
| 名前 | トリブラキディウム(Tribrachidium/「三本の小さな腕」の意) |
| 分類 | 所属不明(絶滅したグループ「トリロボゾア」に置かれる) |
| 時代 | 先カンブリア時代・原生代末のエディアカラ紀(約5億5500万〜5億5000万年前) |
| 発見地 | オーストラリア・南オーストラリア州フリンダース山脈、ロシア・白海沿岸、ウクライナ |
| 大きさ | 直径3mm〜5cmほど(多くは2〜4cm)の半球形 |
トリブラキディウムは、約5億5000万年前のエディアカラ紀の海底に生きていた、半球形の生き物です。ドームの表面には三本の腕のような盛り上がりが中心から伸び、外に向かって反時計回りに渦を巻きます。体が三等分の回転対称になっているこのつくりは「三放射対称」と呼ばれ、現在生きている動物のどの門にも存在しません。左右対称でも、クラゲやヒトデのような放射対称でもないこの体のせいで、発見から半世紀以上たった今も、何のなかまなのかが決まっていません。
姿と暮らし
化石は、砂岩の層の底面に残された円形の型として見つかります。生きていたときは、直径2〜4cmほどの低いドーム形で、海底に置かれた小さなお椀を伏せたような姿だったと復元されています。三本の腕は頂上付近で寄り合い、そこから縁に向かってカーブしながら細くなります。腕の曲がり角の近くには「ブラ」と呼ばれる小さなふくらみが、腕の先から縁にかけては細かいひだ状の飾りが確認されている標本もあります。移動した痕跡は見つかっておらず、海底に腰を据えて動かずに暮らしていたと考えられています。
動かない生き物が何をどう食べていたのかは、長いあいだ手がかりがありませんでした。2015年、イギリス・アメリカ・カナダの研究チームは、トリブラキディウムの3Dモデルを仮想の水流の中に置き、体のまわりの流れをコンピュータで計算しました。すると、三本の腕が水流をさえぎって頂上へと導き、頂上付近の三つのくぼみの上で流れが遅くなることが分かりました。流れが遅くなれば、水中に漂う有機物の粒がそこに沈んで積もります。つまりこの体は、自分は動かずに、流れてくる食べ物を三本の腕で集める装置として働いていたことになります。この「懸濁物食」というやり方を大型の体で行った生き物としては、最古級の例とされています。2024年には、より精密なモデルを使った再計算でもこの結果が支持されました。
トリブラキディウムが暮らしていた浅い海の底は、微生物が織りなすマット状の膜に覆われていました。同じ地層からは、ディッキンソニアやスプリッギナなど、エディアカラ紀を代表する軟らかい体の生き物たちが一緒に見つかっています。多くの仲間が海底の膜から直接栄養を吸収していたと考えられているなかで、水中から食べ物をこし取るトリブラキディウムの食べ方は、この時代の生態系が単純な一本調子ではなかったことを示す証拠になっています。
三本の腕が分類を拒む
現在の動物の体は、対称性でほぼ二通りに分けられます。ヒトや魚や昆虫のように、体の右半分と左半分が鏡写しになる左右対称。そしてクラゲやイソギンチャクやヒトデのように、中心軸のまわりに同じつくりが並ぶ放射対称です。ただし放射対称の動物でも、繰り返しの数は4・5・6・8などで、3を基本とする門はひとつもありません。トリブラキディウムの三放射対称は、現在の地球のどこを探しても見つからない体のつくりです。
1959年にこの化石を記載したマーティン・グレスナーさんは、当初からこの生き物をどの動物群にも入れられない「問題化石」として扱いました。表面の渦巻きがエドリオアステロイド類(絶滅した棘皮動物)の腕に似ていることから棘皮動物との関係も議論されましたが、棘皮動物の基本は五放射で、数が合いません。ロシアの研究者ミハイル・フェドンキンさんは、同じく三放射対称のアルブマレスやアンフェスタとまとめて、絶滅した独自のグループ「トリロボゾア」を提唱しました。この枠組みは今も使われていますが、トリロボゾアが動物の系統樹のどこにつながるのかは分かっていません。中心にあるY字形の溝が口ではないかとする解釈も出されましたが、数百点の標本を調べた研究で確認されず、腕のふくらみを生殖器官とみる説も証拠のない推測にとどまっています。
それでも化石そのものは珍しくありません。オーストラリアのほか、ロシアの白海沿岸やウクライナからも見つかっており、エディアカラ紀の浅い海では広い範囲にすみついていたことが分かります。属名は「三本の小さな腕」を意味し、種小名のヘラルディクムは「紋章の」という意味で、三本の脚が渦を巻くマン島の紋章とよく似た見た目にちなみます。長く1属1種とされてきましたが、2024年、南オーストラリア州のニルペナ・エディアカラ国立公園から二番目の種トリブラキディウム・ゲーリンギが記載され、命名から65年目にして初めての同属の仲間が加わりました。体のつくりの謎は残ったまま、この三本腕の一族は少しずつ顔ぶれを増やしています。




出典
Rahman, I. A. et al. (2015) Suspension feeding in the enigmatic Ediacaran organism Tribrachidium demonstrates complexity of Neoproterozoic ecosystems(Science Advances)
Olaru, A. et al. (2024) Functional morphology of the Ediacaran organism Tribrachidium heraldicum(Paleobiology)
Hall, C. M. S. et al. (2015) Paleoecology of the enigmatic Tribrachidium: New data from the Ediacaran of South Australia(Precambrian Research)
Botha, T. L. & García-Bellido, D. C. (2024) A new species of the iconic triradial Ediacaran genus Tribrachidium from Nilpena Ediacara National Park(Journal of Paleontology)


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