ヨーロッパの気候を支える海流「AMOC」、今世紀末に約半分まで弱まる推定

気候・環境科学
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大西洋には、熱帯の暖かい海水を北へ運ぶ大きな海の流れがあります。ヨーロッパの冬をやわらげているのも、この流れのおかげです。その流れが、これまで考えられていたより強く弱まるかもしれない——2026年4月にフランスの研究チームが発表した論文が、そう指摘しました。数字にすると、今世紀末までにおよそ半分まで落ちる、という推定です。

大西洋を回る海のコンベアベルト

この流れは、正式には「大西洋子午面循環(AMOC)」と呼ばれます。名前は難しいですが、やっていることはシンプルです。赤道あたりの暖かくて塩分の濃い海水が海面近くを北へ進み、北大西洋で冷えて重くなり、深いところへ沈む。沈んだ水は深層をゆっくり南へ戻っていく。この大きな輪が、休みなく回り続けています。ぐるっと一周するのに数百年かかる、とてもゆっくりした循環です。

この循環が大事なのは、熱を運んでいるからです。赤道の熱を北大西洋まで運び、そこで大気に放している。だからヨーロッパは、同じくらいの緯度のほかの地域にくらべて冬が穏やかです。コンベアベルトのように熱を北へ届けている、と言われるのはこのためです。

想定より強い弱まりという推定

地球温暖化が進むとこの循環が弱まる、というのは以前から予想されていました。ただ、「どのくらい弱まるのか」は、研究者のあいだでも数字がなかなか定まりませんでした。標準的な気候モデルをたくさん集めて平均すると、今世紀末までにおよそ3分の1(32%、ただし誤差の幅が大きい)ほど弱まる、というのがこれまでの見立てです。

今回の研究は、この数字をもっと絞り込もうとしました。結論は、今世紀末までに約51%(誤差はプラスマイナス8%)弱まる、というもの。範囲でいうと、だいたい43〜59%です。モデルの平均が示していた弱まりより、およそ6割ぶん強い、という計算になります。つまり、これまでの平均的な見立てより、事態はやや深刻かもしれない——というのが今回の中身です。

観測データでモデルを選び直す手法

では、どうやってこの数字を出したのでしょうか。ポイントは、モデルの予測を「そのまま平均しなかった」ことです。

気候モデルは、同じ未来でもかなり幅のある答えを出します。AMOCについても、ほとんど弱まらないと予測するモデルから、大きく弱まると予測するモデルまでさまざまです。それを単純に平均すると、実際より穏やかな見通しになってしまうことがあります。

そこで研究チームは、「観測制約」という考え方を使いました。海面の塩分や水温といった、実際に観測できるデータと照らし合わせて、現実の海によく合っているモデルを重く見る、という方法です。四つのやり方を試し、いちばん誤差の小さかったものを採用しました。すると、現実の海に近いモデルほど強い弱まりを示していた——そこから、これまでの平均より深刻な数字が浮かび上がってきたわけです。

この修正のカギになったのが、南大西洋の海面塩分でした。従来のモデルはこの部分にかたより(バイアス)があり、そこを補正したことで、循環が想定より弱くなる方向に推定が動いたとされています。

弱まると考えられる影響

この循環が弱まると、熱を北へ運ぶ力も落ちます。研究や関連する報道で挙げられているのは、西ヨーロッパで冬が今より寒くなり夏に干ばつが起きやすくなること、熱帯の雨の降り方が変わること、大西洋沿岸の一部で海面上昇がさらに進むことなどです。地球全体が暖かくなっているのに、一部の地域はかえって寒くなりうる、という少しややこしい話でもあります。

もう一つ気になるのが、「ティッピングポイント(後戻りしにくくなる境目)」の存在です。AMOCは、しっかり動いている状態と、ほぼ止まった状態という二つの安定した状態を持つ仕組みだと考えられています。いったんもう一方へ切り替わると、元に戻るのに数千年かかる可能性があるとも言われます。ただし、その境目がどこにあるのかは、まだわかっていません。リード著者のポルトマン氏自身も、今回の想定以上の弱まりは「その境目に近いのかもしれない、としか言えない」と慎重な言い方をしています。

「崩壊」とは切り分けて読む

ここは誤解されやすいので、はっきり分けておきます。今回の論文が推定したのは、あくまで「今世紀末までにどれくらい弱まるか」です。「いつ崩壊(停止)するか」や「崩壊する確率」を出した研究ではありません。

循環がほぼ止まる「崩壊」の確率については、別の研究が数字を出しています。2025年の研究では、気候モデルを2100年より先まで延長して計算したところ、排出量が多いシナリオで約67%、中程度のシナリオで約30%の計算例でAMOCの停止が起きた、と報告されました。今回のPortmann論文の話と、こうした崩壊シナリオの研究は別ものなので、混同しないほうが正確です。

また、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は2021年の報告書で、AMOCは今世紀中に「非常に高い確率で弱まる」としつつ、「2100年より前に崩壊することはないだろう」とも(中程度の確信度で)述べています。今回の研究はそのなかで、弱まりの度合いを従来より強めに見積もった、と位置づけるのが実態に近いでしょう。

最後に前提を一つ。これはScience Advancesに載った査読ずみの論文ですが、中身はモデルと統計にもとづく推定です。将来の排出量しだいで結果は動きますし、研究チームも数字の幅(誤差)を明記しています。「こうなると決まった」という話ではなく、「これまでの平均より強く弱まるかもしれない、という有力な見立てが一つ増えた」と受け取るのがちょうどよさそうです。

出典・参考リンク

元論文(Science Advances, 2026年4月15日):Observational constraints project a ~50% AMOC weakening by the end of this century(Portmann et al.)(DOI: 10.1126/sciadv.adx4298)

解説記事:BBC Science Focus の報道Science News の報道

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