中国の天問2号、地球の“準衛星”カモオアレワに到達――10億kmの旅の末に

宇宙・天文
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中国の探査機・天問2号(てんもん2ごう)が、地球の“準衛星(じゅんえいせい)”と呼ばれる小さな小惑星にたどり着きました。約10億km、400日をかけた旅の末に、目標天体の20kmほど手前まで近づいたのです。準衛星と呼ばれるタイプの天体に探査機が到達したのは、これが初めてです。

準衛星という珍しい天体

相手は「2016 HO3」、正式には「カモオアレワ」という名前がついた小惑星です。ハワイ語で「揺れ動く天のかけら」といった意味の名前で、2016年4月にハワイのパンスターズ望遠鏡が見つけました。差し渡しは数十メートルほどの、宇宙のスケールでいえばごく小さな岩のかたまりです。

おもしろいのは、その動き方です。カモオアレワは地球のまわりを回る月のような「衛星」ではありません。太陽のまわりを回る小惑星で、公転の周期がちょうど1年ほどと地球にそっくりなため、地球とほぼ足並みをそろえて動いています。地球から見ると、地球のそばをぐるぐると回りながらついてくるように見える——これが準衛星(quasi-satellite)です。地球の重力にがっちり捕まっているわけではなく、あくまで太陽を回りながら、たまたま地球と近い軌道で並走している、という関係になります。

この状態はずっと続くものではありません。研究チームによると、カモオアレワが今の準衛星の状態になったのは100年ほど前で、あと300年ほどでこの並走からも外れていくと見られています。地球からの距離はおおむね0.1〜0.3天文単位(太陽と地球の距離を1とした単位。0.1AUで約1500万km)を保っていて、既知の準衛星の中では最も地球に近く、最も安定した相手だとされています。地球のご近所にあるこうした準衛星は、これまでに7つしか見つかっていません。それだけレアな天体です。

到達までの400日

天問2号は2025年5月29日、中国の西昌(せいしょう)衛星発射センターから打ち上げられました。そこから深宇宙での軌道修正を何度も重ねながら、約10億kmの距離を400日かけて詰めていきます。

接近の最終盤は、じわじわとした追い込みでした。探査機が2016 HO3をとらえたのが6月6日。翌7日には3万kmの距離で捕捉制御をおこない、小惑星と足並みをそろえた並走飛行に入ります。6月19日には2000kmまで距離を縮め、7月2日に約20kmの地点へ到達しました。中国国家航天局(CNSA)が到達を発表したのは7月6日で、あわせて小惑星の初のクローズアップ画像も公開しています。

ただ近づいただけではありません。探査機自身が撮った画像をもとに小惑星の位置を計算し直したことで、これまで地上からの観測だけでは数百kmの誤差があった位置の精度が、数kmまで一気に絞り込まれました。これから小惑星の形・表面の成分・内部の構造を詳しく調べる、本格的な科学観測の段階に入ります。

狙いはサンプルの持ち帰り

天問2号の最大の目的は、この小惑星の表面から試料(サンプル)を採り、地球に持ち帰ることです。持ち帰りを狙う量は最低でも100グラム。うまくいけば、日本の「はやぶさ2」やNASAの「オサイリス・レックス」に続く、小惑星からのサンプルリターンになります。

採取のやり方は、状況に応じて複数を使い分ける想定です。ひとつは、探査機が表面に一瞬だけ触れて試料をかすめ取る「タッチ&ゴー」。はやぶさ2などが使った方式です。もうひとつは、ドリルのついた腕を表面に打ち込んで機体を固定し、じっくり掘る「アンカー&アタッチ」で、深宇宙ではまだ実際に試されたことのない新しい手法とされています。

もっとも、相手は一筋縄ではいきません。カモオアレワは30分ほどで1回転する、探査機が試料採取を試みた小惑星の中でもかなり速い自転をしています。しかも表面が硬い岩の塊なのか、細かい石が寄り集まった“がれきの山”なのか、行ってみるまで分かりません。どの採取方式が使えるかは、これから20kmから徐々に高度を下げて表面を調べていく中で判断されることになります。

月のかけら説と、これから

この小惑星がとくに注目される理由は、その正体がまだ謎に包まれているからです。候補として挙がっているのは、もともとこの近くでできた、地球の重力に一時的に捕らえられた、あるいは大昔に月に何かが衝突したときに月の表面から吹き飛ばされたかけらである、という三つの説です。実際、地上の観測ではカモオアレワの光の反射のしかたが月の岩に近いという指摘もあり、「月のかけら」説が話題になってきました。表面の岩を持ち帰って詳しく分析できれば、この長年の議論に決着がつくかもしれません。

今後の予定では、天問2号は数か月かけて観測と採取をおこない、2027年に試料の入ったカプセルを地球へ届ける計画です。そしてカプセルを切り離したあとは、そのまま旅を終えるのではなく、地球の重力を使って進路を変え、火星より外側の小惑星帯にある彗星「311P」を目指します。到着は2030年代半ばの見込みです。ひとつの探査機で小惑星と彗星の両方を間近に調べる、という欲張りな計画になっています。

まだ確定していないこと

盛り上がる一方で、慎重に見ておきたい点もあります。まず、この小惑星の大きさがまだはっきりしていません。地上からの観測では数十メートル(40〜100mという幅の推定もありました)とされ、ミッション側の説明では30mほどとされてきましたが、今回CNSAが公開した接近画像からは20mあまりと、事前の見立てより小さい可能性が出ています。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測をもとに18mほどと見積もった研究もありますが、こちらは査読前の段階の論文です。実際のサイズは、これからの近接観測ではっきりしてくるはずです。

もう一つ、この探査機については中国側からの軌道情報の公開が限られており、接近の様子はドイツやオランダのアマチュア無線天文家が電波を追って確かめていた、という経緯もあります。公式発表を待ちながら情報を確かめていく必要がある、という点は頭の隅に置いておくとよさそうです。

それでも、地球の準衛星というレアな天体に人類の探査機が初めてたどり着いたこと自体が、大きな一歩です。持ち帰った岩が「月のかけら」なのかどうか、その答えが出るのは2027年以降。楽しみに待ちたいところです。

出典・もっと知りたい人へ

元記事(Sci.News):
China’s Tianwen-2 Spacecraft Reaches Earth’s Quasi-Moon after One Billion-Kilometer Journey

ミッション論文(Space Science Reviews・査読済み):
Tianwen-2 Mission of China’s Planetary Exploration Program

初画像と到達の解説(SpaceNews):
Tianwen-2 arrives at asteroid Kamoʻoalewa, first image revealed

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