ユーロ紙幣が24年ぶりの全面刷新へ、「川と鳥」と「欧州の文化」10案が出そろう

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欧州中央銀行(ECB)が2026年7月23日、次のユーロ紙幣のデザイン候補10案を公開しました。あわせて、どの案が好きかを尋ねるオンライン調査も始まっています。2002年にユーロ紙幣が世に出てから、絵柄を丸ごと入れ替えるのはこれが初めてです。

候補は「欧州の文化」と「川と鳥」という2つのテーマに分かれています。100ユーロ札にレオナルド・ダ・ヴィンチが載る案もあれば、10ユーロ札にカワセミが載る案もある、という対照的な並びです。

前提を少しだけ補っておくと、ユーロはEU加盟27か国のうち21か国が使う共通通貨で(2026年1月にブルガリアが加わりました)、およそ3億5000万人の財布に入っています。ECBはそのユーロを預かる中央銀行にあたり、紙幣の発行とデザインの決定を担っています。

現行紙幣の意匠と今回の位置づけ

いま流通しているユーロ紙幣のテーマは「時代と様式(Ages and styles)」です。表には窓と門、裏には橋が描かれ、古典様式からロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロックとロココ、鉄とガラスの時代、20世紀のモダン建築まで、時代ごとの建築様式をあらわしています。

ただし、描かれている建物はどれも実在しません。特定の国の名所を載せると「なぜうちの国のものがないのか」という話になるため、様式だけを借りた架空の意匠にした、という経緯があります。2013年から順次切り替わった第2シリーズ(ユーロパ・シリーズ)では偽造防止の仕組みが新しくなりましたが、建築というテーマ自体はそのまま引き継がれました。

つまり今回は、絵柄の細部を直すのではなく、何を描くかという土台から取り替える話です。ユーロ紙幣にとっては24年ぶり、発行以来はじめての全面刷新にあたります。

テーマ選定までの経緯

下地になったのは2023年に行われた一般向けの意見聴取でした。ラガルド総裁によれば、このときは36万5000人を超えるヨーロッパの人々が回答を寄せ、多くの候補テーマのなかから「川と鳥」と「欧州の文化」の2つが浮かび上がってきたといいます。

これを受けてECB理事会は2025年1月、2つのテーマと、それぞれを表すモチーフを正式に決めました。正式名称は「欧州の文化——共有される文化的空間」と「川と鳥——多様性のなかの回復力」です。どちらか一方に絞り込まず、両方を並走させたまま最終段階まで持ってきたのが今回の特徴といえます。

「川と鳥」テーマの6種

自然側のモチーフは、ヨーロッパで見られる6種の鳥です。5ユーロ札は山あいのカベバシリ、10ユーロ札は滝のそばのカワセミ、20ユーロ札はヨーロッパハチクイの群れ、50ユーロ札は蛇行する川の上を飛ぶシュバシコウ、100ユーロ札は干潟をわたるソリハシセイタカシギ、200ユーロ札は大波の上を飛ぶシロカツオドリ、という割り当てになっています。

この6種を、案によってさまざまな形でまとめています。たとえばフィンランドのVille Tietäväinen氏の案は、金額が上がるほど絵が川の源流から海へ近づいていくという構成で、5ユーロから200ユーロまで並べると一本の川の物語として読めるようになっています。ドイツのPunktFormStrich(プンクトフォルムシュトリッヒ)の案はもっと図鑑的で、鳥の鳴き声を横棒の並びに、飛行速度を縦の目盛りに置き換えて紙面に組み込んでいます。

「欧州の文化」テーマの6人

文化側は、実在した6人の人物が金額ごとに割り当てられています。5ユーロ札は20世紀を代表するソプラノ歌手マリア・カラス、10ユーロ札は『第九』のベートーヴェン、20ユーロ札はラジウムとポロニウムの発見に関わったマリー・キュリー、50ユーロ札は『ドン・キホーテ』のセルバンテス、100ユーロ札はレオナルド・ダ・ヴィンチ、200ユーロ札は1889年に反戦小説『武器を捨てよ』を書き、ノーベル平和賞の創設を後押ししたオーストリアの作家ベルタ・フォン・ズットナーです。

ただし、どの案も肖像画をそのまま大きく載せているわけではありません。裏面には図書館や合唱、学校、広場といった「みんなが使う文化の場」が描かれ、そこにいる人々の顔はあえて描き込まれていない案もあります。誰か特定の人物ではなく、読み手が自分を重ねられるようにという狙いです。オランダのStudio Joost Grootensの案にいたっては、人物の顔全体ではなく目と口だけを取り出し、「見ること」と「語ること」という文化をつくる営みそのものを表そうとしています。

1200件超から10案への絞り込み

10案が出てくるまでの道のりも、なかなか長いものでした。ECBはEU全域を対象にデザインコンペを実施し、グラフィックデザイナーから1200件を超える応募を集めています。そこから25組が選ばれ、片方または両方のテーマで実際の案を制作しました。

審査にあたったのは、ユーロ圏の各国中央銀行が1人ずつ指名した21人の独立した専門家です。顔ぶれにはグラフィックデザインやコミュニケーションの専門家だけでなく、神経科学や歴史の研究者も含まれています。紙幣は世界でもっとも多くの人が毎日目にする印刷物のひとつなので、「見た瞬間にどう認識されるか」まで含めて検討されたということでしょう。この21人が10案まで絞り込みました。

意見調査の位置づけと今後の日程

ここが誤解されやすいところですが、今回の調査は多数決で当選案を決める投票ではありません。オンライン調査は2026年9月21日まで開かれていて、これと並行して、独立した調査会社がユーロ圏市民の代表サンプルに同じ質問をぶつける調査も行われます。

ECB理事会が最終的に1案を選ぶのは年末ごろの見込みで、判断材料は審査員団の結論、技術面の評価、そして2つの調査結果を組み合わせたものになるとされています。市民の声は重要な要素のひとつではあるものの、それだけで決まるわけではない、という立て付けです。

選ばれたあとも、すぐに刷り始められるわけではありません。デザインをさらに詰め、テストを重ね、それから製造に入ります。新しい紙幣が実際に出回るのは「その後数年のうちに」とだけ示されていて、具体的な時期はまだ決まっていません。切り替わったあとも、いまの紙幣は価値を失わず、新シリーズと並んで使い続けられます。

刷新に込められた実務的な狙い

絵柄の話が目立ちますが、紙幣を定期的に作り替えること自体には現実的な理由があります。印刷や複製の技術は年々進んでいて、偽造する側も情報や材料を手に入れやすくなっています。新しいシリーズを出すたびに最新の偽造防止技術を取り込むのは、各国の中央銀行が普通に行っていることです。

今回はあわせて、本物かどうかを確かめやすくすること、目の見えない人・見えにくい人にも識別しやすくすること、そして耐久性を上げたりより持続可能な材料や製造方法を使ったりして環境への負荷を減らすことが目標に挙げられています。ECBのチポローネ理事は、この刷新を「現金が安全で効率的で身近な支払い手段であり続けるための長期的な取り組みの一部」と説明しています。キャッシュレス化が進むなかでも、公的なお金に誰もが触れられる状態は残す、という考え方です。

解釈上の留意点

今回公開されたものは、あくまで案です。ECBは「示されている要素が、そのままの形で最終的な紙幣に載るとは限らない」とはっきり断っています。コンペのガイドラインはECBが示したものの、できあがった表現はデザイナーの創作であり、その内容についてECBは責任を負わない、という立て付けになっている点も押さえておきたいところです。

反応も一色ではありません。SNS上では鳥の案を推す声が目立つ一方で、文化テーマに選ばれた6人の国籍が偏っているのではないかという指摘や、そもそも新しい紙幣を刷る必要があるのかという声も出ています。年末の決定に向けて、まだしばらく議論が続きそうです。

出典

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