救出は失敗、それでも観測は再開――NASAの衛星スウィフト、最後の数か月

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2026年8月26日、NASAのガンマ線バースト観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト天文台」(以下スウィフト)が、搭載する3つの観測装置のうち2つ——X線望遠鏡(XRT)と紫外線・可視光望遠鏡(UVOT)——を再起動し、宇宙の観測に戻りました。2つの装置は今年2月から止められていたので、およそ半年ぶりの観測再開です。

再起動したその日、XRTが最初に撮影したのは、カシオペヤ座の方向・約13,000光年先にある「ティコの超新星残骸」でした。星が爆発したあとに残るガスの広がりで、1572年に天文学者ティコ・ブラーエが観測した超新星の名残です。21年働いてきた衛星が、半年の沈黙のあとに撮った一枚がこれでした。

ただ、これは単純に喜べるニュースではありません。観測が再開されるまでの数か月間に何があったのか、そしてこの再開が何を意味するのかを、順番に見ていきます。

観測を止めてまで稼いだ時間

スウィフトは2004年11月に打ち上げられた衛星です。設計上の寿命は2年でしたが、ガンマ線バースト——宇宙で最も強力な爆発現象——をいち早く捉えて世界中の望遠鏡に速報を送る「見張り役」として働き続け、気づけば21年以上が経っていました。

その長寿の衛星に、近年、寿命とは別の問題が迫っていました。高度の低下です。スウィフトには大気の抵抗に逆らって高度を保つための推進装置がありません。地球の上層大気はうっすらと衛星の高度まで届いていて、低軌道の衛星はこの抵抗で少しずつ高度を落としていきます。さらにここ数年は太陽活動が活発な時期にあたり、温められた大気が膨らんで抵抗が増し、スウィフトの高度低下は想定より速く進んでいました。

そこでNASAは2025年9月、アリゾナ州の企業カタリスト・スペースと約3,000万ドルで契約を結びます。ロボット宇宙機「LINK」を送り込み、スウィフトを捕まえて軌道を押し上げる計画でした。契約から打ち上げまでに与えられた時間は約1年。カタリストは設計・製造・試験を駆け足で進め、LINKは2026年7月3日、ペガサスXLロケットで打ち上げられました。

スウィフト側も、救出を待つための態勢に入っていました。2月にXRTとUVOTを停止したのは、観測をやめて大気の抵抗が最も小さくなる姿勢を取り、LINKが到着するまでの時間を稼ぐためです。4月にはもう1つの装置であるバースト警報望遠鏡(BAT)も止め、太陽電池パネルの角度を抵抗がさらに減る向きに固定しました。観測衛星が観測を止めるという、本来の目的と逆の運用です。それでも、軌道を押し上げてもらえれば観測はまた何年も続けられる——その計算の上での我慢でした。

救出機LINKの故障と捕獲の断念

ところが、打ち上げから1か月もたたない7月下旬、LINKに異常が起きます。機体の向きを制御できなくなって回転し始め、通信も乱れました。調べてみると、姿勢制御用のリアクションホイール——内蔵したはずみ車を回し、その反動で機体の向きを変える装置——が3個のうち2個動かなくなっていて、姿勢制御を補う冷ガススラスタ(ガスを噴いて姿勢を調整する小さな噴射装置)にも機能の一部喪失が見つかりました。

技術者たちは回転を抑え、姿勢の制御自体は取り戻しました。しかし、他の衛星を「つかんで押し上げる」という繊細な作業をこの状態で行うのは難しいと判断され、8月19日、NASAとカタリストはスウィフトの捕獲と軌道上昇を断念すると発表しました。LINKは今後もスウィフトに接近し、近くを飛びながらランデブー技術のデータを取る「近接運用」だけを行います。将来の衛星修理・整備ミッションに向けた技術実証という位置づけです。

断念の1週間後に動き出した装置

そして断念の発表から1週間後の8月26日、スウィフトはXRTとUVOTを再起動しました。

この順番が、今回のニュースの核心です。装置を止めていたのは、救出までの時間を稼ぐためでした。救出がなくなった以上、抵抗を減らして高度をできるだけ保つ運用を続ける理由もなくなります。つまりこの再開は、衛星が持ち直したという話ではなく、「もう軌道は守らない。残った時間はぜんぶ観測に使う」という方針転換なのです。

実際、高度は下がり続けています。NASAの予測では、抵抗を最小にする運用を続けた場合、スウィフトが高度300キロメートルを保てるのは10月までとされていました。高度300キロを切ると衛星の運用は難しくなり、落下のペースも一気に速まります。観測を再開したいま、NASAはこの節目を今後1〜2か月のうちに迎えると見込んでいます。

ここまでの流れを時系列で並べると、こうなります。

  • 2004年11月:スウィフト打ち上げ(設計寿命2年)
  • 2025年9月:NASAがカタリスト・スペースと約3,000万ドルで救出を契約
  • 2026年2月:スウィフトがXRT・UVOTを停止し、低抵抗運用へ
  • 2026年4月:BATも停止、パネルを抵抗軽減の向きに固定
  • 2026年7月3日:救出機LINK打ち上げ(ペガサスXL)
  • 2026年7月下旬:LINK故障(リアクションホイール3個中2個停止、冷ガススラスタも一部喪失)
  • 2026年8月19日:捕獲・軌道上昇を断念(以後は近接運用による技術実証のみ)
  • 2026年8月26日:スウィフトがXRT・UVOTを再起動、観測に復帰
  • 今後1〜2か月:高度300キロを下回る見込み
  • 2026年内:大気圏に再突入の見込み

残された時間と再突入の見通し

止まったままのBATについても、NASAは数週間以内のデータ収集再開を目指しています。3つの装置がそろえば、スウィフトは最後の数か月を、21年間続けてきたのと同じフル体制で観測に使うことになります。ガンマ線バーストは前触れなく起きる現象なので、観測できる時間が1日でも延びれば、その分だけ捉えられるチャンスは増えます。

その先に待つのは大気圏への再突入です。NASAは、スウィフトは年内に地球へ落下し、機体の大半は大気圏で燃え尽きるとしています。「大半」であって全部ではなく、一部の部品は燃え残る可能性がありますが、落下の時期や場所を絞り込むのはまだ先の話です。また「1〜2か月で高度300キロ」という見通しも、大気の膨らみ方を左右する太陽活動しだいで前後します。

3,000万ドルをかけた救出は実らず、衛星は予定どおり落ちていく——結果だけ見ればそうなります。ただ、その結末が決まった1週間後に観測装置を再び立ち上げ、超新星残骸の写真を撮って送ってきた、という事実も残ります。スウィフトの最後の観測データがどんな現象を捉えることになるのか、それはまだ誰にも分かりません。

出典

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