能性も指摘されています。

国内のルールとしては、種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)が、指定された希少種について売買を原則禁止していて、2013年の改正からはインターネット上の販売広告も規制の対象になっています。それでも、条約や法律でまだ規制されていない種は網の外ですし、SNSやフリマアプリでの生き物の出品は国内でもたびたび問題になってきました。今回の総説が描いた構図——ふつうのプラットフォームの上で、監視が追いつかないまま取引が広がる——は、日本語の世界でもそのまま起こりうる話です。

受け止めるうえでの留意点

いくつか、注意しておきたい点があります。まず、今回の論文は新しい実験や単独の大規模調査ではなく、既存の研究や報告を横断的に整理した総説です。冒頭で紹介したIFAWの「6週間で3万3,006点」も、2014年時点の調査結果であって、いまの市場の規模をそのまま示す数字ではありません。また、この点数は広告に含まれていた個体・製品の数なので、同じ個体が数え方によって重複している可能性は残ります。

もうひとつ大事なのは、プラットフォームの名前が並んでいるからといって、各社が違法取引を放置していると断定はできない、という点です。研究が示しているのは「そこで違法な出品が見つかった」という事実で、各社の対策の中身や効果を評価したものではありません。実際、出品の削除や検知の取り組みを進めているプラットフォームもあります。

そして総説自身も、オンライン取引の全体像にはまだ大きなデータの空白があり、消費者がなぜ買うのかという行動の理解も足りていない、と認めています。ディ・ミニン教授の言葉を借りれば、「対処は複雑だが、乗り越えられないわけではない」。問題の輪郭がようやく一枚の地図にまとまった、というのが今回の到達点です。

出典

Di Minin, E. et al. “Global trends and impacts of the online illegal wildlife trade” Nature Reviews Biodiversity(2026年8月24日公開)
https://doi.org/10.1038/s44358-026-00192-8

ヘルシンキ大学プレスリリース(2026年8月24日)
Online Marketplaces Are Putting Biodiversity at Risk

ScienceAlert(2026年8月31日・豪州時間)
Online Marketplaces Increasingly Endanger Biodiversity, Study Finds

IFAW “Wanted – Dead or Alive: Exposing Online Wildlife Trade”(2014年)
https://www.ifaw.org/resources/wanted-dead-or-alive-report

WWFジャパン プレスリリース「日本へのエキゾチックペット密輸の実態を分析した初の報告書発表」(2020年)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000095.000018383.html

環境省「譲渡し等の規制及び手続きについて|ワシントン条約と種の保存法」
https://www.env.go.jp/nature/kisho/kisei/species/trade/

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