南極のペンギンの羽から16種類の「永遠の化学物質」——32枚すべてで検出

環境
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南極半島の3か所で集めたペンギンの羽を調べたところ、調べたすべての羽からPFAS——いわゆる「永遠の化学物質」——が検出された。38種類を狙って測定し、16種類が見つかっている。工場も農地も、常住する住民もいない大陸での話だ。

ジョージ・メイソン大学のマシュー・バディア氏らによる研究で、2026年7月6日付で学術誌 Environmental Toxicology and Chemistry(米環境毒性化学会 SETAC の学会誌)に掲載された。査読は通っている。

ただ、中身に入る前に押さえておきたい前提が2つある。ひとつは、分析に使われた羽が2013年に採取されて保管されていた標本だということ。論文のタイトルにも「archived(保管された)」と入っている。もうひとつは、そのPFASがペンギンの体に何をしているのかを、この研究はまったく調べていないということ。検出されたことと、害が出ていることは別の話だ。

「永遠の化学物質」と呼ばれる背景

PFAS(ピーファス/有機フッ素化合物)は、炭素とフッ素が強く結びついた構造を持つ人工の化学物質の総称だ。1930年代末にデュポン社がPTFE(商品名テフロン)を作ったのが始まりで、1950年代には3M社が量産に乗り出した。熱にも水にも油にも強く、フライパンのコーティング、防水衣料、食品包装、泡消火剤など、身のまわりのあちこちに入っている。

厄介なのは、その丈夫さがそのまま「壊れなさ」になるところだ。炭素とフッ素の結合は自然界でほとんど分解されない。だから一度環境に出ると、何十年も形を保ったまま残りつづける。「フォーエバーケミカル(永遠の化学物質)」という呼び名はここから来ている。

生産量は世界で年間100万トンを超える。人の血液からPFASが確認されたのは1970年代、野生生物で最初に見つかったのは1979年、米テネシー川の魚だった。日本でも他人事ではなく、2026年4月1日からPFOSとPFOAが水道水の「水質基準項目」に格上げされ、合算で1リットルあたり50ナノグラム以下を守ることが水道事業者の法的義務になっている。それまでは努力義務にとどまる暫定目標値だった。

羽が分析対象に選ばれる理由

鳥の羽は、汚染物質の調査でよく使われる材料だ。理由は2つある。

ひとつは化学的な相性。羽はケラチンというタンパク質でできていて、PFASにはタンパク質と結びつきやすい性質がある。だから体内をめぐったPFASの一部が、羽が伸びるときにそちらへ移ってくる。重金属やPCB(ポリ塩化ビフェニル)の調査でも、同じ理屈で羽が使われてきた。

もうひとつは、鳥を傷つけずに集められること。今回の研究でも、コウテイペンギンとジェンツーペンギンの羽は繁殖地の地面に落ちていた抜け羽を拾っている。まだ羽が伸びている最中だったアデリーペンギンの幼鳥だけは、短時間おさえて採取した。採取手順はチリのコンセプシオン大学の審査を受け、同国の動物実験に関する法規(米国のIACUCに相当する仕組み)に沿って行われている。

ただし、羽は体の中をそのまま映す鏡ではない。羽の濃度と肝臓など内臓の濃度の対応は化合物ごとにばらつきがあるし、外から付着した汚れが混ざる問題もある。今回は水とヘキサンで洗ってから分析し、その洗浄液のほうも別に測っている。実際、洗浄液からもPFASは出ている。

種ごとに分かれた検出濃度

調べたのは3種だ。ポーランドのアルクトフスキ基地(キングジョージ島)でアデリーペンギンの幼鳥、コパイティック島でコウテイペンギンの成鳥、チリのオイギンス基地でジェンツーペンギンの成鳥。3か所はいずれも南極半島の先端付近にあり、互いに130キロほどの範囲に収まっている。羽の点数は合わせて32枚(アデリー10、ジェンツー12、コウテイ10)。

結果として、32枚すべてからPFASが検出された。検出率100%である。16種類を合算した濃度(乾燥重量1グラムあたり)の中央値は、コウテイペンギンが136.8ナノグラム、ジェンツーペンギンが110.5ナノグラム、アデリーペンギンが77.8ナノグラム。ナノグラムは10億分の1グラムなので、羽1グラムあたり100ナノグラム前後というのは、重さの比でいうと1000万分の1くらいにあたる。

もう一段細かく見ると、コウテイペンギンだけばらつきが大きい。平均値は174.4ナノグラムと中央値からだいぶ跳ね上がり、いちばん高い個体は336.2ナノグラムだった。数個体の高い値が平均を引き上げている。アデリーとジェンツーは個体差が小さく、中央値と平均値がほぼ重なる。

なお、上に書いた水道水の基準値(1リットルあたり50ナノグラム)とは、測っている対象が違う。羽の乾燥重量あたりと水の体積あたりなので、数字を並べて比べることはできない。

主役から外れたPFOS

検出された16種類のうち9種類(PFPeA、PFHxA、PFHpA、PFOA、PFNA、PFDA、PFPeS、PFHpS、ADONA)は、3種すべてから見つかっている。残りは種によって出たり出なかったりで、たとえばN-メチル過フルオロオクタンスルホンアミドエタノールという化合物は、コウテイペンギンからしか検出されなかった。

意外だったのは、その顔ぶれのほうだ。

環境汚染の文脈でいちばん名前の挙がるPFASはPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)だが、ペンギンの羽ではこれが主役ではなかった。目立ったのは炭素の鎖が短いカルボン酸系——PFPeA、PFHxA、PFHpA、そしてPFOA(ペルフルオロオクタン酸)で、なかでもPFOAはほぼすべての羽で最も濃度の高い成分だった。PFOSにいたっては、アデリーペンギンの羽からは1枚も検出されていない。ジェンツーとコウテイでは、ほぼ全ての羽から出ているにもかかわらず、である。

血液(血漿)を調べた過去の研究では、これとは違う分布が報告されている。研究チームは、PFASが体内で「脂の多い組織」と「タンパク質の多い組織」に分かれて溜まる性質を持ち、羽にはタンパク質と結びつきやすいものが優先的に移るのではないか、と説明している。つまり、羽で見えるPFASと血で見えるPFASは同じではない。羽の数字だけで体全体の負荷を語れない理由でもある。

採餌行動との対応関係

では、なぜ種によって差が出たのか。論文が挙げているのは、食べる量・食べるもの・潜る深さの違いだ。

上の図の左端、いちばん浅いところにいるのがアデリーペンギンだ。体重は3〜6キロほど。主食はナンキョクイワシ(南極海にすむ小魚)と小型の甲殻類で、潜る深さは平均26メートル、深くても98メートルほどにとどまる。今回のサンプルは幼鳥で、親が持ち帰った餌を吐き戻してもらって食べる立場だ。20〜33時間おきに、1日あたり少なくとも300グラム前後。親の体が先にPFASの一部を取り込んでしまうぶん、ヒナまで届く量は減る、というのが研究チームの見立てになる。

真ん中がジェンツーペンギン。体重5〜8キロで、手に入るものを何でも食べる日和見型だ。1日あたり少なくとも700グラム。岸から30キロ以内で採餌し、平均40メートルほどまで潜る。

右端のコウテイペンギンは、繁殖前で40キロに達する最大種。魚、オキアミ、頭足類——とくに南極海にすむイカの一種(Psychroteuthis glacialis)——と獲物の幅が広く、繁殖期のメスは1日1.8キロを必要とする。潜水は日常的に400メートル、記録では500メートルに及ぶ。

ここが面白いところで、深い海水のほうがPFAS濃度は低いと考えられている。だから深く潜るコウテイペンギンは、むしろ薄い水域で採餌していることになる。それでも数字はいちばん高かった。食べる量が他の2種の2〜3倍あり、しかも食物連鎖の上のほうにいる大きな獲物を食べる——その2つが、深く潜ることの効果を打ち消していた、というのが論文の解釈だ。

ただし、ここは慎重に読む必要がある。

論文自身が明記しているとおり、この研究では各個体が実際に何を食べていたか(胃の内容物や安定同位体比)も、体内に溜まっているPFASの量も測っていない。だから「種の違い」は「採餌の違い」の代役として置かれているだけで、食性が原因だと証明されたわけではない。研究チームはこれを、もっともらしい生態学的な説明であって決定的な因果ではない、とはっきり書き分けている。

加えて、3種はそれぞれ別の場所で採取され、しかもアデリーだけ幼鳥、他の2種は成鳥という組み合わせになっている。種と場所と年齢がひとまとまりで動いてしまうので、どれがどれだけ効いているかは、このデータからは切り分けられない。

南極への到達経路

工場も人の暮らしもない大陸に、なぜ工業由来の化学物質があるのか。

研究チームは、羽から出たPFASの構成比を、南極周辺の海水と雪について過去に報告されている構成比と突き合わせている。すると、海水とは相関係数0.61、雪とは0.82という、それなりに強い対応が出た。羽の中身は、周りの海と雪の中身を反映しているということだ。

ペンギンは海水を飲む。目の上にある塩類腺で余分な塩を排出できるので、飲んでも支障がない。海水そのものと、海水から獲物、獲物からペンギンへ——この2つが主な入り口だろう、というのが論文の見立てだ。そしてその海水や雪にPFASが乗ってくる過程は、上の図のように大気を通じた長距離輸送と海流によるものと考えられている。

ただし、もうひとつ見落とせない話がある。

コウテイペンギンからだけ検出されたN-メチル過フルオロオクタンスルホンアミドエタノールのような「前駆体」は、南極の大気からはごくわずかに検出されるものの、南極海の水からはまとまった量が見つかっていない。餌経由で入ってきたとは考えにくい。論文はここで、近くの研究基地からの局所的な放出の可能性に触れている。南極半島は多数の観測基地が並び、観光船がもっとも多く訪れる地域でもある。「工場も人もいない場所」というより、南極のなかでは人の出入りが多い場所なのだ。近場の発生源は否定できない、と論文もはっきり書いている。

解釈上の留意点

いちばん大事な点から。この研究は、PFASがペンギンの健康に影響しているかどうかを一切調べていない。生理機能への影響も、繁殖への影響も、寿命への影響も、測定の対象外だ。検出された=害が出ている、ではない。ここを混ぜてしまうと、研究が言っていないことを言わせることになる。

次に、標本の年代。羽が採られたのは2013年の1〜2月で、そこから保管されていたものを今回分析している。したがってこれは「いまの南極」の姿ではなく、2013年時点の記録だ。研究チーム自身、この結果を今後の比較のためのベースライン(基準となる出発点)と位置づけている。

規模も控えめだ。羽32枚、3種、3か所。しかも3か所は130キロ圏内に収まっていて、南極大陸全体を代表するデータではない。

他の研究との比較にも注意が要る。同じ南極半島でジェンツーペンギンの羽を調べた2025年の研究(Celisら)と比べると、今回はPFOAとPFOSがおよそ10倍高い。論文はこれを、抽出方法の違い——今回はアルカリでケラチンを溶かす処理を挟んでいる——による可能性が高いと見ている。汚染が10倍になった、という話ではない。

最後に、羽の値と体全体の値の関係が、まだ十分に確立していない。とくに新しいタイプのPFASについては、羽と他の組織の対応を調べたデータがほとんどない。今回わかったのは「南極のペンギンの羽に、どんなPFASがどれくらいの割合で入っているか」であって、「ペンギンの体内にどれだけ溜まっているか」ではない。

それでも、38種類を狙って16種類が出て、32枚すべてから検出された、という事実は動かない。地球上でもっとも人から遠い環境のひとつにも、これらの化学物質は届いている。今回の研究が示したのは、その一点だ。

出典

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