ここ数か月、社内で「AIをどんどん使え」と号令をかけてきた大企業が、今度は逆に「使いすぎるな」と言い始めている。米メディアの404 Mediaが7月2日に報じた記事によると、テック・エンタメ・金融など幅広い業種の企業が、従業員のAI利用に制限をかけ、より非力な(=安い)モデルへ切り替えるよう求めているという。根拠はリークされたSlackの会話、社内ダッシュボードのスクリーンショット、メールなどで、対象にはAtlassian、Adobe、Amazonなど半ダースほどの企業が含まれる。あるケースでは、AIへの支出が月1500万ドル(およそ23億円)超へと3倍に膨らんでいたとされる。

「もっと使え」から「使いすぎるな」への転換
背景にあるのは、AIの課金の仕組みが定額制から「使った分だけ払う」従量課金へ移りつつあることだ。定額なら社員が何回使っても料金は変わらないが、トークン(AIが処理する文章量に応じて数えられる単位で、そのまま課金の対象になる)ベースの従量課金では、使えば使うほど請求が積み上がる。404 Mediaが入手したメールには、支出を抑えるために一部のAIモデルへのアクセスをまるごと止めた企業もあったといい、Adobeのような大手もClaudeの無制限利用を終了させているとされる。
つい先ごろまで、多くの企業は「AIを可能な限り使え」と社員に促していた。それが一転して制限側に回った格好で、404 Mediaはこの一連の動きを「トークンポカリプス(tokenpocalypse)」と呼んでいる。同社はこれまでにも、コンサル大手アクセンチュアの社内音声リークをもとに、PDFをスライドに変換するといった地味な作業がトークンを大量に消費していた、という話を報じてきた。派手な使い道ではなく、日常的な書類仕事が請求を押し上げていたわけだ。
各社に広がる利用制限
Jiraなどで知られるAtlassianは、社内でのAIツールの無制限利用をやめ、従業員が自分のAI利用にいくらかかっているかを確認できるダッシュボードを導入した。404 Mediaが見たそのダッシュボードでは、AWSやGoogle Cloud、OpenAIのLLMなどへの支出が2025年8月の約500万ドルから、2026年5月には1500万ドル超へと増えていた。年間では1億2000万ドル(およそ186億円)を超えるペースだという。ある社員は、AI利用を最大化するように仕事のやり方を変えた人ほど、いまでは2〜3日で上限に達してしまうと話す。とくにエージェントや最新のClaudeを使うと消費が早く、「これでどう仕事しろというのか」といった不満の書き込みがSlackに並んでいるという。一方で、「そもそも青天井の支出を許していたほうがおかしい。いつか終わるのは時間の問題だった」と冷静に受け止める声もあったとされる。
Amazonでは、従業員をAI利用量でランキング表示する社内リーダーボードが停止された。複数の社員は、無駄で高くつく使い方を助長していたから止めたのではないかと見ている。停止のあと、それまで存在すら知られていなかったトークンの上限に達した社員が現れ、「リーダーボード廃止から2週間で、今度は実際の利用制限か」というやりとりがSlackに残っていたという。Amazonの広報は404 Mediaに対し、社員にはAIの活用と実験を勧めており、AI利用に関する方針は変えていないと答えている。
銀行のCitiでは、GitHubが6月に定額制から従量課金へ切り替えたことへの直接の対応として運用を見直した。メールによれば、日々のCopilotの利用状況を監視して「過剰・異常な利用パターンを早期に」見つけ、予算面の管理もしているという。GitHub自体では、社員にトークン支出の上限は設けられていないものの、オープンソースのモデルを使って支出を減らせないか検討していると伝えられたとされる。
企業の説明と内部資料の食い違い
報じられた各社のうち、いくつかは内容を否定している。Atlassianは、ダッシュボードの数字はAI利用の実態を正確に反映していないとしつつ、どの数字がどう違うのかは明らかにしなかった。Citiは、モデルを無効化してはいないし、社員にトークンを割り当てて利用を制限してもいないと回答したが、404 Mediaが入手したメールやスクリーンショットは、特定のモデルへのアクセスがブロックされていることを示していたという。これらはあくまでリークされた社内資料と関係者の証言にもとづく報道であり、企業の公式見解とは食い違う部分がある点は押さえておきたい。
「AIは本当に安いのか」という問い
この話が突きつけているのは、単純な問いだ。AIは業務のコストを下げているのか、それとも新しい経費を一つ増やしただけなのか。導入を急いだ企業ほど、まず「使わせる」ことに投資し、そのあとで請求書の大きさに気づいて「使わせない」側へ舵を切っている。トークンあたりの支出と、それが生んだ成果を結びつけて評価するのは難しく、そこが見えないまま数字だけが膨らんでいく構図が各社に共通している。定額で使い放題だった時期が終わりつつあるいま、現場には「どのモデルを、どこまで使ってよいか」という新しい線引きが下りてきている。派手な成長の裏で運用コストとどう折り合いをつけるか——AI活用の次の段階は、そこから始まるのかもしれない。今後も、海外で出てくるこうした「AIの実務のリアル」を拾って紹介していきたい。
元記事:Companies Are Throttling Employees’ AI Use Because It’s Too Expensive(404 Media)


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