動物はお互いを名前で呼んでいるのか——イルカ・ゾウ・サルの研究をそろえて見る

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イルカ、ゾウ、サル、オウム。ここ数年、「この動物はお互いを名前で呼んでいる」という研究が立て続けに発表されました。2026年8月にLive Scienceがこの話題を横断的にまとめた記事を出しています。ただ、その中で研究者たちの間には、はっきりした温度差があります。「名前で呼び合う動物は思ったより多いはず」という立場と、「何をもって名前と呼ぶのか、まだ決まっていない」という立場です。

この記事では、各動物でどんな証拠が見つかっているのかを順に見たあと、2026年7月に提案された「名前の最低条件」を当てはめると何が残るのか、というところまで追いかけます。

イルカの口笛から始まった研究

いちばん歴史が長いのはバンドウイルカです。1960年代に、若いイルカが自分だけの口笛の音型を作ることが見つかりました。「シグネチャーホイッスル」と呼ばれるもので、個体ごとに周波数の上がり下がりのパターンが違います。

おもしろいのは、イルカが自分の口笛を鳴らすだけでなく、ほかのイルカの口笛を真似して鳴らす点です。水中スピーカーで再生実験をしてみると、ある個体の口笛を流したとき、その個体は自分の口笛で返事をしてきます。人が離れた場所から「〇〇さーん」と呼ぶと、本人が「はーい」と返すのに近い動きです。しかもイルカは、鳴らしている個体の声質ではなく、口笛の「形」のほうで相手を見分けています。声色が変わっても、音型が同じなら同じ相手だと分かるわけです。

この分野は半世紀以上の蓄積があり、フロリダのドルフィン・リサーチ・センターで認知心理学者として研究しているケリー・ヤーッコラ氏によれば、イルカは複雑な社会の中で相手を識別するため、そして協力して課題をこなすときに、こうした口笛を使っているといいます。

ゾウ・サル・オウムで相次いだ報告

ここ数年で、イルカ以外の動物についても「名前らしきもの」の報告が続きました。

まずアフリカゾウです。コロラド州立大学のマイケル・パルド氏らのチームが、ケニアのサンブル国立保護区とアンボセリ国立公園で録音した野生のゾウの声を分析しました。使ったのは低いうなり声で、パルド氏の表現を借りると「巨大な猫がのどをゴロゴロ鳴らしている音に少し似ている」そうです。発信者と受け手が分かっている469件の声を機械学習にかけたところ、声の構造から受け手が誰かを、偶然より高い確率で当てられました。さらに再生実験では、ゾウは自分に向けて発せられた声を聞くと、ほかの個体に向けた声を聞いたときより速くスピーカーに近づき、より多く声を返しました。

この研究には、イルカと決定的に違う点があります。ゾウは相手の声を真似していないのです。イルカの場合、相手の口笛をコピーして呼びかけるので、「名前」といっても物まねの延長と言えなくもありません。一方、ゾウの「名前」は受け手の声とは似ておらず、人間の名前と同じように、本人の音とは無関係なラベルになっている可能性があります。この研究は2024年に学術誌Nature Ecology & Evolutionに掲載されました。Live Scienceの記事は当初「査読前のプレプリント」と書いていましたが、8月27日にこの点を訂正しています。

次にサルです。ヘブライ大学のチームが2024年に学術誌Scienceで報告したもので、コモンマーモセットが「フィーコール」という甲高い鳴き声を特定の相手に向けて使い分けている、という内容でした。3つの家族群から10頭を使い、2頭を仕切り越しに向かい合わせると自然に鳴き交わしが始まる、という設定で録音しています。同じ家族の中では似たラベルを使う、という「方言」めいた結果も出ていました。

鳥では、中南米にいる小型のインコ、メガネヒメインコで再生実験による報告があります。また少し違う角度から、飼われているオウム・インコを調べた研究もあります。北コロラド大学のローリン・ベネディクト氏らが飼い主からの回答を884羽分集めたところ、47%にあたる413羽が、人や動物の名前を含む言葉を発していました。その中の88羽については、特定の相手だけに名前を使っているように見える報告がありました。「間違った名前で呼ばれると訂正する」「家の人間と犬の名前を全部正しく使い分ける」といった回答もあったそうです。ベネディクト氏は「オウムは人からたくさんのことを拾います。人間の言語的な意味を分かっているとは限りませんが、いつ言えばいいかは知っている」と話しています。ただしこれは、人間の名前を覚えた飼い鳥の話で、野生のインコが仲間に名前を付けているかどうかとは別の問題です。

こうして並べると、「名前を使う動物」のリストは着々と伸びているように見えます。

「名前」と呼ぶための三つの条件

ところが、ヤーッコラ氏はこの流れに待ったをかけています。

きっかけの一つがマーモセットの研究でした。ヤーッコラ氏は2025年に反論を発表し、鳴き声から受け手を正しく当てられた割合が16〜61%にとどまっている点を指摘しています。この程度の精度なら、名前を呼んでいるのではなく、単にお互いの声を真似し合っているだけでも説明がつく、というのが氏の見立てです。

そして2026年7月、ヤーッコラ氏はブリストル大学のステファニー・キング氏、スティーブン・F・オースティン州立大学のジェイソン・ブラック氏と共同で、学術誌Trends in Cognitive Sciencesに総説を発表しました。動物の音を「名前」と呼ぶために最低限そろっていなければならない条件として、次の三つを挙げています。

一つ目は「個体を指していること」。その音が、特定の一頭に向けられていることです。二つ目は「記号として表していること」。使う側の頭の中で、その音が相手そのものを表す印になっていることです。三つ目は「意味が共有されていること」。少なくとも二頭以上が、その音とその個体を結びつけていることです。

言い換えると、「特定の相手に向けて特定の音を出す」だけでは足りない、ということです。「特定の相手に向けて」だけなら、相手の声を真似して呼びかけても成り立ちます。名前と言えるためには、音が相手の存在を「代わりに表している」ことを示す必要があります。

この物差しを今ある証拠に当てはめると、どうなるか。ヤーッコラ氏の評価では、三つの条件すべてに証拠があるのはバンドウイルカだけです。ゾウ、オウム、マーモセットは、一つ目の「個体を指している」については証拠があるものの、二つ目の「記号として表している」を示す実験がまだ足りない、という判断でした。

イルカで決め手になったのは、音とは別の情報を組み合わせた実験です。イルカは仲間の尿の味で個体を見分けられることが知られています。そこで、水中に特定の個体の尿を流しながら口笛を再生したところ、尿と口笛が同じ個体のものだったときのほうが、イルカはスピーカーに長く注意を向けました。しかも実験中、尿だけを流して音を出さなかったのに、その個体の口笛を自分から鳴らしたイルカが2回いたそうです。口笛が「その相手」の頭の中の像と結びついていなければ起きない反応です。

つまり、いちばん派手に報道されたゾウやサルではなく、60年前から研究されていたイルカが、いまのところ唯一「名前」の条件を満たしている、というのが2026年時点の答えでした。

名前を持つ動物に共通する二つの特徴

ただし、これは「ゾウやサルには名前がない」という話ではありません。ヤーッコラ氏自身、「名前と呼ぶのは大きな主張です」と言いつつ、ほかの動物が名前らしき音を持つ可能性を否定してはいません。証拠がまだ足りない、という段階です。氏の言葉を借りれば、今回の三条件は「この問いをもっと系統的に調べ始めるための、共通の枠組み」です。ゾウの研究者もマーモセットの研究者もそれぞれ違う実験をしていて、ヤーッコラ氏の言うとおり「同じことについて話すのが本当に難しい」状態だったので、まず物差しをそろえた、というわけです。

一方でゾウを研究したパルド氏は、もっと楽観的です。名前らしき音を使うとされる動物には、共通する特徴が二つあります。新しい音を学習できること、そして非常に社会的なことです。とくに、群れがいくつかの小さなグループに分かれて動き、仲間が視界から外れることが多い動物では、名前が役に立ちます。姿が見えない相手を、声だけで特定して呼べるからです。

この条件に当てはまる動物は、ほかにもいます。パルド氏はヒヒ、キリン、カラスを例に挙げています。どれも群れが小さなグループに分かれる暮らしをしています。いまのところこれらの動物で名前の証拠は出ていませんし、音を学習する能力が伴っている必要もありますが、パルド氏は「私たちが思っているより、ずっとありふれた行動かもしれない」と見ています。

もう一つ、この研究テーマが人間の側にも跳ね返ってくる点があります。ベネディクト氏が指摘しているのは、名前が「自分」という感覚と深く結びついていることです。動物が名前を持ち、名前に反応するなら、その動物にも自分という感覚があり、ほかの個体を個として認識している可能性がある、という話になります。

最後に一つ、人間との違いを。イルカの「名前」は、人間のように親から付けてもらうものではありません。若いイルカが自分で作り、周りがそれを覚えて真似する、という順番です。ヤーッコラ氏らの総説も、動物の名前が人間の名前と同じ形である必要はない、と書いています。どうやって自分の名前を手に入れるか、誰がいつその名前を呼ぶか、ほかの個体がどう覚えるか。動物ごとにまったく違う「名前の仕組み」があってもおかしくない、というのが現在の見方です。ゾウやサルの音がその仕組みの一つなのかどうかは、次の実験を待つことになります。

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出典

Do other animals call each other by name?(Live Science、2026年8月23日公開、8月27日訂正)

Do animals use names? Conceptual and empirical criteria(Jaakkola, King & Bruck、Trends in Cognitive Sciences、2026年7月22日オンライン公開、DOI: 10.1016/j.tics.2026.06.008)

African elephants address one another with individually specific name-like calls(Pardo et al.、Nature Ecology & Evolution、2024年)

Vocal labeling of others by nonhuman primates(Oren et al.、Science、2024年、DOI: 10.1126/science.adp3757)

Do marmosets really have names?(Jaakkola、Learning & Behavior、2025年、DOI: 10.3758/s13420-024-00662-z)

飼育下のオウム・インコにおける名前の使用を調べた研究(Benedict et al.、PLOS ONE、2026年)

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