砂糖の3,500倍甘いのに血糖が動かない——「甘味たんぱく質」の臨床試験が示したこと

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アイスティーを1杯甘くするのに、粉が3ミリグラムもいらない——そんな甘味料の臨床試験の結果が、食品科学の専門誌『Food Chemistry』に掲載されました。イスラエルのバイオ企業Amai Proteins(アマイ・プロテインズ)が開発した「sweelin(スウィーリン)」という素材で、重さあたりの甘さは砂糖のおよそ3,000〜3,500倍。テルアビブのスーラスキー医療センターで19人の健康な成人を対象に、飲んだあとの血糖やホルモンの動きを2時間追いかけた、世界で初めてのタイプの試験です。

ここまでなら「また新しい高甘味度甘味料か」という話に聞こえるかもしれません。ただ、この素材には従来の甘味料と決定的に違う点がひとつあります。それは後半で見ていくとして、まずは「甘味料と体」をめぐるこれまでの流れから整理します。

ゼロカロリー甘味料をめぐる現状

砂糖の代わりに使われる甘味料には、いろいろな顔ぶれがあります。日本のスーパーでもおなじみのところだと、アスパルテームやスクラロースのような人工甘味料、植物由来のステビア、糖アルコールのエリスリトールを使ったラカントあたりでしょうか。どれも「カロリーがほぼゼロ、またはごく少ない甘さ」を売りにしてきました。

ところが近年、「カロリーゼロ=体に何の影響もない」とは言い切れないのではないか、という研究報告が積み重なってきています。甘味料の種類や条件によっては、血糖やインスリンまわりの数値、腸内細菌などに変化が見られたという報告があり、とくに糖尿病や血糖の管理が必要な人にとっては気になる話題になっていました。もちろん研究ごとに結果はまちまちで、「甘味料は危ない」と決まったわけではありません。ただ、「甘味料を口にしたとき、体は本当に何も反応していないのか」は、思ったよりきちんと調べられていない領域だった、ということです。

そしてもうひとつの前提として、これまでの甘味料はどれも「小さな分子」でした。アスパルテームもスクラロースもステビアの甘味成分も、化学的にはかなり小ぶりな物質です。体の中での通り道も、糖やたんぱく質とはまた別のルートになります。

甘味たんぱく質という素材

今回のsweelinは、そこが根本から違います。これは甘味料の錠剤でも合成化合物でもなく、たんぱく質です。肉や卵や大豆に入っているのと同じカテゴリーの、アミノ酸がつながった分子が、砂糖の数千倍の甘さを持っている——そういう素材です。

元になったのは、西アフリカから中央アフリカの熱帯雨林に生えるセレンディピティベリー(学名 Dioscoreophyllum cumminsii)という植物の果実です。この果実には「モネリン」という、天然ではとびきり甘いたんぱく質が含まれています。甘いたんぱく質を持つ果実は熱帯にいくつか知られていて、霊長類——つまり私たちの仲間——を引き寄せるために進化したのだろうと考えられています。

ただ、天然の甘味たんぱく質をそのまま食品に使うのは簡単ではありませんでした。Amai Proteinsはこのモネリンを土台に、AIの助けを借りてたんぱく質の設計を改良し、精密発酵(微生物に目的のたんぱく質を作らせる技術)で量産できるようにしました。それがsweelinです。白い粉で、液体に溶けやすく、加熱にも耐えるとされています。冒頭で触れたとおり、アイスティー1杯なら3ミリグラム弱で足りる甘さです。

とはいえ、「甘いたんぱく質」を実際に人が飲んだとき、体はどう反応するのか。血糖は、インスリンは、動くのか動かないのか。甘味たんぱく質でそこを調べた臨床試験は、これまで一度も行われていませんでした。

19人で行われた臨床試験の中身

試験のやり方はこうです。19人の健康な成人に、3種類の甘い飲み物をそれぞれ別の日(1週間あけて)に飲んでもらいます。中身は、sweelin 0.051グラム、ステビア(Reb-M)0.225グラム、ブドウ糖75グラムの3通り。どれも甘さの強さがそろうように調整されていて、参加者は自分がどれを飲んでいるか分かりません。研究者側も、解析が終わるまでどのデータがどの飲み物か分からない状態で進める「二重盲検」という方式です。飲んだあとは120分間にわたって、血糖・インスリン・GLP-1という3つの数値を追いました。

GLP-1というのは、食事のあとに腸から出て、インスリンの分泌をうながすホルモンです。近年話題の減量薬・糖尿病薬(GLP-1受容体作動薬)の「GLP-1」と同じもので、食べ物が入ってきたことへの体の反応を映す指標のひとつになります。

結果は、はっきりしていました。ブドウ糖を飲めば当然、血糖もインスリンも大きく上がります。ところがsweelinでは、2時間トータルの血糖の反応がブドウ糖の31分の1、インスリンの反応は81分の1にとどまりました。GLP-1にいたっては、上昇そのものが見られませんでした。ふるまいとしては、血糖を動かさないことで知られるステビアとほぼ同じ。参加者19人は全員が試験を完了し、途中離脱も、被験品に関連する有害事象もゼロでした。

数字を並べ直すと、この試験でsweelinが担った甘さは「ブドウ糖75グラム分」です。それをわずか0.051グラム——1,000分の1以下の量——でまかない、しかも体の側は、糖が入ってきたときのような反応をほとんど示さなかった。つまり、「甘い」という感覚と「血糖が上がる」という反応は、別々に切り離せる。甘さの正体を糖からたんぱく質に置き換えれば、舌は甘さを受け取り、体の糖代謝はほぼ素通りする——それがこの試験の示したことです。

たんぱく質なので、飲み込んだあとの運命も普通の食品と同じです。論文によれば、sweelinは他の食事性たんぱく質と同じ消化の経路で分解され、体内でアミノ酸として処理されます。腸での消化モデル実験では、2時間後に未消化で残るのは摂取量の3%未満だったとのこと。人工的な化合物が体内に居座るのではなく、「食べたたんぱく質」として片づけられていくわけです。

結果の読み方と残る限界

ここまで読むと「理想の甘味料では?」と思えてきますが、割り引いて受け取るべき点がいくつもあります。論文自身も、この試験が小規模で短期間のものだと明記しています。

まず、19人・120分・1回きりの試験です。分かったのは「健康な成人が1回飲んだ直後の2時間、血糖まわりの数値が動かなかった」ことまでで、毎日とり続けたときの長期的な影響や、もっと大人数での再現性は、これからの検証を待つ段階です。参加者は健康な人たちなので、糖尿病や糖尿病予備群の人で同じ結果になるかも、まだ確かめられていません。「血糖が上がらない甘味料」と断定するのは早く、糖尿病の治療や食事管理をこれで置き換えられる話でもありません。

次に、この試験は開発企業自身が資金を出し、同社の研究者が実施した研究です。参加者もスタッフ(企業の社員を含む)も盲検を保ったまま解析まで進めた、と手続きはきちんと書かれていますが、企業に有利な結果が出やすい構図であることは、読み手として頭に置いておきたいところです。第三者による追試が出てくれば、信頼度は一段上がります。

それから、「31分の1」「81分の1」は反応の大きさの比であって、ゼロではありません。ステビアと同程度、というのが実際の位置づけです。

市場の状況にも触れておきます。sweelinは2026年2月に米FDAのGRAS(一般に安全と認められる食品成分の制度)で「異議なし」の通知を受け、5月にシンガポール食品庁、8月末にイスラエル保健省の承認を得ました。現時点で使えるのはこの3市場で、日本での承認や流通は発表されていません。日本の店頭でsweelin入りの飲み物を見かけるとしても、まだ先の話になりそうです。

それでも、「食品として作られたたんぱく質」が甘味料の新しい選択肢になりうると人で示した最初のデータ、という意味は残ります。甘さと血糖の反応は切り離せる——この一点が、より長く大きな試験でも保たれるのかどうか。続報を待ちたいところです。

出典

元論文(Food Chemistry・査読済み):Lifshitz Y, et al. “sweelin®, a novel sweet protein, does not affect blood glucose and insulin levels – a double-blind, crossover, randomized study.” DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.149790

紹介記事:ScienceAlert(2026年9月1日)

Amai Proteinsのプレスリリース(試験結果の発表):PR Newswire(2026年6月8日)

米FDAのGRAS通知(GRN 1269):FDA GRAS Notice Inventory

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