系外惑星の生命探しを邪魔するのは、その星系に漂う塵だった

科学・宇宙
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系外惑星に生命の兆候を探すとき、いちばんの敵は望遠鏡の性能不足だと思われがちだ。ところが、もっと手前に厄介なものが待っている。惑星のまわりに薄く広がる、細かい塵である。NASAゴダード宇宙飛行センターの研究チームは、この塵が惑星の大気を読み取る作業をどれだけ鈍らせるかをシミュレーションで見積もった。条件によっては、大気の成分が刻む「吸収の谷」が、本来の半分の深さにしか見えなくなる。

黄道光という身近な塵

夜明け前の暗い空で、東の地平から光の柱がぼんやり立ちのぼって見えることがある。「偽りの夜明け」とも呼ばれる黄道光(こうどうこう)だ。正体は、太陽系の内側に漂う細かい塵が太陽の光を反射しているもの。大きさは1〜100マイクロメートルほど、炭素やケイ酸塩でできた粒で、小惑星や彗星が削れて生まれたものが、惑星の軌道面に沿って薄く広がっている。惑星が黄道十二星座を通っていくのと同じ道すじに見えるので、この名前がついた。

同じような塵は、ほかの恒星のまわりにもあると考えられている。こちらは「系外黄道光ダスト(exozodi)」と呼ばれる。とくに注目されるのは、恒星から適度に離れた「ハビタブルゾーン」——液体の水が保てる温度の帯——に居座る、300ケルビン(27℃)前後の暖かい塵だ。生命を探すために調べたい場所と、塵が濃く漂う場所が、ちょうど重なってしまっている。

厄介なのは、これが例外的な現象ではないことだ。LBTIという観測装置を使ったHOSTSサーベイが近傍の太陽に似た恒星を調べたところ、塵の量は中央値でおよそ3ゾディだった。1ゾディは太陽系のハビタブルゾーンの塵と同じ濃さを表す単位なので、平均的な星は太陽系の3倍の塵をまとっている計算になる。

直接撮像で大気を読む仕組み

今回の研究が想定しているのは、NASAが構想を進めている次世代の宇宙望遠鏡「ハビタブル・ワールド・オブザーバトリー(HWO)」だ。2020年代の天文学の長期計画で開発が推奨された旗艦計画で、近くの太陽に似た恒星のまわりから、地球によく似た惑星を25個ほど見つけて大気を調べることを目標にしている。

ここで使うのは、惑星が星の前を横切る瞬間をとらえる方法ではない。星の光をコロナグラフでさえぎり、惑星そのものが反射している光を直接撮って、そのスペクトルを解析する。惑星の大気に水蒸気や酸素、オゾン、メタン、二酸化炭素があれば、それぞれ決まった波長の光を吸い取るので、スペクトルのその位置が谷になってへこむ。谷の深さから、どの気体がどれだけあるかを逆算する——これが大気を「読む」ということだ。

問題は、この読み取りが谷の深さに頼っている点にある。

吸収の谷が浅くなる理由

望遠鏡が惑星を撮るとき、惑星の像だけをきれいに切り出せるわけではない。惑星のまわりに広がる塵も、同じ視野の中で星の光を反射して光っている。この塵の光は画像処理で差し引くのだが、完全には消せない。そして消し残った分は、惑星のスペクトルに足し算される

塵は特定の波長だけを吸うわけではなく、どの波長もまんべんなく反射する。だから足された光は、スペクトル全体を持ち上げるように効く。ベースラインが上がれば、そこから下に落ち込む谷は、相対的に浅く見える。論文はこれを「雲がかかったような効果」と表現している。塵が惑星の光を遮っているのではなく、塵自身の光がまぎれ込んで谷を埋めてしまう、という向きの話だ。

研究チームは、太陽と同じ大きさ・温度の恒星から1天文単位の距離に、地球サイズの惑星を1個置いた仮想の惑星系を用意した。距離は10パーセク(約32.6光年)。ここに塵の量と色を変えながら加え、口径7.2メートルの望遠鏡で撮ったらどう見えるかを、露出時間の計算機と大気推定のプログラムを通して再現している。

結果は、太陽系と同じ1ゾディという控えめな量でも、可視光域の分子吸収の見かけの深さが最大で50%も削られる、というものだった。しかも影響は波長が長いほど強くなる。理由は望遠鏡の分解能にある。光を集める範囲の大きさは波長に比例して広がるため、長い波長で撮るほど、惑星のまわりの塵をよけいに拾い込んでしまうのだ。塵の色が完全に一様(灰色)だったとしても、この効果だけで長波長側が不利になる。

塵の色による差

塵は必ずしも灰色ではない。デブリ円盤(惑星系に残る塵の円盤)の観測から、青っぽいものが多いことが知られている。青い塵は0.6マイクロメートルより長い波長をあまり反射しないので、長波長側の吸収の谷はほとんど無傷で残る。研究チームの見立てでは、青い塵をまとった惑星系は、大気を調べるうえでいちばん恵まれた相手ということになる。

反対に、赤い塵はいちばん不利だ。もともと長波長でよく反射するうえに、前述のとおり長波長では拾い込む範囲も広がるため、影響が二重に効いてくる。もっとも、灰色・赤・太陽系型の三者を比べると差は数パーセント以内で、いずれにせよ厳しいことに変わりはない。

数字が静かに狂う怖さ

この研究がとくに気を配っているのは、「見えなくなる」ことより「間違って見える」ことのほうだ。

大気推定のプログラムは、いまのところ塵の光が完全に取り除かれている前提で組まれている。そこに消し残りが混ざったまま計算させると、プログラムはそれを惑星自身の性質だと解釈してしまう。実際、残った塵の光が惑星の光の1%程度あるだけで、推定される惑星の半径は本来より5%小さく、雲の量は5割増しという答えが返ってきた。塵の光が惑星と同じ明るさになると、惑星は5割ほど大きく、大気はごく薄い、という現実とかけ離れた姿が出てくる。

短い波長ほど強く散乱される「レイリー散乱」の傾きも、1ゾディの塵を消さないままだと最大33%ゆるくなる。この傾きは大気の平均分子量を推定する手がかりなので、傾きが鈍れば、実際より重い分子でできた大気だと読み違える恐れがある。つまり、酸素や水があるかどうかの判定を誤るだけでなく、惑星の大きさや空模様まで、もっともらしい嘘の値に置き換わりうるということだ。

それでも打つ手はある

ここは強調しておきたいのだが、研究チーム自身が対策を並べているとおり、これは「生命探しは不可能」という話ではまったくない。

いちばん直接的なのは、塵の光を引き算する処理の精度を上げることだ。ただし要求水準は高い。数ゾディの塵がある惑星系で分子の量まで測ろうとすると、塵の光を100分の1から1000分の1まで落とす必要がある。既存の手法は、円盤を真上から見る配置なら1000ゾディでも対応できる一方、傾いた配置には弱く、塵にムラがある場合は3ゾディ・傾き60度あたりが限界とされる。ランダムな向きを仮定すると候補の半分ほどは60度以上傾いた配置になるので、ここは今後の課題として残る。

もうひとつは、目標を下げるという手だ。「この分子がどれだけあるか」ではなく「あるかないか」の判定でよければ、必要な精度は一桁ゆるくなる。水蒸気の検出はこれで十分手が届く範囲に入る。あわせて分光の解像度を上げると、細かい吸収線の構造まで拾えるようになり、谷が見かけ上深くなる。解像度を上げることは、塵の除去と信号対雑音比の両方の要求を同時にやわらげてくれる。

そして、そもそも塵の少ない星系を選ぶ。近い星ほど惑星が明るく写るので条件がよく、たとえば20パーセクの惑星は10パーセクの惑星に比べて、要求される除去精度が4倍きつくなる。HWOが動き出す前に、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡やナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡、地上の装置で近傍の星系の塵を測っておけば、狙い先を絞り込める。惑星の大気を読む前に、その星系にどれだけ塵があるかを先に測っておく——それが、この研究がいちばん言いたかったことだ。

解釈上の留意点

いくつか押さえておきたい点がある。まず、この論文は専門誌 The Astronomical Journal に採択済みで、arXivで公開されているのは掲載前の版だ。査読前の速報ではないが、掲載時に細部が変わる可能性はある。

50%や3倍といった数値は、シミュレーションによる見積もりであって実測ではない。仮定も具体的で、太陽そっくりの恒星、1天文単位を回る地球サイズの惑星、10パーセクの距離、口径7.2メートルの望遠鏡といった条件のもとでの計算になる。条件が変われば数字も動く。

また、系外黄道光ダストの実態は、まだよくわかっていない。組成も、粒の大きさの分布も、粒の形も、太陽系の塵と同じとは限らない。だからこそ研究チームは灰色・青・赤・太陽系型という複数のモデルを並べて計算しているわけで、どれが現実に近いかは今後の観測を待つことになる。

最後に、対象はあくまでHWOという構想段階の望遠鏡で、まだ打ち上げられてはいない。この研究は、その設計や観測計画に反映させるために、いま問題を洗い出しておこうという性格のものだ。塵は障害であると同時に、岩石惑星がそこにある証拠にもなりうる。目当ての惑星のありかを示してくれるものが、そのまま視界をにごらせている——生命探しは、そういう込み入った条件のもとで進んでいく。

出典

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