天の川銀河に「最強の天然加速器」が確定——LHCの150倍のエネルギー

科学・宇宙
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夏の夜空を見上げると、頭の真上あたりに「夏の大三角」が見える。その一角をなす、わし座の一等星アルタイル。この星の近くの方角に、地上のどんな装置もかなわない「天然の粒子加速器」が潜んでいる——そんな天体の正体に、広島大学が主導する研究チームが決着をつけた。

天体の名前は「LHAASO J1912+1014u(ラーソ・ジェイ1912プラス1014ユー)」。この天体が、陽子を桁違いのエネルギーまで加速する本物の「ペバトロン(PeVatron)」だと確認されたという発表だ。研究成果は2026年7月16日付で、天文学の専門誌『The Astrophysical Journal』に掲載された(査読済み)。

宇宙を飛び交う高エネルギー粒子「宇宙線」

まず前提から。宇宙空間には「宇宙線」と呼ばれる粒子が絶えず飛び交っていて、地球にも降り注いでいる。その正体は大部分が陽子——原子の中心にある、おなじみの粒子だ。ただし、ただの陽子ではない。何かの拍子にとてつもないエネルギーを与えられ、ほぼ光の速さで飛んでいる。

そのエネルギーがどれくらいかというと、天の川銀河の中で生まれる宇宙線の最高クラスは「1ペタ電子ボルト(PeV)」に達する。ペタは「1000兆」を表す単位だ。比較のために、人類が作った最大の加速器・LHC(大型ハドロン衝突型加速器)を持ち出すと、全周27kmの巨大なリングと莫大な電力を使って陽子に与えられるエネルギーが約7兆電子ボルト。1ペタ電子ボルトはその約150倍にあたる。人類の技術の粋を集めた装置をはるかに超えるエネルギーを、宇宙のどこかが「自然に」生み出しているわけだ。

陽子をこのペタ電子ボルト級まで加速する天体は、加速器になぞらえて「ペバトロン」と呼ばれる。どこにあるのか、正体は何なのか——これは現代の天文学に残された大きな謎のひとつで、候補の天体は見つかっているものの、「本物のペバトロンだ」と言い切れた例はほとんどなかった。

2024年の発見と残された宿題

今回の主役LHAASO J1912+1014uは、2024年に中国の高地に設置された観測施設LHAASOなどによって見つかった。わし座のアルタイルに近い方角にあり(といっても近くに見えるのは方角の話で、実際にはずっと遠くにある)、空の上では満月より大きく広がって見える。差し渡しは1度以上、満月2個分を超える大きさだ。

この天体からは、100兆電子ボルトを超える非常に高エネルギーのガンマ線が届いていた。ガンマ線は光の仲間のうちもっともエネルギーの高いもので、加速された粒子が周囲の物質にぶつかったときの「副産物」として生まれる。生まれたガンマ線は、もとの粒子のおよそ10分の1のエネルギーを受け継ぐ。つまり100兆電子ボルト超のガンマ線が見えたということは、その親にあたる粒子は1000兆電子ボルト——ペタ電子ボルト級だったことになる。ペバトロンの有力候補というわけだ。

ところが、ここでひとつ宿題が残った。この手のガンマ線を作れるのは、加速された陽子だけではないのだ。高速の電子も、周囲の光を弾き飛ばすことでよく似たガンマ線を作れる。そして電子の加速なら、超新星爆発の残骸やパルサー(高速回転する中性子星)のまわりなど、比較的よく知られた現象でも起こりうる。発見当時の観測装置では画像の解像度が足りず、「陽子由来か、電子由来か」を見分けられなかった。本物のペバトロン認定には、この区別が欠かせない。

三つの観測装置による決着

そこで水野恒史(みずの・つねふみ)准教授(広島大学宇宙科学センター)らの研究チームがとった作戦は、性格の違う観測データを束ねることだった。使ったのは次の3つ。

1つ目は、NASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡。LHAASOが捉えたものより低いエネルギー帯のガンマ線を、より細かい解像度で観測できる。広島大学は搭載機器の開発・運用にも関わってきた。2つ目は、日本の野辺山45m電波望遠鏡による銀河面のガス探査「FUGIN(フギン)」。ガンマ線ではなく電波で、天体のまわりに星間ガスがどう分布しているかを地図にできる。3つ目は、NASAのチャンドラX線観測衛星。X線で天体を観測する。

この3つを組み合わせると、証拠が次々とそろっていった。

まず、ガンマ線のエネルギー分布。フェルミのデータを加えると、この天体のガンマ線は4億電子ボルトから100兆電子ボルト超まで、途切れなく滑らかにつながっていることがわかった。電子起源だとこの形を説明しにくく、エネルギーの面からまず電子説が苦しくなる。

次が決め手だ。フェルミが捉えたガンマ線の「地図」を、FUGINが描いた星間ガスの「地図」に重ねると、両者の分布がよく一致した。加速された陽子が周囲のガスに衝突してガンマ線を生んでいるなら、ガスの濃いところほどガンマ線も強くなるはず——まさにその通りの絵が出てきたことになる。ガンマ線とガス分布の一致は、陽子説を強く支持する証拠だ。

さらにチャンドラのX線観測では、広がったX線放射がごく弱いこともわかった。もし高速の電子が大量にいれば、ガンマ線と一緒にX線も放つはずなので、X線が弱いという事実は電子説をさらに追い詰める。

エネルギー分布、ガスとの一致、X線の弱さ。三つの証拠がそろって、ガンマ線の親は加速された陽子——つまりLHAASO J1912+1014uは本物の陽子ペバトロンだ、と決着した。水野准教授は発表の中で、「一本の矢は簡単に折れるが、三本束ねれば折れない」という古いことわざを引いている。戦国武将・毛利元就の「三本の矢」の逸話は広島ゆかりの話なので、広島大学の研究チームにはうってつけの引用かもしれない。

数十個の候補たちへの道筋

今回の成果のポイントは、ひとつの天体の正体がわかったことだけではない。天の川銀河には、ペバトロンの候補とされる天体がすでに数十個見つかっている。ただ、どれも「候補」止まりで、陽子由来か電子由来かの区別がつかないままだった。

今回の研究は、複数の波長のデータを束ねればその区別がつけられる、という実例を示した。つまり、残りの候補たちを一つひとつ検証していくための「型」が手に入ったことになる。研究チームも、今後ほかの候補天体を体系的に調べていく計画だという。候補の中から本物のペバトロンがいくつも確定していけば、「天の川銀河の宇宙線はどこで生まれているのか」という長年の謎の全体像に近づける。

解釈上の留意点

いくつか補足しておきたい。まず「粒子加速器」という呼び方はあくまで例えで、宇宙に装置があるわけではない。超新星爆発の残骸のような高エネルギーな天体現象が、衝撃波などを通じて粒子を加速していると考えられている。今回確定したのは「この天体が陽子をペタ電子ボルト級まで加速している」という点で、加速の舞台となっている天体そのものの素性(超新星残骸なのか、別の何かなのか)については、引き続き研究が進められていくテーマだ。

また、「LHCの約150倍」という比較は、天の川銀河の宇宙線の最高クラス(1ペタ電子ボルト級)とLHCの陽子エネルギーを並べたもの。宇宙全体に目を向ければ、銀河の外からやってくる宇宙線にはさらに桁違いのエネルギーを持つものもある。天然の加速器の上には、まだ上があるということだ。

出典

この記事は、広島大学のプレスリリースと掲載論文をもとに書いています。より詳しく知りたい方は、以下のリンクからどうぞ。

・広島大学プレスリリース(英語):A source of extremely high-energy particles in the Milky Way identified
・掲載論文(The Astrophysical Journal・2026年7月16日):Hadronic Scenario for Galactic PeVatron LHAASO J1912+1014u Supported by Fermi-LAT γ-ray Data and FUGIN CO Data
・解説記事(Universe Today・英語):The Milky Way’s Most Powerful Particle Accelerator

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